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幼馴染と空白の再会


 肌寒さが無くなり、少しずつ蒸し暑い空気が肌に纏わりつくようになってきた頃。この頃には珍しい、転校生がやってくる事を聞いた。

 先生が外に呼び掛け、誰かがガラガラと扉を開けて教室に入ってくる。入ってきたのは一人の少女だった。

 黒の髪は長く腰まで伸びていて、冷たい雰囲気を身に宿す少女。俺は心臓が跳ねた。だって……。


 目の前の少女を俺は知っている。


空山風夏そらやまふうかと申します。よろしくお願いします」


 だけど、少女の目は俺を映していなかった。




「ふぁあ……」


 学校へ登校中、ウザいほどに青い空を眺めながら欠伸をする。なんだかどこかさみしい。

 誰か話す相手でも居てくれたらいいんだが……。


「おっす! 眠そうやなぁ蓮也?」


 校門前で話しかけてきたのは同じクラスの女の子。どこかエセくさい関西弁を使い、よく俺をおちょくってくるヤツだ。

 名前は田島凛桜たじまりお、ヒョウ柄のスカーフを首に巻いているのが特徴だ。

 ゲーセンが好きでよく入り浸ってるのを見掛ける。偶に誘われる分には行くこともあるけど、俺はあんまりゲームしないからなあ。


「逆にお前はなんでそんなに元気なんだよ……朝だぞ? 眠いに決まってる」


「ナハハ! 相変わらず朝は弱いんやなぁ!」


「うるせぇ……お前はホント元気だな」


 下駄箱で靴から上履きに履き替える。教室にたどり着くころには俺は目が覚めていた。


「お、起きたんか?」


「おぅ……おはよう」


「おはようさん! なあなあ、また今度ゲーセン行こうやぁ」


「いいけどさあ、また負けそうになったからって邪魔すんなよ?」


 そう。実はコイツと数週間前にゲーセンに行ったんだが、もう散々だった。格ゲーではボコボコにされるし、飛び入り参加で別プレイヤーをボコボコにしたら喧嘩になりかけたし……。

 ダンスゲームでめちゃくちゃ踊るから視線が多すぎでヤバかったし、すげぇ恥ずかしかったんだよな。しかもコイツ、すぐ帰るとか言って結局帰ったの夜の11時過ぎだぞ?

 夜中に片足突っ込んでるっつぅの。


「へ〜? なんのことやろなぁ」


「白々しい……この前だってリオのスコア超えそうだったからって画面見えないようにしてきだだろ。あれまだ根に持ってるからな?」


「うせやろ? 分かった分かった! せやったら今度ジュース奢っちゃる! なんなら今日でもええで?」


「お? まじか。じゃあ昼になんか購買で買ってきてくれよ。いやぁ節約出来て助かるわぁ」


「げ……ここの購買高いんやぞ?」


「それがどうした」


「くっそ……しゃあないのぅ」


 自分の席に座りカバンから教科書や筆記用具を取り出し、机のフックにカバンを掛ける。ふと、隣の空席を見て違和感を覚えた。

 その席には、誰かが座っていた気がする。でも、思い出そうとすると、霧がかかったみたいにぼやける。

 名前はなんだったか、どんなやつだったのかさえも分からない。その席の机の端には小さな傷があった。

 それは、誰かがシャーペンで削った跡だった。俺はその理由を知っているはずなのに。


 ――思い出せない。


 そんなこんなしているとリオも支度が終わったのか、振り返って俺に話しかけて来た。


「そういや知ってるかぁ?」


「なにをだよ?」


「転校生や! 昨日の放課後に盗み聞きしたんやけどな? 今日から転校生が来るらしいねん」


 自慢げに盗み聞きしてきたというリオ。いや、バカだろ。


「それで?」


「ん? それだけやけど?」


 それだけですか……。リオのことだからてっきりオチでもあるのかと。例えば男どもは女を期待するだろうけど、転校生は男なんだぜ、とかよ。


「あぁ……そう」


 それにしても……こんな時期に転校生? 珍しいな……。


 そして俺は、幼馴染と空白の再会をした。




「……風夏」


 その名前を俺は知っている。俺の幼馴染だ。


「はい? 呼びましたか?」


「あぁ……いや。なんでもないんだ」


 斜めの席に座る風夏。教科書と筆記用具を出し机の上を整える中、俺が漏らした声に反応して振り返ってきた。


「そうですか。あの……お名前、聞いても?」


 まるで表情が変わらず、昔のアイツとは大違いで。


谷口蓮也たにぐちれんや


 まるで俺のことなんか知らない顔をして。一縷の希望を込めて俺の名前を教えた。だけど……。


「以前、どこかでお会いしました……?」


 ほんの一瞬だけ、彼女の眉が寄った。それでも、その言葉は俺のことを覚えていないと強く主張する。

 希望は消えた。俺の知る幼馴染は居ない。この少女の目を、俺は知らなかった。


「いや……ホントになんでもないんだ、気にしないでくれ」


 風夏……いや、空山さんなんだな。


「なんや蓮也! 転校生ちゃんに惚れたんか!?」


 なっ! バッ! お前ぇ!


「なっ! バッ! お前ぇ!」


 丸々口から出た。ホントに何考えてるんだコイツは!


「ナハハ! 冗談や冗談! そんなキレるなや!」


 コイツゥ……!


「あなたは?」


 俺の前の席、まあつまり空山さんの隣の席であるコイツが急に話へ入ってきやがった。


「おっと、せやな。ウチは田島凛桜、よろしゅうな!」


「えぇと、はい。よろしくお願いします」


 椅子の背に肘を掛け挨拶をするリオ。それに対し律儀に返す空山さん。そこに昔の面影はなく俺が知るものは声と顔だけだった。

 性格も、表情も、そしてきっと仕草も違うんだろう。


「どうせ班活で一緒くたにされるんや、仲良くしよや」


 基本的に班は二人から五人で形成される。俺たちはこのクラスで唯一の二人班だったが、空山さんが入ったことで三人の班になった。なんだか懐かしさを感じる。


「そうですね」


「おいそこ〜うるさいぞー! そろそろ授業始まるからなぁ」


 そうこうしていると担任の先生が注意してきた。まあホームルームそっちのけで話すほうが悪いんだが。


「へーい!」


「分かりました」


「うっす」


 俺たちは三者三様に返事をして、姿勢を正し前に向き直る。そして、授業が始まった。




「せや! 今日の放課後、街案内しよか?」


 リオが空山さんに提案した。今は昼休、飯の時間だ。三人で机を合わせて食べている。三人で机を囲むこの形を、俺は知っている。


 なのに、思い出せない。なんでだ、なにか大切なことを忘れてはいないか。


「いいんですか? ありがたいです」


 行儀悪く箸をカチカチと鳴らしながらご飯を食べ進める。リオのご飯は購買で買った唐揚げ弁当だ。


「ええで! 蓮也も来なや!」


 もぐもぐと頬張りながら喋るリオ。空山さんと放課後一緒……仲良くなりたい。例え俺のことを忘れていたとしても、またもう一度。


「……わかった」


「うし! 決まりやな? いやぁ楽しみやわあ」


「そうですね」


 淡々と受け流すように答える空山さん。本当に昔とは違う。

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