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羅生門怪鬼譚  作者: 夏川凪
第一鐘 京都六歌死闘編

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第54話  共闘

【登場人物紹介】

不知火綾麿しらぬいあやまろ━━━━

 従三位じゅさんみ中将ちゅうじょう。帝と日本を守る『六歌戦ろっかせん』の一人。謎の妖刀『村雨むらさめ』を時の帝から拝領し、御所警備の西番を任されている。村雨むらさめ真刃しんば鞘刃さやばを使った不知火しらぬい二刀流にとうりゅうの使い手。江戸徳川政権を激しく憎み、鎌足かまたりを快く思っていない。鬼との戦いの中で鎌足(かまたり)と一時的に手を組む。


伊賀の鎌足かまたり━━━━

 江戸城の公儀御庭番こうぎおにわばん伊賀組の小頭こがしらの女忍。伊賀流鎖鎌の使い手。幻斎げんさいに授けられた、七十年前に鬼を滅した伝説の刀『鬼切丸おにきりまる』を手に、鬼が現れた京都に援軍として派遣されるが、裏では朝廷側の探索の密命も帯びる。鬼との戦いの中で、宿敵だった綾麿(あやまろ)と一時的に手を組む。


近衛兼季このえかねすえ━━━━

 従二位大将じゅにいたいしょう。武官最高位の大将として、清涼殿せいりょうでんだけを警備する御帝みかど親衛隊を指揮する。鞍馬一刀流くらまいっとうりゅうの使い手で、性格はおおらかで実直。鎌足かまたりにも親しみを見せる。


蒼妖鬼そうようき━━━━

 京都御所を襲撃する蒼鬼あおおに修羅しゅら。『刀葉林とうようりん』と呼ばれる刃の木の上で亡者を誘う、色香に溢れた絶世の美女鬼。薙刀(なぎなた)型の妖凛刀(ようりんとう)を操る。紅斬鬼(こうざんき)とは犬猿の仲。


蒼鋼鬼(そうこうき)━━━━

 京都御所を襲撃する蒼鬼あおおに修羅しゅら。人間の身体の数倍はある巨体で、凄まじい怪力と絶大な威圧感を誇る。まさに”鬼に金棒“、手にした金砕棒(かなさいぼう)で破壊の限りを尽くす。


蒼刃鬼(そうじんき)━━━━

 京都御所を襲撃する蒼鬼あおおに修羅しゅら。ぼろぼろの衣と長髪の幽鬼。三日月型に湾曲した二本の刀を背負っている。鍔から上の刃だけを飛ばし、狙った獲物の首を狩る。


紅斬鬼こうざんき━━━━

 京都御所を襲撃する紅鬼あかおに修羅しゅら。派手な戦闘用の衣に身を包んだ女鬼。短気で勝ち気な性格。伸縮も変化も自由自在の長刃ちょうじん野太刀のだち、『鬼紅葉おにこうよう』を背負っている。


紅鋏鬼こうきょうき━━━━

 京都御所を襲撃する紅鬼あかおに修羅しゅら。襲撃の紅鬼あかおにたちの中では一番の巨躯きょくを誇る。性格は横暴を極め、手にした巨大なやっとこ型のはさみで、人間たちの舌を狙い暴れ回る。


紅閃鬼こうせんき━━━━

 京都御所を襲撃する紅鬼あかおに修羅しゅら。長い髪に長襟(ながえり)の羽織を纏い、落ち着いた風貌だが性格は残虐。鉄扇てっせんの刃と扇ぎ放つ鋭い鉄串の雨で、人間たちを容赦なく貫き裂く。


 ━━━━(一鬼でも多くの鬼を自分たちに引き付け、一気に殲滅せんめつし、そして警備兵たちの突破口を斬り開く)



 つい先刻まで激しく刃を交えていた、綾麿あやまろ鎌足かまたり

 蒼鬼あおおに紅鬼あかおにの急襲に端を発するまさかの共闘、たった一度の背中合わせの目配せ。

 それでも二人は、戦術的な思考と決意をその一瞬の内で重ね合った。



 ⋯⋯乱戦の中からまずは御所家屋前へと駆け抜ける。

 そして帝の居る清涼殿せいりょうでんへの蒼鬼紅鬼おにの侵入を防ぐ、二つの”盾“となる⋯⋯。



 それはこの日本ひのもと京都本拠の最大の危機において、死中に活を見出すような阿吽あうんの呼吸。



 心の内ではいがみ合っていても、戦いの中に身を投じる二人の動きは、今まさに”一つ“になっていた。



 二人に最も近い場所で斬りあっている、蒼鬼あおおに紅鬼あかおに

 その二鬼に瞬時に狙いを定めた綾麿あやまろが、まず先陣を切った。

 流れるような動きで踏み出す、反撃の第一歩。


 綾麿(あやまろ)の眼は、まるで村雨(むらさめ)二刀のように、熱くたぎる闘志と冷酷な鋭さに満ちていた。


 たった一歩で、二鬼との間合いが半分は詰まる。


 このまるで空を翔けるような綾麿あやまろ疾走はしりの速さに、鎌足かまたりは思わず目を見開いた。



(⋯⋯は、速い! これはまるでさやの彫りと同じ⋯⋯)


 ⋯⋯鳳凰ほうおうが地上から空へと舞い上がるような、圧倒的な超神速の跳び込み。



 綾麿(あやまろ)は狙いを定めた蒼鬼あおおに紅鬼あかおにの懐に飛び込むと、村雨むらさめ二刀それぞれの刃で二鬼の身体を突き刺した。



《⋯⋯グオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ!!》


 真刃しんばが胸元に刺さったまま、炎に焼かれたような熱さを味わい、悲痛な叫びを上げる蒼鬼あおおに

 鞘刃さやばが喉元に刺さったまま、氷で裂かれたような凍えに襲われ、痛みで苦しみ悶える紅鬼あかおに



「⋯⋯内裏だいりを乱したとがは受けてもらうぞ、⋯⋯御前たち二鬼は、他の蒼紅鬼おにどもを誘い出す“にえ”だ」



 綾麿あやまろはわざと二鬼の急所を外していた。


(⋯⋯憎い敵の鬼の軍を前にした、蒼鬼紅鬼やつらの戦意と団結力は固い。そこを逆手に取る。この絶叫を聞きつけ、乱戦の中で暴れている仲間の蒼鬼紅鬼おにどもは、この場に必ず集まってくる。⋯⋯そこを一網打尽にする)



 綾麿あやまろ目論見もくろみは今、見事にはまった。



 紅鬼あかおに四鬼、蒼鬼あおおに三鬼。

 計七鬼もの蒼鬼(あおおに)紅鬼あかおにたちが、仲間の救出や援護のために動いた。

 鬼同士の戦いや警備兵への殺戮さつりくをそっちのけにして、狂気の武器の矛先(ほこさき)を変える。  

 刃や槍や斧を激しく振り回しながら、仲間をしいたげる綾麿あやまろの方へと向かってきたのだ。



 ほんの僅かに振り向いた綾麿あやまろが、背後に合図を送るように呟いた。



「⋯⋯出番だぞ、鬼切丸おにきり



 綾麿あやまろは一言呟くや否や、真刃しんば鞘刃さやばを握る両腕に力を込めた。

 そしてもはや用無しと言わんばかりに、目の前で苦悶の表情を浮かべているにえ蒼鬼あおおに紅鬼あかおにの身体を村雨むらさめ二刀にとうで容赦なく貫いた。


 次の瞬間だった。


 あおあかの霧に彩られた断末魔の共鳴の中、綾麿(あやまろ)村雨(むらさめ)に続く第二撃が、蒼鬼(あおおに)紅鬼(あかおに)羅刹らせつたちに牙を剥く。

 迫ってくる七鬼たちにとって死角となる綾麿あやまろの背後から、鬼切丸おにきるまるを構えた鎌足かまたりが宙へと飛び出した。



「⋯⋯ッ、いくよ、鬼切丸おにきりまる!」



 くるりと前方一回転した鎌足かまたりは、近づいてきていた先頭の蒼鬼あおおに一鬼の頭上に、そのまま身をおどらせた。

 そして眼下を駆ける蒼鬼あおおにの脳天を目掛けて、手にした鬼切丸おにきりまるを振り下ろした。

 それは速さと鋭さを兼ね備えた、必殺の連撃。

 鬼切丸おにきりまるの刃の軌道は、上から下、更に右上へ。

 空からの一撃を撃ち込んだ後も、続けざま胸元にも逆袈裟(ぎゃくけさ)斬りの第二撃を浴びせた。


 脳天を割られ胸を裂かれた蒼鬼あおおにの絶叫と共に、あおい霧が死散しさんする。

 鎌足かまたりは返す刀で、鬼切丸おにきりまるの刃を逆手で水平に構え、地を蹴り疾走かけた。 

 そして間近に迫っていた一鬼の紅鬼あかおにと、凄まじい勢いですれ違っていく。


 鎌足かまたり鬼切丸おにきりまると、紅鬼あかおにの刃の突き。

 夜の闇に閃光が走る。


 すれ違った瞬間、鎌足かまたりと交差したこの紅鬼あかおにの喉にも、刃の(きら)めきと同じように一筋のあかい線が走った。


 この紅鬼あかおにの喉は、鬼切丸おにきりまるの鋭い刃先によって、横一文字に掻っ切られていた。


 血飛沫ちしぶきと共に舞う、あかい霧。

 紅鬼(あかおに)の消滅を意味するその(あか)の霧は、まるで早くも日の出を迎えたように、日没したばかりの夜の闇を再びあかつきの色に染めていく。



 地を駆けた鎌足かまたりの背後で、綾麿あやまろも再び鳳凰ほうおうの羽ばたきの如く、空を舞っていた。

 その眼光は刃のように鋭い。

 村雨むらさめ真刃しんばを、天を刺すように高く振り上げる。

 そして斧を振り回しながら迫ってくる紅鬼あかおにに目掛け、思い切り振り下ろした。


 真刃しんばに沿って、あおほむらが波打つ。

 綾麿あやまろの神速の向唐竹こうからたけ割りによって、この斧を手にした紅鬼あかおにの身体は炎に包まれながら、文字通り脳天から”真っ二つ“に切り裂かれていた。

 

 左右に死散しさんするあかの霧、そしてまだ尾を引く村雨むらさめ残炎ざんえんの中、上空から一鬼の蒼鬼あおおに綾麿あやまろに飛びかかった。

 その(あお)鬼影(きえい)を捉えたのは、鎌足かまたりの目、そして鎌足(かまたり)と心を一つにした長年の相棒の鎖。

 


「⋯⋯綾麿あやまろ! 上だ! ⋯⋯任せて! そのほむらの残り火、使わせてもらうよ!」



 鬼切丸おにきりまるを握る右手を素早く腰にまわし、鬼切丸おにきりまる鎖分銅くさりふんどうの先端に絡める。

 そして綾麿あやまろ蒼鬼あおおにの間の空、まだくすぶるようにしてゆらゆらと漂う村雨むらさめほむらに向けて、鎌足(かまたり)はこの鬼切丸(おにきりまる)を付けた鎖を投げ放った。



伊賀流鎖鎌いがりゅうくさりがまいちおよび三十壱さんじゅういち鎖刃さじんまが天渡あまわたり!」



 村雨むらさめほむらの残り火の中を、鎌足(かまたり)の投じた鎖は鋭く速く、まっすぐに突き抜けていく。


 するとその直後、鎖の先端に絡む鬼切丸おにきりまるの刃先に異変が起きた。


 飛翔する鬼切丸おにきりまるの刃は、燃え上がったようにあお(きら)めき、熱く炎がたぎっていた。

 しかもそれだけではない。

 刃の通った軌道にも、蒼い炎が揺らめく。

 まさに綾麿(あやまろ)村雨(むらさめ)真刃(しんば)と同じような、(あお)の波動がほとばしりながら尾を引いていたのである。


 鎌足かまたりは巧みに腕を切り返した。


 その動きに、掌と繋がる鎖が呼応する。

 この村雨むらさめの残炎をまと鬼切丸おにきりまると鎖は、空中で急にその向きを変え、蒼鬼あおおにの胸を目掛けて一直線に飛んでいった。



「⋯⋯からの! ⋯⋯三十ノ鎖刃さじん焔祭ほむらまつり!!」



 鬼切丸おにきりまるを包んでいる炎は今、当初の微かな残り火からそのまとう色や勢いを変えていた。


 蒼鬼あおおにの死角となる(かく)

 その見えない角度から、猛炎に包まれた鬼切丸おにきりまるの刃が蒼鬼あおおにに襲いかかる。

 この炎の一撃と刃の鋭さによって、的となった蒼鬼あおおには敢え無く胸を焼き貫かれていた。

 胸の傷口からは急速に炎が拡がっていく。

 その業火に包まれ、身体を焼かれ苦しみながら、蒼鬼(あおおに)は断末魔の叫びと共にこの世から消滅していった。



「⋯⋯よしっ、上手くいったぞ!」


 目的を遂げた鬼切丸おにきりまるの刃からは、(あお)い炎は既に消えていた。

 鎖と鬼切丸おにきりまるを手元へと引き戻した鎌足かまたりは、傍の綾麿あやまろを横目で一瞥いちべつする。


「⋯⋯にひひ、どう?」


 外した鬼切丸おにきりまるかざしながら、鎌足(かまたり)は無邪気な笑顔を見せた。

 それは綾麿あやまろの見せた技に、何処(どこ)か張り合っているようにも見えた。



「⋯⋯⋯⋯」

(⋯⋯不知火しらぬいほむらをいとも容易たやすく操るか⋯⋯、やはりこの女子(もの)はこの先、生かしておいては災いの元となる)



 不知火(しらぬい)(ほむら)を操ったこの鎌足(かまたり)の技に対して、綾麿(あやまろ)が真っ先に抱いたのは警戒心だった。

 しかしそんな内心とは裏腹に、綾麿(あやまろ)は得意気な鎌足かまたりを冷静に見つめ返し、そして不敵に笑みを浮かべた。



「⋯⋯ふん、面白い(もの)を見せてもらった礼だ。麿まろも一つだけ、手の内を見せて進ぜよう」



 そして淡々とした言葉と共に、やや前屈まえかがみとなって腰を沈めていった。



(⋯⋯今日だけは、鬼がそなたの“代わり”だ)



 綾麿あやまろの前方左右から接近する、蒼鬼あおおに一鬼と紅鬼あかおに一鬼。

 その姿を瞳に映した綾麿あやまろは、手にした真刀しんばさや口に充てがい、蒼いほむらを激しくほとばしらせながら、鞘刃さやばの中に真刃しんばを納めていく。

 受ける側、鞘刃さやばもまた白く激しく波打った。

 無限の灼熱を受け止める、無限の冷気。

 この二つの刃は、まるで熱気と冷気が火花を散らしながら一つになっていくかのように、綾麿あやまろの左腰の位置で納刀のうとうされていった。


 綾麿あやまろはこの時、俗に“居合(いあい)斬り”とも呼ばれる抜刀術の体勢を取っていた。


 納刀された村雨むらさめを引くと同時に、真刃しんばを凄まじい早さで抜き払う。


 その刃の斬り口は凄まじい速さだった。

 そして鋭さも兼ね備えていた。

 炎と氷が入り混じった、強烈な一閃が走る。

 それはつい今しがた紅鬼(あかおに)と交差しながら繰り出した鎌足(かまたり)の一閃や、空を舞った鎖と鬼切丸おにきりまるの強烈な一閃を遥かに上回る、まさに“目にも止まらない”光のまたたきだった。



 綾麿(あやまろ)に迫っていた蒼鬼(あおおに)紅鬼(あかおに)の身体は、一瞬にして離断されていた。

 二つの上半身が空を飛ぶ。

 上半身を無くしながらも走る二つの下半身は、綾麿あやまろの左と右をすれ違いながら駆け抜けた後、徐々に足の動きを緩めて、前のめりで地に倒れ込んだ。

 綾麿あやまろの前後で、地の玉砂利が飛び散る。


 綾麿あやまろは血を払うため、素早く真刃しんばの刃先を数回転させた。

 そして鎌足かまたりがこの太刀筋を目で追い終えた頃には、何と既に納刀までをも済ませていた。



(⋯⋯す、凄い。凄すぎる。なんて美しく恐ろしい剣閃(けんせん)なんだ。⋯⋯これは世で抜刀の達人と呼ばれる剣客すらも、遥かに凌駕(りょうが)している。もし私がこれを受けていたら、この鬼たちみたいに今頃は真っ二つにされていたかもしれない⋯⋯、それにしても⋯⋯)



 綾麿あやまろのあまりにも凄まじい太刀筋。

 鎌足(かまたり)は、その剣技に思わず見惚みとれてしまうと共に、尋常ではない畏怖いふの念もまた覚えていた。



(⋯⋯やはり、この男、⋯⋯綾麿(あやまろ)は、江戸にとって大きな脅威となる。⋯⋯いくら帝を守っている『六歌戦(ろっかせん)』と言えども、時が来たら⋯⋯、その命、奪わないといけない⋯⋯、そう、時が来たら⋯⋯)



 あおあかの二つの死の霧が混じり合いながら、紫へと色を変えて空へと立ち昇っていく。

 空の上に浮かぶ、数多くのあおあか羅生門らしょうもん邪道じゃどう

 その渦の群れの中、八つの蒼紅そうくの渦が小刻みに揺れ始めた。

 そしてまるで日輪にちりん蒼月そうげつが沈んでいくように、地に堕ちながら消えていった。


 そんな異空を、相変わらず綾麿あやまろは仰ぎもしない。

 綾麿あやまろ村雨(むらさめ)さやを握りしめながら、何も動じずに凛と佇んだままだった。


 そんな綾麿あやまろ村雨むらさめを、あかい死の霧が包みこむ。

 綾麿あやまろは、自分を見つめる鎌足かまたりに向けて、薄ら笑みを浮かべた。

 そんな謎の笑みを、あおい霧が妖しく美しく彩っていた。



 背中に薄ら寒さを感じた鎌足(かまたり)が、顔を(しか)める。



 ⋯⋯覚えておけ、いつかは御前がこうなる。



 綾麿あやまろの眼は、そう言っているようにも見えた。


 

 笑みの真実(いみ)は分からない。

 しかし今は、その笑みの意味を勘繰かんぐったりしている暇は無い。

 


 目を合わせた綾麿(あやまろ)鎌足(かまたり)



(だが今は⋯⋯、まだ)

(⋯⋯その時じゃない)



 二人が同時に振り向く。



 そして最後に背後から迫ってくる紅鬼あかおに一鬼に、綾麿あやまろ鎌足かまたりは同時に刃を振りかざした。


 妖刀ようとう村雨むらさめから再び抜き放たれた真刃しんば、そして逆手の鞘刃さやばの斬り上げによる、熱く冷たい、豪快な閃光(せんこう)

 七十年前に幾つもの紅鬼おにの命を絶ってきた、鬼切丸おにきりまるの半刃の、鋭く速い閃光せんこう



 三つの刃が、一つに重なり合う。



 この最後の”にえ“でもあり、秘めた互いの胸の内の”代わり”となった紅鬼あかおにの身体は、真っ二つに斬り裂かれた後、更に幾重にも細切れにされ、蒼白そうはくほむらに包まれながら、霧へと化していった。



「⋯⋯道が拓けた、行くぞ、突破する!」



 綾麿あやまろげきに、鎌足かまたりが頷く。


 二人は戦いの最前線に向けて、身体をひるがえした。


 今、九の蒼鬼あおおに紅鬼(あかおに)が滅し、緩んだ包囲網。

 突破するは今、目指すはその先、御所正面。


 再び目を合わせた二人は、並んで疾走はしり出した⋯⋯。





 ⋯⋯その時だった。





 突然に地響きのような、“何者か”の足音がとどろいた。


 その足音は、明らかに二人に向かって近寄ってきている。


 その”異変“に二人も気付く。

 その足音がすぐ傍で止まったのと同時だった。


 疾走はしる二人に向けて、上空から唐突に巨大な“何か”が振り下ろされていた。



「⋯⋯ッ!? ⋯⋯なッ!?」

「⋯⋯!」



 地を打ちつける、凄まじいまでの轟音(ごうおん)



 二人はその場を間一髪で飛び退き、この強烈な不意の一撃を避けることができていた。



「⋯⋯な、何だっ!? 何が攻撃してきたんだ!?」



 ほんの今程まで二人が居た場所。

 その地には、この不意の攻撃の物凄さを如実に物語る、巨大な円形の挫滅ざめつ跡が刻まれていた。


 綾麿あやまろ鎌足(かまたり)を襲った、謎の強烈な破壊の一撃。

 その襲撃者を捉えるため顔を上げた綾麿あやまろと、何が起きたか分からずに呆然(ぼうぜん)と佇む鎌足かまたりの前に今、最大かつ最悪の”邪悪な存在“が立ちはだかっていた。

 それは、壁がそびえ立っていた、という表現の方が正しいかもしれない。



 ⋯⋯襲撃者の正体。


 それはあの人型の蒼鬼あおおに三鬼のうちの一鬼、この御所に現れた四十六鬼の中でも、最も威圧的な巨躯きょくを誇る蒼鬼(あおおに)だった。



 改めて間近で見上げるその蒼鬼あおおに巨躯きょくは、およそ十五尺じゅうごしゃく(※約4.5m)以上は優に有り、余裕綽々な態度と表情で、二人をじろじろと舐め回すように見下ろしている。



《⋯⋯仏頂面(ぶっちょうずら)の貴様が日本ひのもとが誇る『六歌戦ろっかせん』の一人、不知火綾麿しらぬいあやまろだな。⋯⋯そして(ごみ)みたいにちっこい隣の奴が、意外にもあの紅影鬼(こうえいき)(たお)した、江戸の伊賀忍いがしのび⋯⋯鎌足かまたりか。⋯⋯俺様の名は蒼鋼鬼そうこうき。この俺様に勝てると思うか、小粒こつぶどもめ》



 それは天まで届くように大きく、地の底にまで染み渡るような重い声だった。



「⋯⋯むむっ、⋯⋯な、何だとぅ!? ご、(ごみ)だって!? こ、この⋯⋯」


 我に返った鎌足(かまたり)が、敵の顔を睨みつけようと、首を上へと上げていく。


 だが、その首の角度は止まらない。

 鎌足(かまたり)は天を見上げる程にまで(あご)を突き出し、気づけば爪先(つまさき)立ちまでしていた。


「⋯⋯っ⋯⋯この⋯⋯⋯⋯、⋯⋯あ、ああっ」


 蒼鋼鬼(そうこうき)の顔は、(あご)しか見えなかった。


 ただその掌の中には、恐ろしい武器が握られていた。

 それは綾麿(あやまろ)鎌足(かまたり)を今しがた襲った”何か“の正体⋯⋯、伝承や昔話上の“鬼の代名詞”とも言える“金砕棒かなさいぼう”。



 この乱戦の僅かな時間で、既に何人もの警備兵や紅鬼あかおにを叩き潰してきたのだろう。

 手にしている金砕棒かなさいぼうの先端の”星“と呼ばれる無数のびょうには、人間のものとも鬼のものとも判別がつかないほど、肉塊にくかいと血がまとわりへばりついていた。


「⋯⋯ぁ⋯⋯へ? あ、⋯⋯あ、⋯⋯ぅお、⋯⋯ぉ」


 ”(ごみ)“と侮辱の名指しをされ、いつもの鎌足(かまたり)ならば、声高に怒りの声を上げ続けていただろう。

 しかし改めてその巨体と威圧感を前にして、鎌足(かまたり)は遥か上を見あげたまま、言いかけた罵詈雑言(ばりぞうごん)の言葉は何一つ出てこない。

 驚きが何もかもを吹き飛ばして、しどろもどろに狼狽(うろた)え呟くしかなかった。



「⋯⋯こ、こいつは、やばい、やばすぎるぞ、⋯⋯ど、どうする、⋯⋯あ、あや、⋯⋯あやま⋯⋯」


 鎌足(かまたり)はぎこちなくゆっくりと、隣の綾麿あやまろの方を向いた。


 しかし綾麿あやまろの方は、何らいつもと変わらない。

 顔を青ざめる鎌足(かまたり)とは正反対に、綾麿あやまろは半ば呆れたような眼で、いつも通り冷たく呟いた。

 


「⋯⋯独活うどの大木」



《⋯⋯あぁん!?》

「⋯⋯ひいっ!?」


 ⋯⋯綾麿(あやまろ)の呟きを前に、鎌足(かまたり)の顔は、まるで蒼鬼あおおにになったかのように更に青ざめていた。

 そしてそれは、蒼鋼鬼そうこうきの身体から湧き上がる殺意を、更に激しく(たぎ)らせるには十分過ぎる言葉だった。



「⋯⋯っ!? ⋯⋯ば、馬鹿ッ! 綾麿あやまろ! 刺激すんな!!」



《俺様を愚弄するか!? 脆弱ぜいじゃく下衆げすな人間の分際ぶんざいで! その脳天から爪先つまさきまで、身体の骨という骨の全てを粉々に叩き潰してくれるわ!!》



 蒼鋼鬼そうこうき金砕棒かなさいぼうが再び(うな)りを上げた。

 蒼鋼鬼そうこうきは振り上げた金砕棒かなさいぼうの先を、足元の二人や地面に向けて小突くように、至近距離で思い切り叩きつけた。


 綾麿あやまろ鎌足(かまたり)は、間一髪後ろに飛び退く。

 直撃は免れたものの、その衝撃と威力は先程の一撃を遥かに上回っていた。

 まるで埋められた地雷が連続して暴発していくように、衝撃が地を伝いながら、逃れた二人の足元へと一気に爆発が迫っていく。


 綾麿あやまろ鎌足(かまたり)は共に、その爆発の波動はどう避けるため、今度は空高く跳び上がった。


 地よりも安全な空。

 しかし安堵しているいとまは無かった。

 次の瞬間には、まさに驚天動地(きょうてんどうち)の驚くべきことが起きた。



 ⋯⋯何と類稀(たぐいまれ)な巨躯を誇る、蒼鋼鬼そうこうきも“跳んで”いたのだ。



「⋯⋯まさか!? この巨体で跳べるのか!?」



 鎌足かまたりが我が目を疑う。


 しかも巨躯(きょく)とは思えない程に、その体捌(たいさば)きは(しな)やかで素早い。  

 鎌足(かまたり)が瞳にその姿を捉えた時にはもう既に、蒼鋼鬼そうこうきは宙を舞いながら、追い撃ちの金砕棒かなさいぼうを再び振りかざしていた。

 その怒りの矛先ほこさきは⋯⋯。



 ⋯⋯暴言を吐いた綾麿あやまろだった。



「⋯⋯ふん、鳳凰(ほうおう)に空で挑むか。笑止な」

 

 綾麿あやまろは鼻で冷ややかに笑うと、蒼鋼鬼そうこうきの強烈な一撃の風圧に敢えて”乗り“、まるで空を飛ぶように巧みに身をひるがえした。

 それはまさに、“鳳凰(ほうおう)の飛翔”だった。

 憤怒(ふんぬ)(まみ)れた金砕棒かなさいぼうの一撃を颯爽(さっそう)とかわすと、村雨むらさめ真刃しんばを斬り上げて、蒼鋼鬼そうこうきの胸にあお(ほむら)剣閃けんせんを食らわせた。

 そして蒼鋼鬼(そうこうき)の肩口を蹴って、更に高く翔んだ。



 村雨(むらさめ)による胸への裂傷。

 それは鬼にとっては致命傷となりえる一撃。

 そんな綾麿(あやまろ)の反撃の剣戟けんげきは、同じく空を舞う鎌足(かまたり)の戦意や負けん気を後押しした。


「⋯⋯っ! 今だ!」


 幸いにも蒼鋼鬼(そうこうき)金砕棒かなさいぼうの的から外され、自由に動きの取れる鎌足(かまたり)が、この好機を逃さずに追随する。

 その狙いは、蒼鋼鬼そうこうきの死角、そして致命傷となるべき急所。

 鎌足(かまたり)はその小さく軽い身体を、最大限に利用した。

 巧みに身を(ひるがえ)し、蒼鋼鬼そうこうきの背後から接近し、背中の首筋に鬼切丸おにきりまるを突き立てた。



「⋯⋯よしっ! ⋯⋯やった! ⋯⋯か!?」


 鎌足(かまたり)は空中でくるくると数回転し、颯爽(さっそう)と着地する。

 そして掌の中の鬼切丸おにきりまるを見つめ、手応えを確信して嬉々として叫んだ。


「⋯⋯やった! 手応えはあった! 急所は捉えたぞ!」


 そんな咆哮(ほうこう)鎌足(かまたり)の傍に、綾麿あやまろ)も涼やかに降り立った。



「⋯⋯へんっ、何だ、見かけ倒しじゃないか!」



 案外に呆気無く、決着はついた。

 蒼鋼鬼(そうこうき)も地に着くや否や、大きな音を立てて崩れ落ち、そして身体の大きさに見合った大量の(あお)の霧が立ち込める。

 それは蒼鋼鬼(そうこうき)の消滅を意味する⋯⋯。




 ⋯⋯はずだった。




 地上に轟音ごうおんと共に降り立った蒼鋼鬼そうこうき

 だがその先の展開は、鎌足(かまたり)の思い描いた光景とはまるで違っていた。



 蒼鋼鬼(そうこうき)の胸や首筋は、空での村雨むらさめ鬼切丸おにきりまるの連撃によって確かに、長々と裂け、深々と穴が空いていた。


 しかしその傷は、血すら噴き出ることも無く、みるみるうちに元通りにふさがっていく。


 そしてまるで何事も無かったかのように、この二つの傷はその全てが跡形あとかたもなく消え去ってしまっていた。



《⋯⋯ぐはははは! 何だ、今の撫でさするような攻撃は。蚊でも刺したのか? 全くもって通じんな、痛みやうずきすらも心地良いわ。⋯⋯ぐっははははははは!!》



 蒼鋼鬼そうこうきの豪快で醜悪しゅうあくな笑いが、乱戦の庭園内に木霊こだまする。



「⋯⋯そんな!? ⋯⋯た、確かに急所に刺したよ!? ⋯⋯間違いなく手応えもあったのに! ⋯⋯こ、此奴こいつ、不死身か!?」



 驚愕きょうがく呆然ぼうぜん鎌足かまたりの隣で、綾麿(あやまろ)は傷口が塞がっていく様を黙って見つめていた。

 そして冷静に呟いた。

 それはすぐ傍の鎌足(かまたり)にしか聞こえないくらいの、ほんの小さな自問自答のような呟きだった。

 


「⋯⋯なるほど、⋯⋯閻魔鋼えんまこう、か」



「⋯⋯え? 閻魔鋼えんまこう⋯⋯? 何それ?」



 綾麿あやまろの呟いた言葉の意味が、鎌足(かまたり)には分からない。

 思わず綾麿あやまろに聞き返したたものの、綾麿あやまろの口もまた蒼鋼鬼(そうこうき)傷と同じく塞がったままだった。



《⋯⋯はっはっは、俺様は攻撃も防御も隙無し、無敵、ってわけだ。⋯⋯さあ、どうする、六歌戦(ろっかせん)、そして隣のちっこいの》


 蒼鋼鬼そうこうき金砕棒かなさいぼうを肩に構え、じりじりと二人に迫っていく。



「くそっ⋯⋯、やっと乱戦を突破出来ると思ったのに、こんな化け物が出てくるなんて⋯⋯!」


 鎌足かまたりが悔しさを滲ませ、狼狽ろうばいした。



 ⋯⋯その時。



 蒼鋼鬼そうこうきに向けて、突如として無数の弓矢が降り注いだ。



《⋯⋯誰だ!? 俺様のお愉しみを邪魔する奴は!?》


 蒼鋼鬼そうこうき金砕棒かなさいぼうを一振りして、全ての矢を打ち払う。



「え⋯⋯!?」

「⋯⋯⋯」



 その弓矢が放たれた出所、鎌足かまたり綾麿あやまろが視線を送った先には、弓の警備兵たちを従えた兼季かねすえが、刀を構えて凛と佇んでいた。



「⋯⋯私を忘れてもらっては困るな、蒼鬼(あおおに)よ!」



「⋯⋯あっ、大将様⋯⋯兼季(かねすえ)様っ!」


 それは思わぬ援軍たすけだった。

 そして兼季かねすえの無事も確認できた、鎌足(かまたり)の顔が自然とほころんだ。



「先程二人が鬼を引きつけてくれたお陰で、我々も今一度体制を整えることができた。此処ここは我等に任せろ! 清涼殿せいりょうでんへの鬼たちの侵入を防ぐことができるのは、そなたたち二人をおいて他には居ない! 帝を頼む!」



 依然として絶体絶命の窮地。

 それにも関わらず、兼季かねすえ鎌足かまたりたちに向けて熱いげきを飛ばした。

 そしてこの二人だけではなく、自らの闘志も奮い立たせて鼓舞するように、鎌足(かまたり)に向けて固い決意が込められた笑顔を見せた。



「⋯⋯例え刃の一撃一撃ではこの化物鬼は倒せずとも、弓の雨を降らし続ければ、もしかしたら何とかなるかもしれん! それに武官の大将を預かる身として、これ以上御主たち二人だけに良い格好はさせられぬからな」



 その気迫の笑顔に、鎌足(かまたり)は精一杯の笑顔と明るい声で応えた。


「⋯⋯は、はい! ⋯⋯兼季かねすえ様、ありがとうございます! どうか御武運を! ⋯⋯綾麿あやまろ、さあ!、早く!」


「⋯⋯⋯⋯」


 兼季かねすえの姿すらも、視界には入っていないのか。

 綾麿あやまろは先程の呟きの後から、掌の中の村雨むらさめの刃を見つめたままだった。

 そして今もずっと沈黙を貫いていた。



「⋯⋯ねえ!? 聞こえてる!? ⋯⋯あの化け物を倒せなくて悔しいのは分かるけどさ、今は帝の元へ辿り着くのが最優先でしょ!? ⋯⋯っ、早く! 綾麿あやまろ!」


 鎌足かまたりは思わず、動かない綾麿あやまろに右手を伸ばしかけていた。


(⋯⋯はっ)


 綾麿あやまろの左手に触れる寸前、鎌足(かまたり)が我へと返る。

 その伸ばしかけた手をすんでの所で止め、そして慌てて引っ込めた。


(⋯⋯しまった、危ない危ない、思わずこんな奴の()を握りしめる所だった)


 その鎌足かまたりの動きに気付いた綾麿あやまろは、鎌足(かまたり)と同じく我に返ったように、一言だけを呟いた。


「⋯⋯ん、⋯⋯ああ」




《⋯⋯ちいっ、『六歌戦ろっかせん』を仕留めれば相当の手柄にもなる! ⋯⋯伊賀の餓鬼がき共々逃がすか!》


 兼季かねすえたちの放ち続ける弓の雨には一切怯まず、雄叫びを上げながら突進してくる蒼鋼鬼そうこうき金砕棒かなさいぼう

 その狂気の突進を、綾麿あやまろ鎌足(かまたり)は左右に分かれて颯爽さっそうとかわし、その巨躯きょくの脇を走り抜けた。


(防御に絶体の自信があるんだな、脇ががら空きだ!)


 ただ走り抜けるだけではない。

 鎌足かまたりはすれ違いざまに飛び跳ね、鬼切丸おにきりまる蒼鋼鬼そうこうきの脇腹や背中を斬りつけていた。


 そして後は後ろも振り返らず、ひたすらに疾走(はし)る。



(⋯⋯よしっ、距離はもう十分だ)


 二人を追いかけてくる足音は無い。

 数秒の後、鎌足(かまたり)は後ろを振り向いた。

 振り向きざまに視界に捉えたのは、離れた位置からでもしっかりと分かる、兼季かねすえたたちと向かい合う蒼鋼鬼そうこうき巨躯きょくと、今しがた付けたばかりの二つの傷。

 しかしその脇腹と背中の斬り傷は、どちらもが瞬く間に自然と元通りに塞がっていく。


「⋯⋯やはり無理か。くそっ、なんて奴だ」


 鎌足かまたりの苦々しい呟きの後、鎌足(かまたり)の前を疾走はし綾麿あやまろが、ようやくその重い口を開いた。



「⋯⋯あれは閻魔鋼えんまこうの防御。⋯⋯蒼鬼あおおにの根城、その地下深くでのみ採掘され、閻魔宮えんまきゅうの城門にも使われている、強固な地獄の鉱物の一種だ。⋯⋯何もかも一瞬で破壊する程に氣を最大にまで高めた一撃か、再生する速さよりも速く連撃を与えない限り、決して打ち破れぬ」


「⋯⋯へぇ、閻魔鋼えんまこう。⋯⋯そんなものが地獄には存在して⋯⋯、⋯⋯え? ⋯⋯いや、あの、でも。⋯⋯綾麿(あやまろ)、何でそんな事を当たり前のように知ってるんだ?」


「⋯⋯⋯⋯」



 綾麿あやまろの背中に向けて、鎌足(かまたり)が問いかけた時⋯⋯。

 


 ⋯⋯二人のすぐ近くの燈籠とうろうが、真っ二つに斬り裂かれ、音を立てて倒壊した。



「⋯⋯ッ!?」

「⋯⋯⋯⋯」



 燈籠(とうろう)を斬り裂いた、得体の知れない”何か“。



 ⋯⋯その“何か”は、凄まじい勢いで縦回転しながら飛翔していく、三日月みかづき型のいびつ湾曲刃わんきょくばだった。



 その狂気の刃は、疾走はし鎌足かまたりの近くをかすめて、弧を描きながら飛んできた方向へとまた戻っていく。



「⋯⋯ッ!? これは⋯⋯! あの最初に攻撃を仕掛けてきた、蒼鬼あおおにの奇怪な飛び道具か?」



 そして続けざまだった。

 三日月の回転刃とは逆の方向から、四枚の鉄扇てっせんと無数の鉄串てつぐしが飛来し、鎌足かまたりの駆ける足元の近くに連続して突き刺ささった。


「⋯⋯わわわっ」


 地に刺さった鉄串と二枚の鉄扇てっせんは、影が薄まるようにすぐに消滅したものの、残る二枚の鉄扇てっせんだけは再び空へふわりと舞い上がり、先の三日月の刃を追いかけるように不規則な動きで舞い戻っていく。



「この鉄扇てっせんは⋯⋯! 紅閃鬼こうせんきだ!」


 三日月の刃の飛んできた方向⋯⋯刃と鉄扇てっせんが戻っていった方向へ、鎌足かまたり咄嗟とっさに目を送る。




《⋯⋯さあ、紅鬼(あかおに)の首を狩るのだ、鬼剣きけん三日月みかづき』よ》


《⋯⋯滅せよ、蒼鬼(あおおに)。舞い、(ひらめ)き、貫け、鬼扇乱舞きせんらんぶ!》




 鎌足(かまたり)の瞳に映ったのは、上級の鬼『修羅(しゅら)』同士による激しい死闘。



 この世の武器ものではない地獄の刃を激しくぶつけ合う、蒼鬼(あおおに)蒼刃鬼そうじんきと、紅鬼(あかおに)紅閃鬼こうせんきの姿だった。



「⋯⋯ッ! ⋯⋯あの蒼鋼鬼(そうこうき)だけじゃない⋯⋯、此処ここにも恐ろしい化け物が、二匹も居たか⋯⋯!」━━━━。




第54話も最後までお読み頂きありがとうございました。

創作の励みになるので、ブックマーク、評価、感想等、良かったらぜひ。

改稿履歴は全て誤字脱字等や細部表現の訂正です。内容は全く変わっていませんので御安心ください。(いつもたくさんの誤字脱字ばかりで、すみません)

次回第55話「鬼剣と鬼扇」は、4月29日もしくは4月30日の投稿予定です。投稿日はXにて報告させて頂きます。

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― 新着の感想 ―
 ――そう、時が来たら……。という鎌足さんの心の声はとても苦しくなりますね。なんだか蒼紅両鬼を殲滅したらお互いを危険分子と認識しなければならなくなるなら、もうずっと兄妹弟子同士みたいな距離感で、恋愛と…
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