表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
羅生門怪鬼譚  作者: 夏川凪
第一鐘 京都六歌死闘編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/51

第15話  紫宸殿 謁見

【登場人物紹介】

伊賀の鎌足かまたり━━━━

 江戸城の公儀御庭番こうぎおにわばん伊賀組の小頭こがしらの女忍。伊賀流鎖鎌の使い手。幻斎げんさいに授けられた、七十年前に鬼を滅した伝説の刀『鬼切丸おにきりまる』を手に、鬼が現れた京都御所に援軍として派遣される。裏では朝廷側の探索の密命も帯びる。


 ━━━━「やっと”本丸“に到達か」


 告げられていた謁見えっけん開始のとき、そのさるの刻限の直前。

 鎌足かまたりは遂に、この御所の最深部と思われる、別棟の神殿へと繋がる渡殿わたどのを前にしていた。

 美しい玉砂利たまじゃりの広大な庭園を望むその大きな神殿と広間は、この内裏だいりでは『紫宸殿ししんでん』と呼ばれているらしい。


 この紫宸殿ししんでんからは、主屋おもやの横にそびえ立つあの巨大な赤の大鳥居と共に、御所の正門が見えた。

 と言う事は、正門から入っていたならばすぐに辿り着けた場所に、一番遠い裏門からぐるりと遠回りさせられたことにもなる。


(なんだ、これも嫌がらせだったのかもな)


 鎌足かまたりは気を取り直して、改めて紫宸殿ししんでんを見つめた。

 長い渡殿わたどのから見える外観、高さ十間(※18m)を超える檜皮葺ひわだぶきの屋根の重厚さに圧倒される。

 今まで案内されてきた座敷も、伝統や格式を感じる格別に厳かな内装ばかりだったが、この紫宸殿ししんでんの内部は、それらを遥かに凌駕りょうがする素晴らしいものだった。

 数十人もの人間が入ることのできる広さも桁違いだったが、壁や天井を彩る大陸渡りのきらびやかで豪華絢爛ごうかけんらんな装飾の数々が、寝殿造しんでんづくりの重厚さに“華”を加えて、類稀たぐいまれな神々しさを放っている。


「⋯⋯さあ、どうぞ。既に従六位じゅろくい以上の位の文官の皆々様は、全員集まっておられます」

 

 鎌足かまたりは案内役に先導され、紫宸殿ししんでんの中へと通された。

 紫宸殿ししんでんの中には、御所でも位の相当に高いと思われる公家たちが、左右にずらりと列を成して座していた。

 その顔は誰もが薄笑いを浮かべて、入ってきた鎌足かまたりに好奇の視線を送っている。


 この謁見えっけんの場に至るまで、廊下ですれ違う何人かの公家に挨拶をしてきた鎌足かまたりだったが、“個”ではなく“集”の公家たちを前にして、警戒心は一気に増していた。

 広間の中央近く、所定の位置に移動して座した鎌足かまたりは、改めて公家という”生き物“一人一人の顔をじっくりと眺めてみる。

 鎌足かまたりの瞳に映ったその“生き物”たちは、江戸の侍や町人農民、京都の市井しせいの人々など、鎌足かまたりが今まで見てきた人間たちとは明らかに異なる存在に思えた。


(⋯⋯うーん、この左右に囲まれる情景。八日前の伊賀屋敷と似ているな。でも此度こたび集うのは、ともすれば忍よりも裏や謎が多くて、得体の知れない奴等やつらばかりだ)


 鎌足かまたりがそう思う理由の最たるものが、公家の伝統でもあり地位や身分の高さを表す、顔と歯にべっとりと塗られた白粉おしろい御歯黒おはぐろ

 昼間でもやや薄暗い紫宸殿ししんでん内では、この無数に連なる白い顔が、特に非日常的に妖しく不気味に見える。

 京都御所内では当たり前の光景なのかもしれないが、四年間ずっと江戸で暮らしてきた鎌足かまたりにとっては、とりわけ異様に映る光景だった。


(さて、あの日取りのふみをはじめ、嫌がらせを提案したのはこの中のどいつだろう)


 沸き上がる心の声を押し殺し、鎌足かまたりは、ゆっくりと低頭した。


(後は⋯⋯、帝だな。まだいらっしゃらないのか)


 頭を上げた鎌足かまたりの正面、十五間じゅうごけん(※約27m)ほど先に設けられている上座には、まだ誰も座して居ないように見えた。

 居ない”ように見えた”⋯⋯、そう鎌足かまたりが感じたのには理由がある。

 上座には四方を取り囲むようにして、御簾みすが掛かっていたのだ。

 しかもどうやら御簾みすは二重になっているようだった。


(四方に、しかも二重ふたえ御簾みす? これではぼんやりと誰かが座っている程度にしか見えないぞ。⋯⋯余程姿を見られたくないのかな?)


 その時、遠くの方からさるの刻限を告げる鐘の音が聞こえてきた。

 御所内にときを伝える役目を担う、何処かの寺院の鐘撞かねつき堂からなのだろう。

 撞木しゅもくで突かれた鐘の鈍い低音は、紫宸殿ししんでんの凛とした広い空間内に反響して、床に座している鎌足かまたりの足や手に、その一鐘一鐘の重みが振動として伝わってきた。


(一つ、⋯⋯二つ、⋯⋯三つ、⋯⋯四つ、⋯⋯刻限だ)

 

 約束のさるの刻を迎えた。


 しかしまだ上座には誰も居ない。

 ⋯⋯ように見える。


 紫宸殿ししんでんしばらく静寂のときが流れた。


 居並ぶ公家たちは相変わらず物珍しそうに、にやにやと鎌足かまたりを眺め続けている。

 中には怪訝けげんな表情で鎌足かまたりをちらちらと横目で見ながら、隣同士でひそひそと話をしている者たちもいる。


(薄笑いしながら何の話をしてるんだ? まあ、たぶん悪口だろうけど。⋯⋯はぁ、完全に孤立無援で気まずいなあ)



 そして五つの鐘の音が鳴り止んでから、四半刻しはんとき(※30分)近くが経った頃だった。

 左右に並ぶ公家たちの視線が、鎌足かまたりから上座へと一斉に移った。

 その動きで鎌足かまたりも全てを察する。



 ⋯⋯帝が紫宸殿ししんでんにやって来た。



 鎌足かまたりは公家たちの視線の先を追った。

 しかし、鎌足かまたりは参上する帝の姿を目にすることができなかった。

 姿を見せないのが御所の儀礼の一つなのだろうか、入口の扉から上座までを屏風びょうぶ薄垂うすたれ幕で囲み、帝の通り道は外からは見えない様になっていたからである。


(⋯⋯帝、⋯⋯来た、のか? これだと私からは勿論もちろん、公家たちからも帝の姿は全く見えないのでは?)


 帝がたった今、上座に座したようには感じる。

 上座に掛かる御簾みすの向こうにも、先程見えなかった人影が確かに見える。

 しかし鎌足かまたりの位置からは、顔も体格もその容姿は全くもって見えなかった。

 

 そして帝の用意が整った合図だろうか。

 一人の公家が御簾みすの内側から現れ、御簾みすの外、帝のすぐ傍に座した。

 帝を紫宸殿ししんでんに案内してきたと思われるこの公家は、恐らく帝の最側近の一人なのだろう。


(帝の意思や言葉を聞きながら、それを代わりに伝える役目なのかな⋯⋯。白粉おしろい御歯黒おはぐろは無さそうだ。文官ではなくて武官か?)


 帝と側近、そして今の鎌足かまたりの立ち位置から考えると、どうやら帝とは直接に話は出来ないようだった。

 江戸城で将軍が入室する時と同じ様に、「帝のおなり〜」などという掛け声と共に、帝が広間に入ってくる⋯⋯、そんな姿や場面をこの内裏だいりでも想像していた鎌足かまたりにとって、これはかなり拍子抜けの対面となった。


(⋯⋯何はともあれ、やっとか。はぁ、緊張するなぁ)



 謁見えっけんの挨拶を考えてくれた甚左じんざの顔がぎる。

 鎌足かまたりは気合を入れ直すため、着物の襟や袖を軽く整え、深く深呼吸した。

 そしてゆっくりと再び低頭し、一言一言丁寧に心を込めて、帝へ挨拶の言葉を述べた。

 

「お初にお目にかかります。江戸城公儀御庭番小頭えどじょうこうぎおにわばんこがしら、伊賀の鎌足かまたりでございます。以後お見知り置きを。此度こたび御帝みかどからの火急の親書ふみを受け、御帝みかど並びに御所の危難に将軍殿も酷く心を痛めております。前回の鬼の襲撃から数え、およそ七十年ぶりの国難。よってとう内裏だいりの警備の方々と共に手をたずさえ、羅生門らしょうもんとやらより現れいでにっくき鬼どもを滅ぼし、そしてこの日本ひのもとまもるべしと此度こたび将軍殿から上意を受け、つたなき腕ながら剣を手に取り、急ぎ江戸より参上仕(さんじょうつかまつ)りました。御帝みかどに致しましては大変にご機嫌麗しく⋯⋯」



 ⋯⋯まだ挨拶の途中だった。



「ふあぁ、長い、長い、長いのう、あくびがでるわ」


 鎌足かまたりの言葉を遮り、左の列の奥に座る一人の公家が大声で口を挟んできた。


(⋯⋯は?)


 会話の途中で遮るのが公家の礼なのか。

 鎌足かまたりは思わずそう言いかけた。

 それでも鎌足かまたりは頭を上げるのを何とかこらえ、苛立ちの舌打ちも口には出さずに呑み込んだ。


「つまらぬ長話は麿まろは嫌いじゃ。御使者殿? そんな長い挨拶ではあっという間に陽が沈んで、それこそ鬼が出やる夕刻ときとなってしまいまするぞ。それに麿まろは公務であれこれ忙しく、御使者殿ほど暇ではないのじゃ。さあ、御使者殿、もっと短く、もっと分かりやすく、まとを射て話をされよ」


 一方的に鎌足かまたりの話を止めたその公家は、扇子で顔をぱたぱたとあおぎながら、御歯黒おはぐろを見せつけるように冷たく鎌足かまたりに言い放った。

 その一言一言に明らかなとげを感じる。


(⋯⋯御前もそれなりに話が長いじゃないか)


 その公家の横柄で飄々とした態度は、鎌足かまたりの苛立ちを更に募らせた。

 唇を震わせながらも、それでもまだ鎌足かまたりは何とか堪えていた。


「申し訳ございません。話が長くなりました。帝を守るために参上しました。内裏だいりの警備の心づもりはできていますので、何なりとお申し付けを」


 鎌足かまたりは、当初のかしこまった挨拶とは異なる、短くあっさりとした挨拶に言い換えて、震える唇を噛み締めた。

 その短い挨拶を聞いて、今度は右の列の奥、少し小太りな公家が口を挟んできた。


「ややっ、その物言い! ⋯⋯ほほほ、まるで礼儀を知らぬ者と見えるのう。遥々と江戸からの長い旅路の果て、どのような由緒正しき御仁ごじんが来やるか、皆で楽しみに集まってはみたが、ほほほほほ、これはこれは。ただ下賤げせんな田舎者じゃったわ。全くもって期待外れ、のう、皆々様? ほっほっほっほ」


 その小太りの公家は、鎌足かまたりに悪態をつきながら、周りに居並ぶ公家たちにも同調を求めた。

 そしてその同調に応えるように、周りの公家たちも一斉に笑い出し、低頭する鎌足かまたりの上から高笑いと嘲笑の雨あられを投げかけ始めた。


(⋯⋯⋯⋯)


 その場の状況を見定めようとしているのか、公家たちの肩を持っているのか、帝からは何の言葉も無い。


 左列の中央、痩せぎすの公家の男からも、鎌足かまたりを馬鹿にした声が飛ぶ。


「そしてその身なりよ。その品位のないころもや小汚い髪は物乞ものごいの真似でもしておじゃるかや? 無礼にも程があろう。御使者殿、江戸での御身分は何ぞや? 大名だいみょう奉行ぶぎょうか? いやいや、先程ちらりと耳にした話では何と裏門からの参上とか。⋯⋯ほっほっほ。さすれば、組支配くみしはい目付めつけか。御使者殿? その御身分は? 皆に聞こえるよう、はっきりと、はきはきと、申してみなされ」


「先程も言いましたが。御庭番小頭おにわばんこがしら⋯⋯、です」


「⋯⋯は? ⋯⋯御庭番おにわばんとな? 何じゃ、その役職は? 聞いたこともないわ。江戸城の庭を掃除でもするお役目かな? ほっほっほ」


 左右の列の至る所でまた笑いが起こる。


「伊賀の⋯⋯、忍、⋯⋯です」


 低頭したままの鎌足かまたりの辿々しい返答に、公家たちが再びどっと沸いた。

 そして増長した別の三人の公家たちが、左から右から口々に鎌足かまたりを罵り始めた。


「⋯⋯忍!? 忍と申すか? 嗚呼ああ、怖ろしや恐ろしや、何ということじゃ。天下の将軍殿がつかわした御使者が、まさか下賤げせんなる忍とは!? それに小頭こがしらと言っても、身分は麿まろらの下の下の下の下の下のその下! 何という非礼な仕打ちじゃ。この京を、帝を、愚弄ぐろうしておられるのか? 御使者殿?」


(⋯⋯⋯⋯)


「しかもじゃ、聞いた所によると鬼と戦うために徳川の将軍殿がよこしたのは、此方こちらの御使者殿の他はたったの、三人。この目の前の小者こものを合わせて四人のみだとか。ほほほ、四人で何ができようぞ。⋯⋯ほっほっほ、さては四人で蹴鞠けまりでもたしなみに来たのかや?」


(⋯⋯⋯⋯)


「臭い、臭い。皆々様方、何か臭いませぬか? これは田舎の土の臭いじゃ。ほほほ⋯⋯、どこからじゃ、どこから、じゃ? ⋯⋯ん、ほれ? 何ぞ、臭いの元は御使者殿じゃ。貴殿が今座っておる床板ゆかいたからはやもう腐り始めておるわ。この由緒正しき神聖なる紫宸殿ししんでん。足蹴にしてけがすとは、何と薄汚うすぎたな不埒ふらちな男じゃて。さあ、その汚く無礼な衣は全て脱ぎ捨て、素っ裸で行水ぎょうずいでもして出直して来や」


「⋯⋯⋯⋯」


「ほれほれ、どうされた? はよ脱ぎや。謝罪の裸踊りでもして、集まった麿まろらの労をねぎろうたらどうじゃ? さあ、はよ、はよ」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


「おほほほ。御使者殿、遠慮はいりませぬぞ。ささ、その汚い衣やふんどしどぶにでも捨て、麿たちの目に止まるをほまれと思い、真心を込めて踊りなされ、はよ、はよう」


「⋯⋯できません、女ですから」


「⋯⋯ほ?」


「私は男ではなく、女ですから」


「⋯⋯お、⋯⋯お、⋯⋯おなご!?」


 鎌足かまたりの発言にその場がざわめき、公家たちの間に動揺の波が広がった。

 そしてそれはすぐに、鎌足かまたりへの新たな口撃こうげき材料となった。


「⋯⋯ご、御使者殿、いま、女子(おなご)、と申したかや? お、おおおお、何と、何と言う事じゃ。鬼と戦うために江戸がよこしたのがおなごとは。徳川殿は気でも狂うたかや? 皆々様、これは決して看過ならぬ由々しき事態ですぞ。徳川殿はきっと御乱心なされたのじゃ」


(⋯⋯⋯⋯⋯⋯)


女子おなごの身で、どう恐ろしき鬼どもと戦うと申すのじゃ? 麿まろらを愚弄ぐろうするのもいい加減にしなされ。しかもよく見ればまだ小便臭い子供ではおじゃらぬか。麿まろらと同じ息を吸うなぞ、おこがましいわ! れ者め!」


(⋯⋯⋯⋯⋯⋯)


 公家たちから鎌足かまたりに向けて飛ぶ高らかな冷笑。一切の遠慮を無くした罵声。

 此処に至ってもまだ帝は沈黙を貫いている。


 鎌足かまたりは怒りを抑えきれず、女子おなごであることを隠し通せなかった。

 しかし自分が女子おなごであると告げた時の公家たちの反応は、鎌足かまたりの予想を遥かに上回っていた。

 度を越しているとしか思えない罵詈雑言ばりぞうごんを前に、鎌足の苛立ちは遂に限界点を迎え、堪忍袋かんにんぶくろの緒どころか、その袋すらも裂けようとしていた。


(帝が何も言わないのを良いことにこいつら⋯⋯。私は何を言われても良い。が、徳川の将軍様、伊賀の大事な仲間たち、それを馬鹿にするなんて、⋯⋯許せない)



 鎌足かまたりの目が鋭くきらめき、そして右手が自然と動いた。



「帝? このようなけがれた小者こものは早々に江戸に突き返し、正式な抗議のふみを江戸に送⋯⋯」


 一人の公家が、御簾みすの向こうの帝に、何かを進言しようとした時だった。



 ⋯⋯突然の、風を切る刃の音。



 ⋯⋯鎌足かまたりまとう羽織の下、腰に潜ませていたはずの鬼切丸おにきりまるが、紫宸殿ししんでんの冷え切った虚空こくうを飛んでいた。



 鬼切丸おにきりまるは残響を残しながら、公家たちが左右に並んでいる間を抜け、そして鎌足かまたりの向こう正面の壁、二間(※約4m)程の高さに勢いよく突き刺さった。


 七十年前の鬼との戦いで半分に割れているため、鬼切丸おにきりまるは小振りで通常の刀よりも軽い。

 それゆえに、壁に刺さった鬼切丸おにきりまるが揺れるきしみの音は、まるで鬼の低い唸り声のように、紫宸殿ししんでんの中にしばらくの間響き続けていた。



 紫宸殿ししんでん内は、一瞬にして静まりかえっていた。

 あれ程騒々しかった公家たちの誰もが口を閉ざし、あごが外れそうな程に口をぽかんと大きく開けて、ぶるぶると震えていた。

 中には腰を抜かしている者や、四つん這いになって逃げ出そうとしている者さえ居た。


「⋯⋯ひいっ」「⋯⋯ひゃあっ」「⋯⋯あががが」

「⋯⋯ほへぇ」「⋯⋯あわわわ」「⋯⋯なななぁ」


 

 ゆっくりと頭を上げていく鎌足かまたりの眼前を、鬼切丸おにきりまるの刃身を包んでいた白布がひらひらと舞い落ちていく。

 そして鎌足かまたりは、怒りと憎しみの炎を宿した鋭い目を更に細め、唖然とする公家たちを睨みつけた。



 ⋯⋯左。


「あひいっ」「うひゃあっ」


 ⋯⋯右。


「ぎゃあっ」「ひいいいっ」


 ⋯⋯また左。


「あわわ、あわわわわ」「はがが、ほげえぇぇ」



 鎌足かまたりは公家たちを脅えさせるそのまなこを左右にゆっくりと動かし、そして最後は正面の帝の御簾みすだけを見つめながら、殺意を圧し殺した低い声で呟いた。



「⋯⋯うるさい。邪魔だ。黙れ、薄汚い御歯黒おはぐろども」━━━━。




第15話も最後までお読み頂きありがとうございました。

創作の励みになるので、ブックマーク、評価、感想等もお待ちしています。

★次回第16話「村雨」は1月22日夜に公開予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
紫宸殿、とても美しいお名前ですね!平安時代を思わせる描写落ち着きます❁⃘*.゜
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ