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BLUE ZONE―生きたくば逃げろ―  作者: オーメル


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【九十点】短いスパンで勝負を決めろ

「――あの放置された生産施設の土地を貰いたい?」


 翌日。

 久し振りに穏やかな気持ちで寝た俊樹は、ヴァーテックス本部の業務が開始された時間帯に東雲に連絡を送り、昼食を手早く口に突っ込んでから表向きは護衛役の怜と共に本部に寄った。

 忙しい状況であるにも関わらず、許可をくれる東雲は流石の器の広さだろう。後々に残した場合の恐ろしさを加味した結果とも言えるが、そうとは知らずに俊樹は東雲と対面同士で座りながら早速話題を切り出した。

 現状における問題は多い。ヴァーテックス本部とて決して余裕のある状態ではなく、資金的にも人数的にも度重なる損失で多少であれども削れた。

 特に日本はあまり戦闘とは無縁だ。本能的な部分で戦いを忌避し、故に直接的に戦力となる人員を確保することが難しい。

 

 加え、資源の増産が不安定になっている。今は万が一を考えて貯蔵されている分があるから露見することはないが、これから更に増産されなくなればやがて貯蔵分も消えて全てが露見するだろう。

 そうなった時、矢面に立たされるのは政府ではない。勿論政府も批判の対象ではあるが、四家の悪を世間に見せた瞬間に抑止力であるヴァーテックスは何をしているのかと罵詈雑言を投げ掛けられるだろう。

 彼等の税金によってヴァーテックスは今も継続が許されている。市民が彼等の現状を良しとしなかった時、その時はあらゆる国が自国軍を再度復興させるだろう。

 そうして自身の国は自身で管理すると言い出し、五百年前の状態にまで逆戻りを起こす。

 

 何処の組織も今が時代の転換点だと考えて行動している。

 会議に会議を重ね、来る戦いの余波に対する市民達の防衛案や敗北後の組織人の未来に向けた方針。軍の復活や税金周りの話は特に活発的に議論され、中には皮算用に必死になっている者も居る。

 直近の事件については隠蔽を終えて動き出させたが、これが終わったところで第二第三の騒動が起きるだけだ。なるべく穏便に済ませたい東雲としては、この騒動を早期に終結させたい。

 そんな中での俊樹の話だ。真剣な彼が考え無しに言ったことではないと思いつつも、余計な手間をまた一つ増やすつもりかと文句を言いたくなったのは致し方ないだろう。


「それは、先に土地を手にして相手の侵入を牽制したいからか?」


「いえ、そこまで深い理由は無いんです。 単純に言ってしまえば、あの渡辺家の男を含めた人員を収容する場所が皆無でして……」


「ああ……確か今はホテル住みだったか」


 片手で後頭部を掻きながら困った顔をする俊樹を見て、そういえば彼等に経済力は無かったなと思い出す。

 昔日であれば自分達の力で何とかしたのであろうが、今は彼等は追われる身だ。最大の脅威から狙われているからこそ、迂闊に自分で金を稼げと言うことも出来ない。

 本人としても心苦しいのだろう。出来れば自分の手で解決したいと考えている筈だ。

 その上でこうして話を持ってきたのは、単純に困っている部分が大きいからだ。

 ただし、彼はそうでも他がそうであるとは思ってはいけない。東雲は入り口横の壁に寄り掛かっている怜を見て、そう考えずにはいられなかった。


「解っているとは思うが、そこは次の戦地だ。 住むとなれば襲撃が頻繁に発生するだろうし、そもそも生活環境を整えるだけでも時間が掛かる。 直ぐに住めると考えるのはおかしいと思うがな」


「そうですね。 自分も普通の手段しかなければ考えもしませんでしたが、幸いにして不可能を可能にする集団が傍に居ます。 おんぶに抱っことなってばかりですが、そもそもあそこは彼等の土地ですから頼った方が効率的でしょう」


 彼等が居なくなってから、あの土地は最初の入念な調査以降はまったく調査されなくなった。

 錆びた金属の塊に、無数に生える草木。近くの学生が時折度胸試しと称して内部に入ることはあるそうだが、それを除けばまったくと関心を示されたことはない。

 放置された場所を復活させるのは難しいことだ。一度建物を完全に壊し、地下に蔓延る劣化した下水管等も完全に交換する必要がある。

 それは少人数で出来ることではない。大量に、かつ国家事業並の資金を求められるのは間違いない。

 俊樹だけであれば不可能だったそれを可能にしたのは、やはり超常の存在である。


 大英雄率いる嘗ての組織人達は、少数だけでも笑うしかない成果を叩き出した。

 その最たる物として彼等が運用していた巨大な船があり、人々はそこを彼等の国として認めてもいた。

 今は失われた国であるが、あそこを元通りにすることは今の彼等でも十分に出来る。何せ陣頭指揮が可能なリーダーに、優秀な技術者が既に集まっているのだから。

 人手はこれからオームが連れて来る。それらと協力すれば、嘗ての威光を取り戻した生産拠点が戻ってくるだろう。


「……個人的に。 本当に個人的な話だが、私は渡しても構わないと思っている。 実の所、あそこをヴァーテックスが所持しているのは他に任せられる組織が無かったからだ」


「そんなに周りは腐っていたと?」


「腐っていたという表現は少々アレだが、まぁ嘗ての英雄の顔に泥を塗るような考えを持った連中だったよ。 あそこ一帯をレジャー施設に変えようだとか、豪邸を建てて自分は所縁の地を任せられるに足る人間なのだと自慢しようとしたりとか」


「それは、またなんというか……」


 人の悪性は消えてなくならない。言っている本人が忌々しい顔をしている辺り、過去にもっと多くの野心家が英雄所縁の土地を所有しようとしていたのだろう。

 その殆どが四家が有するに至っているが、そこだけは本当に英雄達が使っていた施設の残骸があるだけだったから放棄されていた。

 何が悪いかと言われれば、それは人の悪性だ。彼等に対する恩を踏み付け、自身の名誉を優先するなど醜悪でしかない。

 感謝には感謝を。それが普通であった筈なのに、腐る人間の思考は何処までも屑でしかなかった。

 故に、最終的にはヴァーテックスが有することになったのである。あの土地を誰かの私物にしてしまわないように。


 聖地なのだ、本当は。

 祀り上げるなと過去に注意をされたそうだが、それでも人々の生存に重要な意味があった場所なのだ。

 だから特別扱いはせずに、歴代のヴァーテックスの長は一切の手を入れなかった。

 そこに手を入れて良いのは嘗ての者達だけなのである。そして今、その嘗ての者達が土地を欲していた。半ば以上放置をしといて何を言うかと思うだろうが、それが逆に正解なのだ。

 

「――女帝殿。 どれくらいで連中を跳ね除けられる程進めることが出来る?」


「防壁を基本とした簡単な内容なら一日も必要としない。 ルリ一人でも徹甲弾一発もまともに通らぬ壁が作れるだろうさ。 攻撃については此方が全力で応戦するし、そもそもそちらも戦力を出す手筈になっている。 奴等の偵察部隊を叩くだけでも十分以上の用意は可能だな」


「ならその後だ。 我々は一度とて手を入れていない。 当時そのままの形として残し、渡すことになる。 上層部は知っていてもそれより下の連中はお前達を知らない。 あの土地を有する言い訳をどう用意する」


「簡単な話だろう。 ――土地の所有者はこの子だ」


 軽く人差し指で俊樹を差し、当の本人もそうだよなぁと苦笑する。

 四家との戦争はどうしたって派手になり、過程の出来事を記者や一般市民が見ることになるのは避けられない。どれだけ丁寧に隠そうとしたって、爆音や衝撃波が発生すれば誰だって何が起きているのかと騒ぐものだ。

 特に無くなっていたとされる船すら登場予定である。もう世界が引っ繰り返る程の衝撃が駆け巡るのは確定だ。

 その全ての責任を俊樹が背負う。彼こそが後継者であると世界に示し、彼が居なくなれば終わりだと周りに叩き付けるのだ。

 これからの時代を作るのは彼だ。彼が思い描く世界こそ、次の彼女達の道標となる。

 当人はまったくそれを望んでいないが。


「……同情するよ、本当に」


「出来れば手助けをお願いします」


 項垂れる青年を見て、東雲は自身の座っている席が急に軽くなったように感じてしまった。

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