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BLUE ZONE―生きたくば逃げろ―  作者: オーメル


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【八十九点】いざ、最強の要塞を目指して

 演説と表すにはあまりにも短い演説は、確かに彼の部下達に届いた。

 元々、彼等は自身を照らしてくれる灯を求めていたのだ。それを悟に見出していたというだけで、他に先頭を歩む者が居ることを彼等は歓迎する。

 才無きが故に我等は考える葦だ。己が求める宇宙を包む為にも、あらゆる全てを消耗して望んだ未来を作り出す。

 彼等はヴァーテックスとは敵対関係にはない。寝返った彼等を敵として見ることは俊樹達には出来ない。けれども、だから此処に置いて良い訳でもない。

 構築された組織に異分子が入り込んでは不和を生む。特にヴァーテックスに入った者達は厳しい試験を突破した集団であり、如何に実力があろうとも上の判断で入ることを許された者達に対しては胸の内にもやもやを抱えたままになってしまう。


「とはいえ、僕等には今使える大型の拠点が無い」


 一旦、悟達を適当なホテルに分散して宿泊させた後、家への道を進みながら怜は俊樹に危急の問題を告げる。

 ヴァーテックスの総大将である東雲でも彼等全員を受け入れることは難しい。予算とて無限ではないし、かといって彼のポケットマネーで賄うには数も多い。

 数人程度ならば良いだろうが、数十人規模の集団を養うにはどうしたって数百万の金が動く。

 それを毎日消費すれば、東雲が保有しているあらゆる資金が底を尽く。故に、怜は先ずこの問題を解決しなければならないと考えていた。

 

「何処か適当な土地で作るとか?」


「一番の解決策はそれだろうね。 土地を買い上げて自身の物とする。 その上で彼等が生活するに足る基盤を構築すれば、即座に餓死するような状況からは脱することが出来る」


 とはいえ、それはそれで問題だ。

 俊樹も薄々ではあるが察している。それを成すには、どうしても最初に消える資金が不足しているのだ。怜達は蘇ったばかりで資金なんて皆無であり、俊樹や彼の父が有する貯金も決して多くはない。

 土地を新たに購入するなど夢のまた夢。働ける未来が限りなく少ない現在において、分割払いで何かを購入するのも難しいだろう。

 俊樹の受け入れる姿勢は素晴らしいが、その後がまるでお粗末だった。そこまで考える余力が彼に無かったというのが大きいものの、それでも現実とは理想論だけで全てが解決する訳ではない。

 

「ちなみに彼等の持ち出した資金も潤沢とは言い難い。 ホテルを使える期間も一ヶ月が限度だね」


「それを過ぎれば、地盤から完全崩壊か」


「まぁね。 さて、ではどうしようか?」


 にやにやと意地の悪い笑みを怜は俊樹に向ける。

 彼がどういった選択をするのかは解っている。解っている上で、それでも彼女は彼に悩んで案を出してほしい。

 この問題は実の所、明確な解決方法が存在する。それ自体は珍しいものではないし、東雲に相談すれば許可は下りるだろう。そこまでに彼の思考が及べば、十分に合格点だと言える。

 苦しい生活を送らせるのは彼女の本意ではない。正道を真っ直ぐに進もうとする人間に苦労ばかり与えては挫折しかねないのである。

 悩む彼と共に、二人は家に到着した。呼び鈴を鳴らすと――やはりというべきかルリと彼の父が一緒に出て来る。


「……久し振りに感じるな」


「あはは、僕は一瞬のようにも感じるけどね?」


「親父、ただいま」


「ああ、疲れたろう。 早く入って休め」


 見た目は普通の一軒家。

 だからこそか、俊樹には父の姿も相まって昔に戻ったような錯覚を感じた。

 無論それは一瞬のことで、玄関を抜けて最初から設置されていた紺のソファに身を沈めれば消えていく程度の錯覚だ。

 父が白いマグカップに注いだお茶を差し出し、彼は無言でそれを受け取る。

 鼻は料理の匂いを捉えた。丁度夕飯の時間だったのか、皆が御飯を食べる机の上には大きな皿に無数の料理が並んでいる。どう見ても父だけでは消費し切れない食事量だ。


「俺、帰る連絡したっけ?」


「ん? ……ああ、ルリの奴が用意したんだよ。 怜から連絡を受けたっつってな」


 無言で視線を食事の席に着く怜に向ける。彼女はまったく彼にウインクを送り、用意しておいたぜ?と言わんばかりに胸を張った。

 重要な話ばかりしていたのに、小さな部分にまで意識は向けていたというのか。いや、彼女にとってあの船以外についてはどうでも良い部分なのだろう。

 現に悟の存在は居ても居なくても変わらなかった。仮に間に合わずに死んだとて、彼女は何の感慨も抱きはしない。精々が勿体ないことをしたかと思うくらいだ。

 怜は本質的に善人ではない。女帝と言われるくらいならば、残酷性の方が強いのは当然だろう。

 俊樹も食事の席に着き、随分久しく感じる料理に空腹を覚える。そのまま白飯片手に料理を一口放り込めば、暫くは食べることに全力になった。


 その間に怜の口からルリと父に現在の状況を伝える。

 思っていたよりも酷い状況に父は顔色を悪くさせるも、ルリはそんなもんかーと軽い反応で済ませる。

 父達は普通に過ごしただけだ。時折ヴァーテックスの隊員が確認に来るが、それ以外は完全に放置されている。金は全て父の口座に送られ、その額は彼の半年分の給料に相当するとんでもない額だ。

 少なくとも、ボロの集合住宅であれば半年は何もせずに暮らせるだろう。だがこれが息子達の尽力による成果かと思うと、父としてはまるで少なく感じた。

 

「……なんというか、急に息子が遠い存在になっちまったな」


「止してくれ、望んでなった立場じゃない」


 話をするだけして、食事を終えた怜は俊樹が結論を出すのを待ちながらも寝ることにした。

 彼女に寝るという機能は無いが、強引に意識を絶てば寝ることと同義になる。ルリは自身のボディの電源を落せば寝ることになるが、それでは何かあった時に困るとセーフモードで布団に転がっていた。

 俊樹と父は二人だけで机を挟んで座っている。マグカップにペットボトルの茶を注ぎつつ率直な感想を口にする父に、俊樹はとんでもないと首を左右に振った。

 

「解ってるさ。 俺だって自分の息子が好きで活躍してる訳じゃないってのは。 ま、でも実際にお前さんは結果を出している。 何か知らんが部下も出来たみたいだしな」


「戦う度に死に掛けてるんだけど……。 それにあいつが俺に忠誠を向ける意味もよく解らんし」


 俊樹は随分と老け込んだ顔で溜息を零す。 

 親子揃っての会話は、その殆どが愚痴で埋められている。どうして自分がこんな立場にだとか、直近の問題をどうするかだとか、先ず学生が持つ筈のない愚痴が口から飛び出してきていた。

 父親としては出来れば協力してあげたいが、かといって彼自身も保護される側だ。一般人相当の力しか無い以上、怪物同士の争いに介入することは難しい。

 死ぬつもりで一矢報いることが出来るかどうか。そんな博打を父は選択することは出来ない。

 

「どうすっかなぁ。 なんか無料で土地って手に入らないか?」


「地主がタダでってなら解らんでもないが、そうしたとしても毎年土地代を払わされるぞ」


「はぁ、税金ってホントクソ」


「激しく同意だが、まぁなんだ。 その放置されている場所を使えないのか?」


 え、と俊樹は目を見開く。

 何を驚いているんだよと笑いながら、父はカップを揺らして言葉を続ける。


「ヴァーテックスでも知ってる奴は殆ど上だけだろ? 碌に使われていないなら、拠点にしたって問題は無いと思うがな。 勿論許可は必要だが」


「――良いな、使えそう」


 あそこは現状、ヴァーテックスの土地だ。だからこそ意識から除外していたが、あそこの使い道については東雲を除けば誰も知らない。

 つまり、東雲さえ説得すれば無駄に払っていた土地代にも意味が出る。今や重要な意味を持つ場所だが、そこを手にすれば今後の動きもスムーズになるだろう。

 話をするだけの価値はある。俊樹は力強く頷き、カップに入ったお茶を一気に飲み干した。

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