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ルティス師匠

「これはこれはお久しぶりだな、ブルームーン」


 転移してきた男性が私に軽薄な声をかけてくる。

 私は首を縦に振るだけだ。

 金髪をざっくばらんに後ろに流し、笑顔を顔に湛えてはいるが、細い切れ長の瞳は笑っていない。

 長身にグレーのローブを纏い、その佇まいは怪しさしか感じられない。

 それでも、これでもコイツは私の師匠にあたる。


「お久しぶりです、ルティス師匠」


「わざわざワタシが出向いたのに紅茶の一つも出ていないとは。相変わらずだ」


「お話があります」


 相手の皮肉を無視する。

 私はこの男がキライだ。

 苦手とかではない。

 私に魔法少女適性があると言って様々な精神攻撃を仕掛け、ムダとしか思えない課題やセクハラの言動の数々。

 好意的になる要素がない。

 この男と少しでも接触したくなくて通信教育で魔法少女となった。

 この男への態度を葵ちゃんに少しでも見せたくなくて一人でいる時間に召喚した。

 結界を張ったのだってこの男にプライベートを見せたくない一心だ。

 そもそもあの男もこちらの嫌悪には気付いているので問題無い。


「初戦闘の報告か?今ここにいるのだから内容はどうにしろ成功したのでは」


「白の魔法少女ピュアハート。この魔法少女について調べていただきたいのですが」


「ピュアハート?ふむ。何か問題が?」


「問題はありません。師匠なら組織のほうで調べられるのではないかと思いまして」


 一方的な私の言葉にルティス師匠は少し思案するポーズを取る。

 ちなみに私はずっと腕組みのままだ。


「ふん、愛弟子の頼みですしね。調べてあげよう」


「ええ、よろしくお願いしますね、師匠」


 愛弟子の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で、組織で大きい顔が出来ている小物。

 それが私の師匠ルティスの評価だ。


 人には得意なことがある。

 私のように暗記が得意だったり、葵ちゃんのようにとっさの閃きだったり。

 だから私の成果を鼻にかけて大きい顔をしようがそれはその人の得意なことなのだろう。

 ただ、先ほども言ったように私はこの男を嫌悪している。

 私自身、自分の考えを子供だなぁと思うし、当たり前だなぁと思ったりもする。


「結果が分かりましたら宝石で連絡をお願いしますね、師匠」


「なるほど。たったそれだけのためにワタシを呼び出すということは、この情報は丁寧に扱おう」


『白の魔法少女ピュアハート』という情報を渡す相手としては問題ない相手だ。私の活躍は師匠の手柄になるのだから。


「そうそう。一つの地域に一人の魔法少女。これは魔法少女組織のルールですよね?」


「そうだな。この大神市には五人の魔法少女がいて、五つの地域に分けてはいるが、組織上の縦割りだ。共闘を禁じるルールではないさ」


 葵ちゃんはまだ魔法少女組織所属の魔法少女ではない。

 つまり私と共闘しても問題ないことになる。


「師匠。報告が遅れましたが昨日初戦闘を行い、魔物を撃破。本日も魔物が二体現れましたがこちらも撃破いたしました」


「ほうほう!」


 私の報告にルティス師匠は嬉しそうに声を上げる。


「さすが我が愛弟子よ!二日連続で魔物三体撃破とは!……一回で二体魔物が出るというのは不思議だが」


「魔物が二体同時に出る謎は師匠の管轄ですね。協力者と一緒でしたので問題ありませんでした」


「協力者?」


 さすがの師匠も聞き逃せなかったのか頬をぴくりとさせて私に視線を合わせる。


「まさか他の地域の魔法少女の手を借りるほどの相手だったか?」


「いえ、他の地域の魔法少女の手は借りていません」


「では協力者というのは?まさか一般人か?」


「それはルールに反しますから。野良魔法少女です」


「野良、魔法少女、だと?」


 私の言葉に頭を抱える師匠。


「まさか白の魔法少女ピュアハートというのは……!?」


「私の協力者です。ルールには反していないはずです。早めにピュアハートについて調べてもらえると助かります」


「その彼女に会わせてはもらえないのか」


「ダメです」


 師匠の当たり前といえば当たり前の言葉に私はすげなく返す。

 今でさえこの男はこの私が纏っている魔法少女のフリルいっぱいのフレアスカートや大きな胸元のリボンの奥を見透かそうと視線をやっているのだ。

 その気色悪さに虫唾が走る。

 こんな男の前に葵ちゃんは出すことなんて出来ない。


「それでは師匠御機嫌よう。わざわざご足労ありがとうございました」


 私は師匠の足元にある魔法陣を起動させる。

 師匠が一歩も動かなかったのは、いや動けなかったのはこの魔法陣のおかげだ。

 私がどれだけこの男に注意を払っているか分かってもらえるだろうか。


「ふん。精々私の評価を上げてくれたまえ、竹宮桃華くん」


 師匠が消える直前にニヤけながら放った言葉に、私はムカついたがもうそこにはあの男の姿はなく、代わりに宝石が置かれていた。


「はあ、疲れた……」


 ずっと気を張っていたため精神的な疲労感が私を襲うが、まずは……


「クレンジング」


 結界内の物理的魔法的洗浄を行う。すると


「やっぱり」


 あのクズが仕掛けていた盗撮魔法や盗聴魔法が山ほど出て来た。

 あの男は組織内で自分の身を立てることは得意だが、純粋な魔法の腕は私よりも下手だ。

 そう、通信教育だけ、教科書だけで魔法を覚えた私よりもだ。

 それが悔しいなら魔法の腕を磨けばいいだけなのに、今もこんな、私が油断をしたらラッキーくらいの魔法しか使ってこない。

 あの男を尊敬出来る日は金輪際やってこないだろう。


 ようやく全てが終わって私は変身を解き、結界を解いた。


「お風呂入って寝よ……」


 私は着替えを持つと風呂場へと向かった。

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