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魔法少女委員会

「先生すみません、体調が悪いので保健室行ってきます」


 四時間目の授業中の最中、静かな教室で私は手を上げ病人のフリをする。実際顔は青かったかもしれない。

 先生は私を見てこくりと大きく頷く。生徒第一に考えてくれる先生だし、普段の授業態度や成績が良かったのも考慮してくれたのだろう。


「桃華ちゃん大丈夫〜?一緒に行こうかぁ〜?」


 隣の席の智絵里が顔をのぞき込むように聞いてくる。

 私は弱々しく手を振って後ろの扉からゆっくりと教室を出る。そして周囲を確認しながら数歩足を進めたところで私は気配遮断と認識阻害の魔法を使い、三階から二階の空き教室へと急いで走っていった。


「失礼します!」


 空き教室には結界が張られていた。

 私が空き教室の扉を開けるとそこには女子生徒が一人、乱雑に机や椅子を教室の後ろに追いやり、五つの席だけが丸く配置されていて、その一つに腰掛けていた。

 後ろ手に扉を閉めると結界がさらに活性化した。


「早いな」


「私の管轄ですから」


 先にいた女子生徒、二年生の中島優子(なかしまゆうこ)さんが先に声をかけてきた。この先輩もまた魔法少女。

 大神市は大きく五つの管轄に分かれており、中島先輩はこの大神市中央が管轄だ。


「ちょっと電話失礼します」


 そう断って私は自分だけの結界を張る。これで声は漏れることはないし外から聞こえることはない。

 この学校に通っている私たち魔法少女はこうして情報交換こそ行っているけど、基本的に不干渉を是としている。

 そんな私たちの自称が「魔法少女委員会」なのだから魔法少女組織の命名を笑えない。

 すぐにスマホを取りだし葵ちゃんに電話する。


「葵ちゃん聞こえる!?感じた!?」


 葵ちゃんからの返答は早かった。


「感じた!」


「私今すぐ行くからー」


「僕が行く!」


 私が今すぐ行くから待っていてほしい、そう伝えようとした私の話に葵ちゃんが割り込んで叫んだ。

 葵ちゃんが昨日も助けてくれた。もしかしたら正義感が強いとか放っておけないとかそういう性質の持ち主かもしれない。だけど


「はあ!?結界まだ使えないでしょ!?」


「使える!!」


 諭すように脅すように言った私の言葉に、勢い込んで返ってきた言葉に驚いてしまう。

 え、封鎖結界なんて半日やそこらで覚えられるような簡単なものじゃないんだけど???私が何ヶ月かかったと思っているのか!?

 だけど。

 彼女はおそらく魔法については天才だろう。もしかしたら本当に使えるようになったのかもしれない。


「ほ、本当に!?」


 つい確認してしまう。


「うん、だから必要なこと教えて!」


 これ以上何を求めているのか?


「何?」


「いつ魔法少女になればいい?どう魔物のところまで行けばいい?」


「魔法少女になればレーダーとかには探知されないからそのまま私は空を飛んで行くけどまだあなた空飛べないー」


 私が喋っている間に電話の向こうから変身呪文が聞こえてきた。

 ウソでしょ!?

 本当に飛んで行く気!?


「もしもし!?もしもし葵ちゃん!?もしもし!!!」


 通話こそ切れていないが葵ちゃんからの返答はなかった。あああもう!!

 私は通話を繋いだまま結界を解く。焦る気持ちはそのままに憮然としていると、中島先輩が落ち着いた声で話しかけてきた。


「昨日初めて魔物と戦ったはずだが、二日続けてとは、ふむ、桃華くんも大変だな」


「はい、それでお願いがあるんですけど」


 先輩は慌てない。

 私はその態度にいつもなら尊敬の念を抱いているが、なるほど緊急時ともなれば歯がゆい思いをするという他の子の気持ちも今なら理解出来る。


「ああ。これで問題無い」


 中島先輩はそう言って手を広げる。

 いつの間に作り上げたのか、私を模した人形がどんどん大きくなり、やがて私とうり二つとなった。

 落ち着いていて、それでいて相手がしてほしいことを理解し先回りしてこなす。

 さすがはこの魔法少女委員会の長だけはある。


「分かっているとは思うが、簡単なやり取りしか出来ないぞ。早く帰ってきてくれ」


「はい!ありがとうございます!」


 私は先輩に手短にお礼を言うと


「マジカルガール イルミネーション メイクマイドリーム!」


 魔法少女ブルームーンに変身するとあとはもう振り返る事もなく二階のベランダから飛び出した。



 繋がったままの電話からは何も聞こえて来ない。

 少なくとも叫び声や助けを求める声、そして落下音や衝撃音が聞こえてこないのならひとまず安心といったところだ。


 葵ちゃんは飛行魔法を一回で成功させた。

 これは揺るがない事実なのだろう。彼女は魔法の天才だ。私のような凡人とは文字通り天と地ほどの差がある。

 そんな天才の彼女なら一人で解決出来るのでは?と私の弱い、黒い心が囁いてくる。

 だけどもすぐにそんな黒い心は消滅してしまう。

 だからどうした。

 彼女が天才だろうが神様だろうが関係ない。

 私は私に課せられた、出来ることを愚直にやるだけだ。


 魔物の気配は私の管轄地域。

 つまり大神市中央からは幾分か距離がある。

 全力で飛んでいるとスマホから封鎖結界の呪文の詠唱が聞こえてきた。

 一言一句間違いなく、淀みなく歌うように葵ちゃんの旋律が聞こえてくる。

 確かにこれは間違っていない……けれど、少し強度に問題があるかもしれない。


 私の魔法はどちらかというと我流だ。

 テキストを読み魔導書を読みノートに書いて覚えて考えて考えて考えて。

 少しずつ改良を重ねていっている。もちろんほとんどの魔法は実践では使ったことがない。こないだは失敗もした。

 だから強度の問題なんて私の取り越し苦労かもしれない。


 しばらくして再度封鎖結界の呪文詠唱が聞こえてくる。

 これはどういうことだろうか。

 思案を巡らせようとした瞬間。


 ガキャーーーン!!!


 ガラスが割れるような嫌な音がスマホから聞こえたかと思うと、通話が切れてしまった。

 封鎖結界が破られた!

 私が変なことを考えたせいだろうか?

 いや違う、所詮机上教育と実践は違うのだ。

 それを戦場で知ってしまっただけのこと。

 私は逸る気持ちを抑えてまっすぐ一直線に魔物の気配のする方向へ飛び続けた。

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