初めてのお風呂1
「……その説明は全部魔法少女組織からの情報なんだね?」
藤宮くんが質問する。
「そうね、魔法少女組織からの通達みたいなものね」
「じゃあどうやって竹宮さんは魔法少女や魔法少女組織を知ることが出来たの?」
「ああ、説明が足りなかったわね」
藤宮くんのツッコミに私は苦笑する。アレの説明は極力したくない。その気持ちが説明不足につながってしまったのだろう。右手の人差し指を頬に当てながら
「魔法少女組織のほうから人が来て、私に魔法少女の適性があることを教えてくれたのよ、それでスカウトされたってワケ」
とだけ説明した。言葉はまったく足りてないが嘘はついていない。
「言われた通りに呪文を唱えたら魔法が使えたんだもの。信用するしかないよね。そして魔物の話は魔法少女組織を信じるしかない。変に疑って結界の外で魔物が人を襲ったら後悔しきれないもの。知らないことなら私も責任なんて感じないけど、知ってしまったら、ね。そして」
私はここで一旦言葉を切り、
「現に魔物は現れ、私と藤宮くんは命を落としかけた」
と続けた。
この言葉で二人の間に沈黙が落ちた。
「さて、そろそろお風呂にしない?もうこんな時間だもの」
話を切り上げるように私は声を出す。
ここは私の家。私がリードしないとね。
藤宮くんが壁掛け時計を見上げる。
私たちにとって激動の一日が過ぎていた。
oooooooooo
「一人で入れるから!!!」
僕は必死に抵抗していた。
どうして同級生と一緒にお風呂に入るという、訳の分からない話になっているのか!?
確かにひっそりエロゲーは嗜んでいる(竹宮さんにはバレたが)し、女の子の裸に興味がないなんてそんな嘘はつけない。むしろ一緒にお風呂とか興奮する。
でもそういうのは妄想だからいい、というのが僕の言い分である。
自分の体になった女の子の体ですら現実味が無さ過ぎて虚無感を覚えたのに他人の女の子の裸とか今の心境じゃ今後僕の男としての人生で何らかの支障が出ることは間違いない。
「藤宮くん女の子の体洗ったことある?」
ため息をつきながら竹宮さんが聞いてくる。
そんな経験、彼女いない歴イコール年齢の僕にあるわけがない。
が、ここしかない。
「佳奈と一緒にお風呂に入って洗ったことあるよ!!」
嘘は言っていない。小さい頃一緒だっただけだ。
佳奈が第二次成長期を迎えてからは僕が遠慮して一緒に入らなくなったが、しばらく佳奈は一緒に入りたがったし、諦めた今でも下着姿でノコノコとリビングを歩き回っている。
そのクセ父に見られると嫌悪感を露わにするという、実に面倒くさい生き物に変化している。
妹の下着姿をしっかり見るのは憚られるがちゃんと切り分けている。切り分けられている。
それに対し同級生は。
夏服の背中からブラ紐が透けて見えるだけで心の中でガッツポーズをしていたほどなのに。
スカートがいつもより大きく翻るだけで視線が追いかけてしまうのに。
そんな純情ボーイにいきなり全裸は刺激が強すぎる。
大体次の日からどんな顔して会えばいいのだ!
ただでさえ竹宮さんは着やせするタイプだと気付いてしまって罪悪感に推しつぶれそうになっているのに。
そう脳内で押し問答していると
「コンビニで佳奈ちゃんからお兄ちゃんのお風呂どうぞよろしくお願いします、ってお願いされちゃったんだよね」
竹宮さんからそんな声が聞こえてきた。
「実際今の藤宮くんってとても綺麗な銀髪してるじゃない。こんな長い髪をしっかりお手入れ出来る?それに私だって恥ずかしいからバスタオル巻いて入るよ」
う、確かに。
頭を動かす度に長い白髪、じゃない銀髪?がサラサラと揺れ動いている。僕のお尻まであるこんな長い髪なんて触ったことなんて一度もない。佳奈も伸ばしているほうだがせいぜい肩甲骨までくらいだ。
それに竹宮さんもバスタオルを巻いて入るのだ。裸をさらすのは僕だけならまだなんとかなりそうだ。
実際のところ、この女の子の体は余りに自分とは思えなくて見られてもそこまで恥ずかしくなかったりする。
ここは竹宮さんの家。
魔法関係の話をするためにここに来たのもあるし、竹宮さんがゆっくり疲れを取りたかったのもあるだろう。
僕も疲れてはいるが主に精神的疲労だったりする。
ここは女の子に譲るべきだろう。
「分かったよ、一緒に入るよ」
「よかったぁ。それじゃ先に入ってね。かけ湯したら湯船に浸かっちゃっていいから」
安堵の笑みを浮かべた竹宮さんは
「私もお風呂の準備して来るね」
と言って知らない部屋に入っていった。
おそらくあの部屋が竹宮さんの部屋なんだろう。
僕の身仕度はさっきコンビニで買ったパンツとジャージ。
少しでも早く入って一人の時間、一息つこう。




