変身!ピュアハート
「だから魔法少女姿の藤宮くんを見たときはとても驚いたわ」
「私何か失敗しちゃったのかなぁって内心焦ってたの」
「もう私の替わりの魔法少女が派遣されてきたのかって」
彼女は目の前のコップを見つめながら独り言のように呟く。
でも、と顔を上げて竹宮さんはふっと笑顔を浮かべた。
「実際話を聞いてみたら実はその子は女の子になった藤宮くんで、私より落ち着きがなかったんだもの。逆に冷静になれたわ」
僕の慌てふためっぷりで竹宮さんが落ち着いたのなら良いことだ。
最悪なのは二人揃ってパニックになることなのだから。
「僕の着ていた服はその、魔法少女の衣装なの?」
「寸分違わずってことはないでしょうけど、どんな魔法少女の衣装でも多少のアレンジが入ってる。真っ白な衣装の魔法少女も見たことはあるわ」
つまり。
僕はいつの間にか女の子になっていて、さらに魔法少女にもなっていたと。
そしてどちらも理由は分からない、ときた。
「藤宮くんの話も聞かせて? もしかしたら何かヒントがあるかも」
竹宮さんの言葉に、今僕の言葉を唯一信じてくれる人に僕に起こった出来事を語ったのだった。
もちろん女の子の体に興味津々だったことは伏せて。
oooooooooo
「その女のせいね」
僕の話を黙って聞いていた竹宮さんが開口一番憮然とした顔でそう断言した。
僕もそう思う。
夢のような世界であっても見知らぬ女性が『ごめんなさい』と謝罪を口にし、目が醒めてみたら体格はともかくその女性と似たような服装の魔法少女になっていたのだ。
関連性ありありだ。
と、竹宮さんが話を変えてきた。
「そうだ藤宮くん、自分の意志で変身って出来る?」
「さっきの竹宮さんみたいな?」
竹宮さんが先ほど僕の目の前で魔法少女から竹宮さんに変身してみせた、あの変身の逆バージョンだろうか?
「あれはどちらかっていうと変装みたいなものね。さっき藤宮くんが解こうとしたアレ」
魔力膜のことか。
「魔法少女の衣装を着るほうの変身ね。どう、出来そう?」
「……方法が分からない」
「……私の変身のかけ声は『マジカルガール、イルミネーション、メイクマイドリーム』ね」
竹宮さんがゆっくりと、ワンフレーズずつ、区切って教えてくれた。
わざわざ区切ったのは……今変身したくないのだろう。
それはそうだ。
ただ、僕は確認する必要がある。竹宮さんが言った魔法少女組織に属しているなら何か分かるかも知れない。
「やってみていいかな?」
家主である竹宮さんに確認する。
「いいよ。変身が始まったら光ったりするけど魔力を感じない人には何も見えないもの。だから部屋から光が漏れることもないし音も振動もないの」
とても一般的な意見をもらった。
僕は椅子から飛び降りるとテーブルから離れ、竹宮さんの正面になる場所に移動した。
僕は深呼吸を何度か行い、精神を集中させると
「マジカルガール イルミネーション メイクマイドリーム!」
変身する呪文を唱えた。
変化はすぐに起こった。
僕の体が宙に浮くと僕じしんの意思とは無関係に両手両足が大の字に開いていく。
世界が虹色に包まれ、僕の着ていた服がするするとリボンのようにほどかれていき、僕は裸になる。
どこからか白い光の帯が現れ、僕の両足を片足ずつ包み込みヒールの高い白いブーツが現れる。
股間にも光の帯が巻き付きローライズの白い下着が出来上がる。ご丁寧に両腰は紐で結ばれている。
そして腰にも白い帯が巻かれ、次は胸だ。
存在をしっかり主張する胸はさりげなく周囲からお肉を寄せ、白い光の帯でさらにバストアップされた。
そして指先から二の腕の中程までを覆う長い白い手袋が両腕に装着される。
僕の体は両足を抱え込むように丸まり、赤いヘアバンドや金色のイヤリングが装着されていく。
ふたたび体を開きながら回転し、腰にふんわりとした白いスカートが幾重にも巻かれ、体中に白いリボンの意匠が施されていく。
そして僕はウインクをするとお化粧が施されていき、最後に右手の人差し指で唇を押さえると薄いピンクの口紅が塗られた。
そして僕は着地するとポーズを決めこう叫んだ。
「魔法少女ピュアハート、乙女のハートは私が守ります!」
oooooooooo
重い空気がリビングを支配していた。
リビングの壁を見つめ、膝を抱え体育座りをする白い魔法少女がその空気を作り出していた。
「魔法少女名が分かったね!」
「ピュアハートって名前なんだね!!」
「藤宮くんは魔法少女組織に属しているって分かったのは大収穫だよ!」
私は続けて言う。
あの詠唱で変身出来たということはやはり私と同じ魔法少女だということだ。
これは藤宮くんの不思議解明に向けて大きな一歩だ。
「……」
変身シーンとても可愛かったよ!喉まで出掛かった言葉をなんとか飲み込む。
男の子は可愛いと言われるのを嫌う。理屈では分かるけど可愛いのは可愛いのだから仕方がない。
このままでは埒があかないので助け船を出す。
「私も同じ変身するからさ、ね?そんな落ち込まれると私も悲しくなるよ~」
「ここまで変身中に意識があると辛すぎる……」
体育座りのままこてんと横になるドレスをまとった白髪の小さな魔法少女。
可愛い。
ようやく気持ちが浮上してきたのだから褒めるのはやめる。
「藤宮くん、次は変身を解いてみようか?」
彼の基礎確認はもう少し続くのだった。




