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俺と除霊とブラックバイト  作者: ゆずさくら


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33/103

(33)

 由恵ちゃんの後ろから、ショートカットの清掃員が近づいてくる。マスクを外すと、つややかな唇が見えた。

『美紅さん! 助けて』

 美紅さんはニヤリ、と笑い、掃除機を俺に向けた。床を濡らしていた赤い体液は吸い込まれ、俺の腹や手のひらに刺さっていた包丁も吸い込まれた。

『何をする』

 由恵ちゃんがそう言ったかと思うと、由恵ちゃんの肌が見る見る青く、黒くなり、目玉が落ちた。そうやってゾンビ化した由恵ちゃんが、俺の方に向き直った。

『お前をゾンビにしておこう』

 口を開いて近づいてくる。

『やめろぉ!』

 俺が言うと、美紅さんがゾンビもバラバラにして吸い込んでしまった。 

 どんどん吸い込むうち、美紅さん自身も吸い込まれていった。世界のすべてを吸い込んだ掃除機は、自身を吸い込んで止まった。

 俺の目の前にはただ何もない闇が広がっていた。

 いや、何か見える。

 俺はどうやっているのかわからなかったが、見えている何かに向かって進んでいく。

 見えていたものは、どこかの家にはいるための門だった。

『影山……』

 その門の先に、大きな屋敷が見えた。

『あれ? ここって……』

 全身に鳥肌がたった。恐怖の対象として、体が近づくのを拒んでいる。

 けれど、何か懐かしくも感じていた。

『えっと、ここって、あそこ、だよな?』

 突然、顔から壁に衝突したような、全身を打ちつけたような痛みが走り、五感が断ち切られた。




 目が覚めると、見覚えのある風景だった。

 以前、やはり除霊事務所で打ち合わせした時に気を失ってしまった時、連れてこられた病院の個室だった。

 ノックの音がすると、扉を開けて看護婦が入ってきた。

「起きたんですね…… 名前みてびっくりしちゃいました」

「……ああ、こんな短期間に入院するなんて、変ですよね」

「それもそうなんですけど、自分の勤務の時間に合わせるように入院なんて。ちょっと運命感じちゃうというか……」

 少し紅潮したような頬、視線をそらすような仕草。この看護婦さんが俺を。もしかしたら俺を好……

「たしかここよ。前もそうだったわ」

 廊下から、聴き覚えのある声が聞こえてきた。

「あら、もう御見舞にこられたようですね」

 看護婦さんは急に近づいてきて、俺に体温計を渡した。

「お熱だけ測りますので」

「?」

 正確な体温を測る場合は、舌下でという話を聞いたことがある。ここではどうするのが正しいのだろうか。

「脇のしたでいいですよ。私がやったほうが良ければそうしますけど」

 看護婦さんが俺の服の胸を開いて、体温計を脇に挟み込ませた。

「あっ!」

 と声がする方には、冴島さんがいて、俺を指差していた。

「また、こういうことするの?」

 俺は病衣の胸元を開けられ、顔を近づけられた状態で固まっている。

 看護婦さんがそのまま部屋の外を向く。

「べ、別にそういう訳じゃないんです」

「あんたに言ってんじゃないの。この看護士さんに言ってるのよ」

「体温を測っていただけですよ?」

 ちょうど体温計から測り終わりの音が鳴った。

「ね?」

 看護婦さんはわざわざ顔を近づけてきて、俺の体温計を取り出す。

「それよそれ、なんでそんなに顔をくっつける必要があるの?」

 冴島さんが病室に入ってくる。続けて、中島さん、松岡さんが最後に入ってきて扉を閉めた。

「あっ、この人が録音の時の看護婦さん?」

 中島さんが言って、すぐ口を押さえた。冴島さんが中島さんを振り返る。

「えっ?」

「いえ……」

 中島さんが視線をそらした。

 看護婦さんは体温を記録すると体温計を布で拭ってケースに戻した。そして扉の方へ進み、出ていく直前に俺に微笑みかけた。

「また来ますね」

 扉が閉まるのを確認したように、

「二度と来るな」

 と、言って冴島さんが手ではらうような仕草をした。

「そんな言い方しなくても」

「あんたが隙を見せるからあんな態度になるんでしょ?」

「所長、あのそのくらいにして、本題にはいってください」

 割って入るように中島さんががそう言った。

「影山くん。明日、退院したら、一緒に来て見てほしい家があるのよ」

 そう言う中島さんは、タブレットを持って見せた。

「ここですか?」

 そこには地図が表示されていた。

 中島さんが操作すると、家の門が表示された。

「ここ、なんだけど」

「……」

 その映像に見覚えがあった。

 黙っていると、冴島さんが口を開いた。

「昨日の解析機に残っていた映像と似てる。ということは、影山くん。あんた見たってことだよね? これどこ?」

「……」

 また黙っていると、冴島さんが何か言いかけた。そこを中島さんが止める。

「所長、そんなに焦らないで。影山くんに説明しましょう。まずは住所。これは過去のある事件を伝えるネット記事から見つけたの。今はそのネット記事はなくなってるけどね」

 俺はうなずいた。

「だから、この門の映像は実際にこの住所にある風景よ。で、もう一つ。昨日の解析機で分かったこと。一つは影山くんには複数の霊が憑いていること。数もよくわからなった。多くは深いところにいるようで、解析機でしっかり判別できるほどの霊力が検出できなかったの。だからこれは推測ね。もう一つは、さっきの門の映像。あの機械は霊力を解析する機械であって、記憶を読み取るものじゃないの。けれどどうも影山くんの記憶らしいものが見えるわけ」

 冴島さんが中島さんの口を押える。

「あなたの記憶は予想だけど、霊が抑制してるみたいね。記憶消しの霊とでもいうべきもの」

「えっ、じゃあ、冴島さんがそれを除霊してくれれば、俺…… 俺記憶が……」

「ダメ。除霊したら記憶ごと消えてしまうわ。この問題の解決方法は、あなたが霊から奪い取るしかないの」

 そう言われて俺は少し考えた。

 俺の記憶を霊が抑制している。そのせいで、霊を解析する機械で俺の記憶が見えてしまった。

 と言うことは、ここにいる人たちは、俺の記憶を……

「冴島さん。ちょっといいですか」

「何よ?」

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