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祖父さまが戻った。
昨日、そんな話を聞いて、俺は女官を通して話がある旨を伝えていた。
《ミド様、どうするの?》
俺の影に潜んでいるテフが聞いてくる。
今は俺の部屋にいるからか。
普段は絶対に声をかけてこない。
妖精たちの主になって、5日が過ぎていた。
「先王に呼び出されるのを待っている…」
《あのことを話すの?》
「ああ、ナギにも許可を貰っている」
《だから、長も近くにいるの?》
「ナギ、そろそろ呼び出しがある。
俺の影に潜んでいてくれ」
ナギは、ベッドの影から出てくる。
「御意に」
その時、ドアをノックする音が聞こえた。
「失礼します」
祖父さまの部屋に入ると、ソファに祖父さまと父上、それに兄上も座っていた。
だからなぜ、ワイデルト兄上もいるんだ?
俺は扉が閉じたのを確認して、トンと靴で影に合図を送る。
ぶわっと影から、結界が広がるのを感じた。
盗聴防止の結界だ。
他の者は気付かない結界とナギが言っていたから大丈夫だろう。
「本日はお時間をとっていただき、ありがとうございます。
お願いがあって、参りました」
「…勘当の話か?」
祖父さまは不機嫌そうだ。
俺の暴行事件を聞いているのだろう。
「はい!」
三人は眉を潜ませる。
こちらの言葉を待っている。
俺は、笑う。ちょっと黒い笑いだったのは自覚がある…。
主に、次の言葉の反応を予想して、楽しくなっただけだ。
「…国王陛下、俺を勘当していただけませんか?」
呆気にとられる三人を見ながら、俺はあの日の会話を思い出していた。
「シュヴァルツで政変か?
それで王弟がいまだ国に帰らずにいるのか?」
「いえいえ、そればかりではないのですよ」
「何かあるのか?」
「ハイ。それは、それは、おかしな…いえ、不自然で、歪な話なのでございます。
ワタクシたちも網を張っているのですが、いまだによく分からない出来事なのです」
「?ただの政変ではないと?」
「その通りでございます」
「シュヴァルツの現王が即位したのは今から80年前のこと。
即位したのは2人兄弟の兄ですが、この2人はとても仲の良い兄弟で、双子王とさえ呼ばれています。
王となった兄を助け、弟は力を尽くし、そんな二人を国民も貴族も誰もが見守り、2人のためにいい国を作る努力をしてきました」
俺は黙って聞いている三人を見る。口を挟む気はないようだ。
「そんな兄弟ですが、異変が起こったのは、今から5年前のことです。
何が起こったのかも、何故そうなったのかも不明なのですが、突然、王宮が国王派と王弟派、真っ二つに分かれてしまったのだそうです。
仲のいい兄弟は意味が分からずに事態の鎮静化を図りますが、全くおさまらず、昨日国王派だったものが今日は王弟派になる始末。
わかれてしまったのは王宮の中なので、それほど国に影響はなかったようです。
ですが、当然、このままでいい訳もなく、どうにか原因を掴もうとしていました。
そこに、隣国から王子の誕生会の招待状が届いたのです」
三人は顔を上げる。
「二人はこれで、原因を掴めるのではないか、少しの冷却期間を挟めるのではないか、と王弟は自分の派閥になっていた者を連れて国を出ました。
すると、混乱は一応の解決を見せたのです」
「…お前は…どこからそんな情報を!?」
祖父さまが訝しげだ。
当たり前か。
「ですが、解決したのではありません。
さらに、おかしいのはここからなのです」
俺は、ふっと笑みを見せる。
「王宮も、王弟一行も、自分たちが何故派閥争いをしていたのか全く分からない、ということなのです」
三人は首を傾げる。
「どういうことじゃ?」
「ですから、派閥を争っていたことに、意味もなければ、理由もなく、むしろ自分たちが何を考えていたのかも、分からなくなってしまった、と言うことです」
三人は意味が分からないらしい。
顔がどんどん険しくなっていく。
「……おそらく、王宮の人間全てが…何者かから何らかの洗脳を受けていたのではないかと考えます」
三人がはっと顔を上げる。
「…勘当をお願いした理由をお尋ねでしたね?」
俺は混乱している三人を置いて、さっさと本題に入る。
驚く顔はおもしろいが、あまり悠長に話はできない。
「王弟にお会いして確認したところ、連れてきた者が一人、この王都で行方をくらましたそうです。
俺が殴った護衛は、秘かにその者を捜索していたのだとか…。
王弟は、自分がその何者かをこの国に連れてきてしまったのだと思い、帰国を延期したそうです」
吸血鬼の行動は深夜だ。その時間に街に降りていても、気付かれることはほとんどないだろう。
深夜になってから、その者を探していたのだろう。
「…敵は国に入っています」
俺はきっぱりと言い切った。
「そして…伯爵領で、最近こんな噂が昇り始めたそうです」
そうだ!これがなければ、こんな決断はしない。
「伯爵領では、最近、側近たちが伯爵派と御子息派に真っ二つになっている…とね」
「なに!!?」
「俺は…敵の正体を…」
思わず言いよどむ。
こんなことを言うのは、不敬だ。
そんなことは百も承知だ。
「…魔族の…それも貴族級ではないかと…そう思っています」
こんなところにきて色々矛盾を発見してしまいました…。
直すことも難しそうなので、このまま行きます。
すいません。矛盾も生温い眼で見守ってください。




