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魔族…それは魔王陛下の治める国・魔国に住まう者たちだ。
この大陸には、現在多くの国が存在している。
だが、元は大陸は一つの国だった。
それこそが、魔国であり、国主を魔王陛下と崇める国だった。
さまざまな種族が存在していたが、大きな問題はなかったという。
しかし、ある時、魔王陛下は、大陸をいくつかに分け、それぞれの種族に国として治めさせ始めたのだ。
そして、その時種族を率いていた者を国主として、いくつかの加護を与えた。
その中の一つに、洗脳回避がある。それは、だいだい王族の血に受け継がれるものであった。だからこそ、国の王族を操ることなど、例え魔王陛下でもできない。
話を戻すと、魔族と言うのは、かなり特別な存在だ。
まず、現在、魔王陛下が住まう城の城下町。そこが魔王陛下の領土だ。街ひとつ。だが、住まうのは最強の住人だ。
魔族は長寿であり、強大な魔力を有している。それだけ聞くと、他の種族との違いが分からなくなりそうだが、まず、長寿というのは、1000年を生きるエルフでさえも遠く及ばないほどだ。数千年を平気で生きる。長いものは有史のころから存在している。
そして、強大な魔力。これも、強い魔力を持つとされている吸血鬼や竜族を10とすると、魔族は最低でも100、貴族級だと500以上になるだろう。エルフ?エルフは5くらいじゃないか?
桁が違いすぎる規格外の存在。それが、魔族なのだ。
言ってみれば、まさに信仰の対象。
だからこそ…
「口を慎め!!ミドラドル!!不敬だぞ!!」
祖父さまが立ち上がった。
わかっている!不敬だよ!!
分かっているが、他に可能性はない。
他国の中枢を丸ごとそのまま洗脳できるほどの魔力を持った種族は他にない。
しかも、それほどとなると、もはやただの魔族でもないだろう。
「わかっています!
ですが、他の可能性はありません!!
だから、勘当してくださいとお願いしています!!」
あ、思わず怒鳴り返してしまった。
祖父さまが、呆気にとられている。
落ち着け!冷静にだ!!
「魔族は宗主国たる魔国を治める魔王陛下に近しい一族です。
今回関与しているその魔族が、どんな思惑を持っているのかはわかりません。
ですが…このままでは、この国に混乱をもたらすことにも、下手をすれば、国を二分することにもなりかねません」
「そして…もし、今回のことが、魔王陛下のご命令で動いているとしたら…」
祖父さまの顔が強張った。
当たり前の反応だ。
もし、そうなら、抵抗もできない。
それが魔王陛下の御意志として、滅びさえも受け入れなければならない。
「俺は、原因を突き止めます。そして、その魔族を排除するつもりです」
滅びを待つなんて、冗談じゃない!!
「そして、結果がどうであれ、魔国に何かを言われた時には、知らぬ存ぜぬ、勘当した者だ、関係ない、と言い張ってください。
たとえ、俺が失敗してその魔族を排除できなかったとしても、俺の死体を見せられても、絶対に言い張ってください!」
三人が息を飲むのが聞こえた。
だが、構っていられない。
そうだ!これは、国の存亡を左右する事態だ。
しかも、まだ、その魔族の居場所さえも分かっていない。
西の伯爵領。それだけだ。
だから、敵がここに入り込む前に、なんとかしなければ!!
「っ!お前が背負う必要はない!!伯爵に…」
「ダメです!気付かれては、逃がしてしまいます!」
逃がしては、またどこで手を出してくるかわからない。
「理解してください、陛下」
「…なんの力もないお前が、か?」
俺はふふと笑う。
「布石ですよ、先王、国王」
うん!うそだけどね!!
「…ナギ!!」
ずずっと俺の影が動く。
黒い影がずると大きくなり、人の形を成していく。
三人は少し、後ずさり、剣の柄に手をかける。
「御前に」
ナギは俺の前に跪いていた。
「ご紹介します、ナギです。俺の手足です」
ナギは軽く頭を下げる。
俺はにっこりと笑う。
「全ては、布石ですよ。力は確かにないのですが、『勘当寸前の王子』というのは…。
この時のためのね…」
祖父さまだけじゃない、父上も、兄上も、何か複雑そうな顔で俺を見ていた。
信じたのかは分からないけど、騙されたふりでもいいさ。
「…そうか…お前は…決めたのじゃな?」
祖父さまは、いつになく優しい眼で俺を『ミドラドル』を見ていた。
俺はその時になって気付いたよ、『ミドラドル』。
祖父さまは…恐らくお前を強くしたかったんじゃないか?
魔力至上主義なこの大陸で…恐らく全く魔力のない俺は、結婚はできない。なんの地位にもつけない。三男以降は100歳になれば、城を出される。
確かに、心が強くなければ城を出て、初めて挫折を味わうことになるだろう。
祖父さまの想いなんて、わからないけど、少なくとも『俺』はそう思うよ。
だから、俺も…
かえしに行く!
今までの恩も、前世の代わりかもしれないこの想いも…
かえすために俺は戦いに行く。
だって、俺はこの国が好きだよ。
だから、守りたいんだ。
たとえ、『影』がいなくっても、俺は一人でだって行ってた。
そして…排除に成功しても、失敗しても…(恐らく、失敗する可能性が高い)
…もうこの国には…戻ってこれない。
成功したら、魔王陛下や他の魔族への言い訳を考えなくてはならない。それには、すでに勘当しているという理由が一番だ。
失敗したら、その魔族に、逆らった言い訳をする必要がある。この国に報復されるのを防ぐにはやっぱり、すでに勘当しているというのが一番だ。
魔族に逆らうなら、世界を敵に回す覚悟が必要だ。
「…はい。
俺は決めました。
だから、お願いです。
いつかきっと帰ってこれるよう、今は行ってきますと言わせてください。
祖父さま…
父上…」




