第7話 不埒な依頼
読んでいただきありがとうございます。
遅筆ですが頑張ります!
※読みやすさのために改行・空行を増やしています。
読みにくいと感じたら修正します。
トロフィー修理の一件から数日後。
掲示板の「ゴースト」宛のフォームに、また新しい書き込みが届いた。
『隣のクラスの子が、私より成績良くて気に入らないです。次のテスト、答案用紙にちょっと細工し
てもらえませんか。バレなければいいので』
旧視聴覚室で、それを読んだ四人の表情が一瞬で険しくなった。
「......何、これ」
絵菜が画面を睨みつけるようにつぶやいた。
「私たちのこと、何だと思ってるの」
「便利な悪戯屋さん……くらいに思われてるんだろうね」
理乃がため息交じりに言った。
ゴーストとして活動をするうえで、いつかはこんな依頼がくるだろうと思っていた。
正体不明の『誰か』が不正に関与した。誰が実行犯か特定できない完全犯罪だ。
「今までの噂が変な広まり方をしてる証拠かも。『こっそり何かする集団』ってことだけが独り歩
きして、中身がちゃんと伝わってない」
作美が腕を組む。
「これ、どう返信する? 無視する?」
「無視すると、また別の場所で頼まれるだけかもしれない。ちゃんと、私たちの考えを伝えたほうが
いいと思う」
栞がそう言って、返信の文章を考え始めた。
だが、その途中でまた、新しい書き込みが増えていることに気づいた。
『さっきの者です。お金なら払います。一万円でどうですか』
「お金まで積んできた......」
絵菜が呆れたように呟く。
「なんか、こっちの正義感を逆に試されてる気がする」
「試されてるっていうか、単純に舐められてるんだと思う」
理乃が言った。
「ここは、はっきり断ろう。ただ断るだけじゃなくて、私たちが何のために動いてるのか、ちゃんと
伝えたほうがいい」
「そうね。でも、今後も似たような依頼が来そうじゃない?」
絵菜が理乃を見る。
「じゃあ、全員が見れる掲示板の方に注意書きみたいに書くのはどう? もちろん、依頼者には個別で返信は送るとして、改めてこういう依頼が来てます、って」
栞が答えた。
「いいね」
作美が嬉々とした声で返し、皆が頷く。
その日の夜、掲示板に短い返信が投稿された。
『最近、私利私欲のための依頼が届いています。我々は、理不尽には抵抗しますが、ただの不正には一切加担しません』
続けて、依頼フォームにも返信を出す。
『依頼、お断りします。私たちは、誰かを蹴落とすためではなく、理不尽な状況に困っている人のた
めに動いています。お金の問題でもありません』
しばらくして、依頼主から開き直ったような返信が届いた。
『所詮、都合のいい正義感ってことですね。がっかりです』
その一文を見た絵菜が、思わず声を荒げた。
「は? こっちが悪者みたいな言い方しないでよ」
「まあまあ」
パソコンのビデオチャット越しに作美がなだめる。
「反応するだけ時間の無駄だよ。これ以上は相手にしなければいいだけ」
「分かってるけど……。でも、腹立つものは腹立つ」
絵菜がぶつぶつ言いながらも、パソコンの画面を閉じた。
翌日、噂は思わぬ形で広まっていた。
件の依頼主が、あちこちで「ゴーストに頼んだけど断られた」という話を吹聴していたのだ。
だがその内容が、周りの生徒たちの間で意外な反応を呼んでいた。
「え、ゴーストってカンニングの手伝いとか、そういうのはしないんだ」
「なんか、思ってたよりちゃんとしてる集団なんだね」
「本当に困ってる人のためだけに動いてるって、ちょっと格好いいかも」
結果として、依頼主の企みは逆に「ゴースト」の評判をより明確にする形になった。
旧視聴覚室で、その反応を眺めていた理乃たちは、複雑な表情を浮かべていた。
「なんか、結果オーライになってるけど......素直に喜べないね」
絵菜が言う。
「でも、少なくとも、私たちが何のために動いてるのか、みんなに伝わったのは、悪いことじゃないと思う」
理乃がそう言うと、栞が静かに付け加えた。
「線引きは大事だね。何でも屋になったら、いつか本当に困ってる人の依頼と、私利私欲の依頼の区別がつかなくなる」
「栞、たまにいいこと言うよね」
「たまには失礼だなあ」
軽口を叩き合いながらも四人の中には、これまでよりはっきりとした「自分たちのルール」が、少しずつ形になり始めていた。
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