第6話 壊れた、トロフィー
カクヨムにも掲載。
遅筆ですが頑張ります!
ある日掲示板の相談スレに、一通の書き込みが投稿された。
『バレー部の大事なトロフィーを、掃除中に誰かが倒して割ってしまいました。来週、地区大会の壮行会があるのに、監督にどう説明すればいいか分かりません。このままだと罰走でみんなが走らされてしまいます。ゴーストさん、何とかなりませんか』
早朝。
まだ生徒が少ない時間に旧視聴覚室に集まった四人は、その書き込みを見て顔を見合わせた。
「スマホの件みたいなこっそり動く感じじゃなくて、今度は真正面からの作戦になりそうだね」
絵菜がほっとしたように言う。
「うん。これくらいなら私たちの本来の得意分野って感じ」
作美も、腕まくりをして張り切っていた。
「ちょっと待って」
張り切る作美を理乃が静止する。
「え、これは理不尽じゃないからダメって感じ?」
「違う。もちろん、割ってしまった人が素直に申し出るのは大事だと思うけど……」
理乃が素直に賛成できない理由があった。
この投稿は、割った人が書いたものじゃないのか? という疑問だ。
自分の失敗を「ゴースト」に隠して貰おうとしているのではないのかと。
「理乃の言ってることも一理あるね」
栞がメモを取り出す。
「これからも色々な依頼がくると思うけど、やっぱり受ける受けないの判断は大事だと思う。それこそ、私たちの正義が守れないのなら受けるべきじゃない」
栞は開いたページに、「受注の判断基準」と書き込む。
1、理不尽な問題であること
2、「ゴースト」で解決できる規模であること
3、事実確認が取れるもの
4、全員が納得できる依頼であること
「一と二、あと四はわかるけど……、三についてはどうする?」
絵菜が首をかしげる。
「これはやっぱり、私の仕事だね」
栞が立ち上がり、胸に手を当て宣言する。
「今回の依頼は、それとなくバレー部の人たちに聞いてみるよ」
昼休み、栞は早速バレー部の生徒への事情聴取に取り掛かる。
当然、「自分たちが『ゴースト』です」と言うような真似はできない。
さすが文学少女。それとなく雑談を装いながら、事の経緯を確かめていく。その手腕は見事な物で、自然と今回の件の事実確認がとれた。
ことの発端はこうだ。
元々、バレー部の部室清掃中に一年の生徒が箒を棚にぶつけてしまい棚上に飾られていたトロフィーが落ちてしまったらしい。
そして、運悪く顧問の教師が部活に顔を出してしまい、慌てて箱に詰め込んだ。その結果、かなり深刻に破損してしまったということだ。
当然、上級生にも相談して直そうとしたが、上手くいかず、藁にもすがる思いで『ゴースト』に依頼しようってことになったらしい。
投稿者は、本人ではないものの、犯人探しや、誰かに責任を押し付けたくないという想いで「誰かが」という形で相談するに至った。
「それじゃ、この依頼は受けるでいいよね?」
作美が問いかける。
それに全員が頷き、正式に依頼を受ける事が決定した。
放課後。
体育館の部室に向かうと、割れたトロフィーの破片が新聞紙の上に並べられていた。台座の部分が真っ二つに割れ、上部の選手の像も、片腕が欠けている。
「うわ、思ったより派手に割れてる」
絵菜が顔をしかめる。
「これ、直せるの?」
「うちの工場、接着や修復も得意分野。任せて」
作美は自信満々に、接着剤と工具を取り出した。理乃は破片を並べ替えながら、パズルのように元の形を確認していく。
「じゃあ、まず台座から」
作美が慎重に接着剤を塗り、二つの破片を合わせる。
だが、力加減を誤ったのか、押さえた瞬間に接着剤が指にべったりとくっついてしまった。
「あ、やば」
「え、大丈夫?」
「指、台座にくっついた」
「......はい?」
理乃が覗き込むと、確かに作美の人差し指が、トロフィーの台座に貼り付いていた。
「ちょ、これ、どうしたらいいの」
「慌てないで。お湯で少しふやかせば、たぶん取れる」
理乃が冷静に指示し、絵菜が慌てて給湯室からお湯を汲んでくる。作美の指は、なんとか無事に外れたが、台座の一部に指紋の跡がくっきりと残ってしまった。
「これ、大丈夫なの? 変な跡ついてるけど」
「絵菜、上から金色のペンで塗り足して。跡、目立たなくして」
「無茶振り」
そう言いながらも、絵菜は手早く筆を取り、指紋の跡を丁寧にぼかしていく。もともと金色に塗装されていた台座が、絵菜の手により、むしろ以前より艶やかに仕上がっていった。
「これ、直したっていうか、進化してない?」
「美術部を舐めないでほしい」
続いて、欠けた選手の像の片腕。作美が接着剤で慎重に接合していく中、栞がぽつりと呟いた。
「そういえば、部員たちから聞いたんだけど。このトロフィー、実は五年前にたまたま補欠だった先輩が、大会でまさかの活躍をして獲得したものらしいの。だから、部にとってはただの飾りじゃなくて、『諦めなければ何とかなる』っていう象徴なんだって」
「そうなんだ......」
理乃はその話を聞いて、なんとなく手元の作業にも、力が入るのを感じた。
完全下校時間ギリギリまでかかって、トロフィーはなんとか元の形を取り戻した。よく見ると、腕の接合部にわずかな線が残っているが、遠目には分からない程度だった。
「うん、悪くない出来」
作美が満足げに頷く。
「これで依頼完了だね」
「そうね。でも、なんだか『便利屋さん』みたいな依頼になっちゃったね」
絵菜が苦笑いを浮かべる。
「まあまあ、良いじゃない。人助けにはなったわけだし」
栞が明るく笑う。
翌週末の壮行会で監督がトロフィーを掲げたとき、部員たちが少しだけ、ほっとした表情を浮かべていた。
「無事に済んで良かった」
「うん。でも、次はもうちょっと丁寧に接着剤扱ってね」
「善処します」
その夜。掲示板には、感謝の言葉が短く投稿されていた。
四人はその書き込みを見て小さく笑った。
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頑張ります!




