最終話 オリウルとミラ
◇◇◇◇
案内されて温室に入ったオリウルは、ぴょこんと椅子から飛び跳ねるように立ち上がるミラを見つけた。
「こんにちは、ミラ様」
「ごきげんよう、ウリエル卿! ところでセイファ殿の爵位授与式はどうなったのじゃ!」
ミラはその場で足をばたつかせる。
顔を合わせた当初は、まるで生気のない人形のようだったのに。
最近では年に見合った溌溂さを取り戻しつつあった。
「もちろん滞りなく。これからは、セイファ・アルバルド・イーシャ伯爵となるようです。これでハイルとの結婚もなんなく」
「それはよかった! なによりじゃ!」
心底ほっとした笑みを浮かべ、それから侍女の視線に気づいたのか、慌てて扇で口元を隠した。
「今日は特別なお茶を用意しておる。ウリエル卿もご賞味あれ」
「ご相伴にあずかりましょう」
メイドにうながされてふたりは椅子に座った。
屋内には珍しい植物がとりどりに植えられ、さまざまな芳香を放っている。
「新聞発表ではハイル殿とセイファ殿の結婚を報じておったのに、エクセレーナ伯爵が横やりをいれておると聞いて、ハラハラしておったのじゃ」
メイドたちがお茶を提供して下がると、ミラはオリウルに小声で言った。
「おまけに、マルベル商会が悪事まで働いて……。その折のセイファ殿の働きは淑女たちから英雄のように語られておるが……。ハイル殿も怖い思いをされたであろう」
ほう、とため息をつく。
「まだいろいろと結婚式までに邪魔が入りそうじゃが……」
「結婚式は村で挙げるそうです。セイファくんには身内がいませんし、ハイルの兄上は出席を拒否しているようで……。あ、そうだ。ぼくとミラ様には招待状が届くそうですから、どうですか? 行きませんか?」
「行く!」
ミラはつい弾んだ声を上げ、それから慌てて小さくなった。
「楽しみじゃ! お祝いの品はなにがよいかの!」
「あのふたりならなんでもいいと思いますよ」
そうじゃな、とうなずき、あれはどうか、これはどうだろう、としばらくミラは言っていたが。
ふと、眉を曇らせて黙り込む。
「ミラ様?」
「……きっと、結婚式までにもいろいろとあのふたり、あるであろうのぉ」
「そうでしょうね」
「あんなに仲の良いふたりなのだから、周囲もそっとしておいてやればよいのにの」
「大丈夫ですよ、ミラ様」
オリウルはカップを持ち上げた。香りを堪能し、湯気さえも堪能しているようだ。
「ハイル嬢は変わってはいますが、とても良い人物。セイファ殿もそうです。それはミラ様もおわかりでしょう?」
「もちろんじゃ」
「良い人物には最高の、まるで物語のような未来が待っているものです」
「そうじゃな」
ミラは笑った。
「よい作品は、いつでも『めでたし、めでたし』じゃ」
「そうです」
ふたりは笑顔でうなずきあい、彼らの結婚式にはなにを着ていこうかとミラは目を輝かせる。オリウルは穏やかな表情でそれを聞いていた。
了




