第13話「残響のはじまり」
宿屋の朝は、騒がしかった。
「おっはよーーー!!」
「よっしゃ働くぞぉぉ!!」
「テンション上げてこ〜!」
……なんだこれは。
俺は思わず眉をひそめる。
「……騒がしいな」
リドウが小さく呟く。
「ですね……」
リリーニャも困ったように笑った。
その中心にいるのは、昨日出会った三人組だった。
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「改めて自己紹介っす!」
男の一人が胸を張る。
「俺はワショー!盛り上げ担当っす!」
「ナデク!踊りとノリは任せろ!」
「リーノでーす!テンション管理係ね〜!」
……何だその役割分担は。
「お前ら、本当に手伝いに来たのか?」
リドウが呆れたように言う。
「もちろんっすよ!」
ワショーが即答する。
「俺たち、ちゃんと依頼受けて来てるんで!」
「依頼?」
俺は聞き返した。
「はいっす!とある人から!」
ナデクが勢いよく頷く。
「ただ、その人が誰かは知らねぇんすよね!」
「極秘情報ってやつ〜」
リーノが軽く笑う。
「は?」
思わず声が出る。
「知らない相手の依頼を受けたのか?」
「そっす!」
「うん!」
「そうだよ〜」
……頭が痛い。
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「依頼内容はシンプルっすよ!」
ワショーが指を立てる。
「この宿屋で働け!ってだけ!」
「それで恩返しになるって言われて!」
ナデクが続ける。
「恩返し?」
リリーニャが首を傾げる。
「そうそう〜」
リーノが軽く手を振る。
「私たち、全員“ドミール”って人に助けられててさ〜」
その名前に、空気がわずかに変わる。
「……ドミール?」
俺は小さく繰り返す。
「はいっす!」
「めちゃくちゃいい人で!」
「人生変わったレベル〜」
三人が口々に言う。
「その人に頼まれたから、来たんすよ!」
「恩は返すタイプなんで!」
「義理堅いのよ〜」
……なるほど。
「そのドミールってのは、何者だ?」
リドウが低く聞く。
「えーっと……」
ワショーが考え込む。
「なんか、“ミドル”って言ってたっすね!」
「中間のアナグラムとかなんとか!」
ナデクが補足する。
リドウの目がわずかに細くなった。
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「で、そのドミールが」
俺は言葉を続ける。
「俺たちのことを知っていた?」
「そうっす!」
ワショーが頷く。
「特徴だけ教えてもらって!」
「黒髪で落ち着いてる人、とか!」
「無愛想だけど強そう、とかね〜」
……余計なお世話だ。
「それで分かったのか」
「なんとなくっす!」
「直感っす!」
「雰囲気で!」
……本当に大丈夫か、こいつら。
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「まあいい」
俺はため息をつく。
「働く気があるなら見せてみろ」
「任せてくださいっす!」
「いくぞぉぉ!!」
「はいはい、まずは掃除からね〜」
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それからの三人は――
意外だった。
「そこ違うっす!」
「動きが甘い!」
「リズム合わせて〜!」
フウカが指示を出す。
「はいっ!」
「了解っす!」
「オッケー!」
三人は必死に動く。
最初は騒がしいだけだったが、
次第に――
動きが揃い始める。
「……あら」
カタリーニャが感心したように呟く。
「悪くないわね」
「でしょ!?」
「やればできる子たちなんで!」
「ポテンシャル高いのよ〜」
自分で言うな。
だが――
確かに。
「……統率が取れてきてるな」
リドウが低く言う。
「はい……」
リリーニャも頷く。
何かがおかしい。
ただの素人にしては――
馴染むのが早すぎる。
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その頃。
宿屋の外。
一人の男が立っていた。
無表情。
無機質な視線。
そして――
アナグラムの紋章。
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「……対象、確認」
男は小さく呟く。
「トリコワ殺害事件に関する件で、接触を開始する」
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扉が、静かに開いた。
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「失礼する」
低い声。
宿屋の空気が変わる。
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「アナグラムより使者として来た」
男の視線が、まっすぐこちらを射抜く。
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「トリコワ殺害の件について」
「詳細の確認を行う」
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静寂。
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リドウの表情が――
わずかに歪んだ。
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(続く)




