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二十六話 探索中

 ギデアは三十一層の魔物を倒し続け、目的であった全属性つきの【顕落物】の武器を二種類入手した。入手したのは槍と大剣で、この二種類は武器に高威力を求める挑戦者に人気の武器である。


「これらを景品にすれば、挑んでくる者もいるだろう」


 ギデアはその二種の武器を後ろ腰の小さな不思議な鞄に入れ、三十一層から戻ることにした。

 三十層に上がると、ギデアが今回二十九層から三十層に入ってきた、その出入口に出た。

 これは迷宮の不思議な仕組みで、層を戻る際は直ぐに次の層に戻れる場所に出るようになっている。不思議なことではあるが、挑戦者にしてみれば帰り道が楽なので、あまり気にしたりしない現象でもあった。

 ギデアも気にせずに層を戻り続け、二十層へと戻ってきた。

 ここからは、【互助会】が指名手配している罪を犯した挑戦者たちを探し、それを討伐するための行動に移る。

 ギデアは受付嬢から貰った似顔絵を取り出すと、どの犯罪挑戦者がどのあたりを活動場所にしていたかを思い出していく。


「まずは近場から探してみるか」


 三つあった討伐依頼。その中で最も深い場所で活動していた犯罪者は、十五層だとあった。ギデアは層を戻り、十五層を目指す。

 大して時間も経たずに十五層まで戻ったギデアは、盾を紅玉付きの豪華な盾に取り換え、ボロボロの外套を体から取り払って鞄に収納した。

 ギデアは、他者がギデアを【ホラ吹きのギデア】と認識する際、ボロボロの黒い外套に視線を向けていることを知っている。そのためボロボロの外套を脱いでしまえば、遠目では他者からギデアだと認識され難くなるだろうという予感を持っていた。

 侮りの対象である【ホラ吹きのギデア】と分かる方が襲われる可能性もあるが、今回は豪華な盾を周囲に見せびらかすためにも、外套を仕舞って無名の挑戦者だと装うことにした。


 さて十一層から二十層は、一層毎に広い丘に森が点在している広大な土地になっている。そんな場所に、動物系の魔物が闊歩している。

 挑戦者の多くは見晴らしの良い丘を進んだり戦ったりを選び、視界の悪い森に入ろうとはしない。

 もちろん、森にしか出ない魔物もいるので、それを狙う挑戦者もいる。しかし、全体的な数で考えるのなら、森に入る挑戦者の比率はとても少ない。

 では犯罪者となった挑戦者たちは、丘と森のどちらにいるのか。

 ギデアの考えでは、森の中に塒を作っているだろうという予想だ。

 森は視界が悪いため、隠れ潜むのに適している。木材を利用した建物や罠で安全地帯を作りることも可能。そして森の際まで来れば、丘にいる挑戦者を観察して物色することも出来る。

 挑戦者を襲う犯罪者の身で考えてみると、森に住まない理由がなかった。

 だからギデアは、点在している森の際からギリギリ観察できるであろう位置を選んで、丘を進むことにした。

 ギデアの腕にある豪華な装飾の盾は、青空のように青色に光っている天井の光を受け、キラキラと周囲に煌めきを放って大変に目立っている。

 これほど目立つ装備なら、犯罪者たちの目に入らないはずがない。

 そして犯罪者が注視したのなら、ギデアがその視線を察知できないはずもなかった。

 しかしながら、ギデアが十五層を歩き回っても、普通に丘で魔物と戦っている挑戦者たちから失笑を向けられことすれ、犯罪者のものらしき視線は感じ取れなかった。


「ふむ。十五層にはいないようだな」


 十四層に戻るか、十六層へ向かうかを考えて、ギデアは直感的に十六層に行くことに決めた。

 あえてギデアがそう決めた理由をつけるのなら、【互助会】に活動していた場所を把握されているのなら、その活動場所よりも奥の層へ入れば【互助会】の目を誤魔化せるんじゃないかと思ったからだった。

 ギデアは十六層へ向かう様子の挑戦者たちを見つけると、その後についていき、少し距離を置きながら十六層へと入った。



 ギデアは十六層へ入ると、もう挑戦者たちの後をつける必要はないので、すぐに分かれて森へと向かった。

 そして十五層でやったのと同じように、森の際から観察できる位置を選んで移動していく。

 少しすると、十五層にはなかった視線が、森からギデアに来ていることを感じ取った。

 森からの視線は、やけにねっとりとしている。それこそギデアが持つ煌びやかな盾と、背中にある大型の不思議な鞄に、熱烈な視線を向けてきている。


「これは当たりのようだな」


 ギデアはようやく犯罪者と戦えると、鋭い目をさらに鋭くしていく。戦闘意欲は高まっていくが、しかし殺気は漏らさない。漏らせば犯罪者たちが逃げてしまうかもしれないからだ。

 その殺気の消しっぷりは見事なもので、森から鹿の魔物が無警戒で出てきて、ギデアを見て慌てて森の中へ引き返していくほどだった。

 ギデアは鹿の逃げる姿を見て、しめたと思った。

 あの鹿を追いかけるように行動すれば、ごく自然に犯罪者たちが隠れる森に入ることが出来ると気づいたからだ。

 ここでギデアは、見つけた鹿に逃げられまいとする挑戦者を装うことにした。


「まて、コラ!」


 少し棒読みの大声を放ち、森に消えた鹿を目掛けて走り出す。鹿の魔物は臆病で直ぐ逃げるため倒し難いが、その【顕落物】の多くが薬の材料になる美味しい獲物である。肉は熱さましに効果があり、角は強壮強心、肝は鎮静作用。どの【顕落物】も高額買い取り対象だ。

 だから挑戦者の多くは、鹿の魔物を見たら追いかける。追いかけ、追い続ければ、鹿の魔物は逃げることを諦めて逆襲しようとするので、戦いやすくなると知っているから。

 ギデアも、そういった挑戦者だと装って、鹿の魔物を追いかける。逃がさず、離されず、しかし追いつかない。そんな具合で走り続ける。

 ギデアが森に入ったことで、犯罪者からだと思われる視線にも変化があった。

 まずギデアの後ろからの視線が二方向――つまりは二人が追いかけてきている。そしてギデアの耳には、葉擦れの音に混じって藪を掻き分ける人の音がある。こちらは、犯罪者の仲間を呼びに行っているのだと予想がついた。

 ギデアがこの調子で犯罪者を釣るろうと、鹿を追いかけて続ける。

 しかし追走撃は長くは続けられなかった。なぜなら、鹿が急に地面に倒れ込んだからだ。

 何事かとギデアが立ち止まると、鹿の足に括り罠がハマっていた。そして走った勢いのままに倒れたことで、罠に捕まった脚が脱臼か折れでもしたのだろう、脚が動かせない様子だった。

 ギデアは予定が狂ったことに後ろ頭を掻き、犯罪者を釣ることは仕方がないと諦めて、鹿に止めを刺すことにした。

 鹿の頭を横から踏んで地面に押し付け、剣先で首を貫いた。鹿の魔物は一度大きくビクンと身を震わせると、ぐったりと地面に体を預けて動かなくなった。そして絶命した迷宮の魔物らしく、体の端から崩れるように消えていく。

 そうして鹿が居た場所に現れたのは、大きな葉っぱに包まれた物体。この大人が一抱え出来そうな大きさの葉っぱの包みは、魔物の肉の【顕落物】の特徴で、つまり今回の【顕落物】は鹿の肉ということである。

 ギデアは鹿肉を拾い上げると、大型の不思議な鞄に入れようとして、しかし後ろ腰にある小さな方の鞄へと仕舞うことにした。


「外街の、あの食堂に持って行こう。美味く調理してくれるはずだ」


 犯罪者は釣りきれなかったが、上々の成果だ。

 そうギデアが考えようとしたところで、ギデアの周囲を取り囲むように接近する気配を察知した。

 まだ弓の距離にすら入っていないほど遠くに気配はあるものの、確実にギデアを仕留めようという動きをしている。

 ギデアは考える。ここで待つべきか、それとも斬り込んでいくべきか。

 ギデアは自分の目的を思い返す。

 犯罪者を殺すこと自体が目的ではない。集団戦を挑んでくる者たちを相手にする経験が欲しい。

 より良い経験を積むための行動はどっちだと考えて、ギデアは待つことを選択した。


「……じっくりと範囲を狭めてきているな」


 ギデアは気配を感じつつ、近くにある太い木を目指して歩く。すると犯罪者のものと思われる気配は、少し動きを変える。ギデアが向かう方にいる者の気配の動きが止まり、代わりにギデアの背後にある気配の動きが早まる。

 どうやらギデアを中心にして、各方面にいる犯罪者たちの距離が全て同じになるよう調整しているらしい。

 こうした巧みな囲い込みは、魔物には出来ない芸当だ。


「これは楽しめそうだ」


 ギデアは巨木の根に腰を下ろし、背中を幹に預けて、休憩しているように装う。しかしその顔は、犯罪者たちの手練手管と、それを撃破した後の自分の剣技がどれほど上昇するかを想像して、口元に笑みが浮かんでいた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 狩るつもりが狩られる 無法地帯の理ゆえに
[良い点] ウキウキで棒読み演技のギデアさん可愛い [気になる点] 果たして犯罪者達は何行保ってくれるのか
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