【天武】の試練 【煌血】
TSロリっていいよね
TSロリっていいよね
TSロリっていいよね
そいやこんなあいさつもしてたな、と。
――――ヴェンデッタが鏡の世界に飛び立つ前まで時間を遡る。
『ローザネーラ、血ィ、出せるか?』
壮絶な笑みとともに告げられたその言葉にガクブルしていたローザネーラだが、彼女の主がその後に続けた言葉は、発言者の狂気とは裏腹にいたって真剣なものだった。
無数の鏡の中に引き籠り、こちらを一方的に攻撃してくるチェシャキャット。
回避も防御も難しい。特に、ジャバウォック形態の際にポーションなどの消耗品をほとんど失ってしまったことが響いていた。
亀のように籠り、対処法を考える時間はない。
ならば、狙うのは短期決戦。
ヴェンデッタが立てた作戦は、とても簡単なもの。
彼女が囮となってチェシャキャットの視線を釘付けにし、その隙を突いてローザネーラが鏡の結界を破壊する。
言うが易し、とはまさにこのこと。
これを自信満々に告げてくるのだから質が悪い。
はぁ、とローザネーラは小さくため息。
まったくますたーは、と少し頬を膨らませる。
なんだかいつも、そんなギリギリの戦いをしている気がする。
危なっかしいし、怖いし、めちゃくちゃだし。
大体、召喚士であるヴェンデッタが囮を買って出ていることがおかしい。
大鎌を振り回す姿が似合い過ぎて忘れがちだが、彼女はれっきとした後衛職。前衛に守ってもらいながら魔法を使うのが適性なのだ。
そんな常識を鼻で笑う主は、すでにチェシャキャットの視線を奪うように宙を舞っている。
黒い影が空中に線を描き、それを色とりどりの魔法弾が追いかける。見てくれは綺麗かもしれないが、それは命をかけた飛翔に他ならない。
それでも、あのますたーなら。
きっと、なんでもない顔で――むしろ、とっても楽しそうに笑ってるのだろう。
しんぱいするこっちがばかみたい――そんな想いを内心で転がしながら、ローザネーラはもう一度小さくため息を零した。
「ほんとうに、アタシがいないとだめなんだから」
不満げに……けれど確かな喜びを混ぜた声音を漏らしたローザネーラは、そろそろかと主より送られた杖を構える。
チェシャキャットはヴェンデッタを襲うことに夢中になっている。ローザネーラには見向きもしていない。多少派手なことをしたとしても問題はないはずだ。
すぅ、と小さく息をすったローザネーラは、瞳を閉じて己の内側に意識を向ける。
とくん、とくんと鼓動を刻む心臓の音色。全身に送り出されていく血液。そして、血潮によって巡り回る魔力。
それらを知覚しながら、意識をもっともっと深くへ――ヴェンデッタに使役されていることで、封じられたり弱体化している己の力が宿る場所。
すなわち、魂の領域。
そこはまるで、深紅のプラネタリウムのよう。
名付きまで昇りつめたローザネーラが有する力の輝きが、吸血種らしい深紅の空間で無数の星々のように光を放っている。
封じられ、弱まっているが、それでもなお絢爛に違いない。
その中に、ひときわ巨大で、力強く瞬く星があった。
ローザネーラはそれに手を伸ばす。
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【名前】
ローザネーラ
【性別】
女
【種族】
真祖の吸血鬼・女公爵Lv100(弱体化)
【スキル】
《煌血(限定解除)》《血魔術(弱体化)》《次元術(弱体化)》《幻奏術(弱体化)》《血の晩餐(弱体化)》《紅魔眼(弱体化)》《永遠に死せし者(弱体化)》《紅の眷属(封印)》《天望快界(弱体化)》《高貴(封印)》《畏怖(封印)》《魔導星(弱体化)》《魔性解放(封印)》《紅潔領域(封印)》《始祖回帰(封印)》
※召喚者のレベルが低いため、ステータスが制限されています。
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未だに縛られ、くすむ輝きの数々――しかし、主ヴェンデッタの成長に伴い、いくつかの力が解放されている。
ローザネーラが手を伸ばした巨大な輝きの正体は――《煌血(限定解除)》。
類稀なる強者として世界に刻まれた証であり、その名を冠するスキル。
ただのスキルとは一線を画す、強力無比な、彼女だけの力。
(限定解除)と付いているように、このスキルの使用には多くの制約がある。
発動できる時間はたったの三分。使用後は一定時間全ステータスが低下し、いくつかのスキルが使用不可能になる。さらに、一度使用すれば三日は再使用が出来ない。
使ったが最後、三分でローザネーラは完全なお荷物になってしまう。
――――しかし、それを加味したとて、《煌血》の持つ力は絶大だ。
「――――《煌血》」
静かに、厳かに。
世界に溶け落ちた宣告。
見た目に変化はない。
いつものように、可憐で幼気な花が、杖を握る両手を胸の前に掲げて佇んでいる。
――――――――ドクン。
だから、変わったのは内側だ。
ローザネーラの心臓が強く脈動する。
全身を流れる深紅の血潮が、沸騰するように熱くなる。
巡り駆ける魔力が、脈動に合わせて高ぶり出した。
ゆっくりと瞼を上げるローザネーラ。
真紅の瞳が、妖しく輝いた。
「ふふふ――さぁ、みせましょうか」
どこか上ずった声で呟いたローザネーラは、カリッと親指の腹を長い犬歯で噛み切り、血を流す。
それは《血魔術》第一魔法【氾濫増血】の発動手順だったが……流れ落ちるはずの血は、大気に触れると同時にパッと弾けた。
「『真紅の悪夢に揺蕩いて、現は紅く染まるだろう。白昼よ沈め、赤月よ昇れ、黄昏よりなお朱き紅夜が幕開ける。暁はすでに無く、永夜の訪れを言祝ごう。甘く香る赤霧よ、ものみなすべて、あなたの腕で眠らせて』」
朗々と紡がれる魔法詠唱。
静かに励起し周囲に拡がる真祖の魔力と鮮血。
それは真紅の霧となって、徐々に世界を蝕んでいく。
ただ、大量の血液をぶちまけるだけの【氾濫増血】では及ばない、空間を侵すような大魔法。
そう、これこそが《煌血》の力。
効果は至ってシンプル。
――――『使用者の血の力を劇的に増幅させる』。
今のローザネーラの血は、一滴でさえ高密度の魔力を帯びた劇薬だ。
荒野が、鏡界が、紅く赤く、沈む。
そしてその異変は、空中で追いかけっこをしていたヴェンデッタとチェシャキャットのところまで届いた。
安全な場所から一方的に嬲っている気になっていた魔猫が慌てている様子が、霧を通して伝わってくる。
いい気味だと鼻を鳴らし、ローザネーラは最後の言葉を紡いだ。
これより降誕するは、《血魔術》第一魔法【氾濫増血】改め。
《煌血魔術》第一階梯魔導。
「――――【|血霧の魔境よ、光を呑め《ネブラ・ルージュ》】
場を覆っている血の霧が、淡く光を放った。
その直後。
「――――やっちゃえ、ローザネーラ」
上空から、そんな声が聞こえた気がした。
確証はない。しかし、確信をもって、ローザネーラは笑みを浮かべる。
「まったく、かんたんにいってくれるじゃない。ばかますたー」
呆れたように――けれど、喜色を滲ませて。
「でも、いいわ。ワタシも、あのねこにははらがたってたし」
真紅の瞳に、主によく似た戦意が宿る。
「ついでに、ワタシのことをなめてるぐみんどもに、みせつけてやろうじゃない」
長杖を顔の前で構えて、吸血鬼の翼を誇るように大きく広げる。
「【煌血】のながもつしんのちから、めにやきつけなさい?」
息を吸って。
目を閉じて。
今、紡ぐ。
「――『愚か者よ、我が領域を侵す者どもよ』」
魔力の乗った声が、血霧を通して世界に響き渡る。
「――『汝らの罪過、その重さと深さ。知らぬ無能を呪うがいい』」
血霧が煌めきを帯びていく。同時に、空間そのものが戦慄するように震えだした。
「――『嚇怒の震えが大地を揺らし、憤怒の焔は燎原の火と化した』」
ローザネーラを覆うように、球体の魔法陣が展開される。
真紅の魔章。幾何学模様。解読不能の神秘文字が激しく流転する。
「――『恨め、蔑め、堕として裁くは我に在り』」
魔法陣の輝きが強くなる。ローザネーラからあふれる魔力に、魔霧が戦慄き不気味な音を響かせた。
臨界は、近い。
「――『今宵、万軍を血肉に変えよう。月の盃に真紅を満たして呑み干そう』」
可憐ながら威厳のある声音が、力強く鳴動する。
両手で握った杖を、天高くに突き付けるように掲げ――。
「――『悍ましき蛮行であろうとも許されよう。何故なら……」
杖の石突を思い切り地面に向かって振り下ろした。
「――――……こんなにも月が朱いから』!!」
カッ!! と開かれる真紅の瞳。
脈動する深紅の霧。
淡き輝きが、煌々と燃えるような鮮烈な物に塗り替えられる。
これより総てを蹂躙せしは、血の杭を無数に放つ《血魔術》第二魔法【血池地獄】の昇華した大魔法。
――《煌血魔術》第二階梯魔導。
嗚呼、世界よ。恐ろしきアカに染まれ――。
「――――【|断罪の槍よ、咎人貫き穢血を啜れ《カズィクル・ベイ》】!!」
ローザネーラは高らかに、魔法の発動を宣言する。
それと同時に、煌々と輝く真紅の霧がズズズ……と渦を巻きだした。
渦は一つではなく、二つ、三つ……と、加速度的に数を増やして行く。
やがて、場を覆っていた鏡界――無数の鏡で形作られた世界が、真紅の渦で埋め尽くされてしまった。
「さぁ、つらぬきなさい!」
ザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュッ!!!
幼き声が命じると、真紅の渦の中心より、朱に染まった槍が飛び出した。
あっという間に空間を席巻する朱槍の群れ。
朱槍が突き抜ける。
一枚。
パリン。
二枚。
パリン。パリン。
三枚。
パリン。パリン。パリン。。
――――無数の鏡が、連鎖するように砕け散った。
パリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンッッッッ!!!!!
甲高く、つんざくような音が連続で響き渡る。
『にゃ!? にゃっ! にゃあっ!?』
これにチェシャキャットも必死で抵抗する。
鏡を復元させ、鏡界を維持しようとするが……作った端から朱槍が現れ、無情にも粉々に砕いてしまう。
「むだよ。このやりはまりょくをくらうとくべつなまそう。このあかいきりのせかいで、これいじょうまほうをつかえるとおもわないことね!」
得意げにそう言い放ったローザネーラ。
やがて、鏡界は完全に崩壊する。
安全な鏡の中から、チェシャキャットが宙に放り出される。
わたわたと手足をバタつかせる魔猫が、地面に向かって堕ちていく。
ローザネーラはピストルの形にした指先を、墜落するチェシャキャットに向けて「ばーん」と悪戯っぽく声を弾ませた。
――――それが、終。
チェシャキャットの周囲に無数の真紅の渦が現れ――ザシュザシュザシュッ!!
四方八方より勢いよく飛び出した朱槍が、その小さな身体を貫いた。




