カナデの奇妙な生活②
「ありがとうございました、また来ますね!」
屋敷に一泊したリーフがエルフの森に帰るので、私は森まで送ることにした。
「じゃあ行こうか!」
私は彼女と手を繋ぎ、庭に出るドアに手をかけた。
--が
「やぁカナデさん、リーフちゃん」
!?
ドアを開けて、私の目に最初に映ったものは--
「涼佳さん、おはようございます!」
烏天狗の涼佳さんだった……
リーフは当たり前のように挨拶を交わしたけれど、私には何が何だかサッパリだよ!
「カッカッカッ! リーフちゃんを迎えに来たんだよカナデさん、そんなに驚かないで?」
--紫色の右目が閉じられ、満面の笑みを浮かべている。
そしてツヤのある、左目を隠している黒い髪が彼の動きで揺れる。
「あれ、来る時に涼佳さんに会ったって言ってなかったっけ?」
ええ、初耳ですよ。
--いや、でもさ?
「おや、お面を外すのを忘れていたよ。 翼を生やしっぱなしだったね」
--庭へのドアを開けたら黒い羽根がバサッてなってるのが見えるのって怖くない!?
「カナデさんもリーフちゃんを森へ送り届けるのかい? ワシも同行しても構わないだろうか?」
え……?
驚いた拍子に思考が止まっていたようで、気づいたらリーフと涼佳さんは庭から出ようとしていた。
「お、置いていかないで!」
森にはいるのも慣れてきて、エルフの森に行く途中で休憩する必要も無くなってきた。
「凄いねカナデさん、少し前まで歩くのにも一苦労だったのに」
--誰のせいで森を歩くのに慣れたと……
いや、『誰』ではない。
『どなた様達』のせいでこうなったと!
「そ、そうですねぇ…… 慣れって怖いですね」
そう。 一週間に必ず一回は森に入っているんだ、嫌でも慣れる。
「カッカッカッ! そう怒らないでよ、ね?」
涼佳さんはお面をクルクルと右人差し指で回しながら歩いている。
--森での移動は飛べるから楽だろうね!
「ん? 何の声だろう……」
突然リーフの足が止まった。
どうやら男の人と女の人の声が聞こえるようだ。
「……この声、聞き覚えない?」
段々と声が近づいてくる気がする。
すると--
「危ないっ!」
リーフが私を突き飛ばした!
そして立っていた場所を見てみると、なんと地面に生えていた草は青く燃えていた!
「カッカッカッ! また喧嘩か、好きだねぇ……」
涼佳さんの呟き同時に、木の陰から赤い天然パーマの男と金髪でカールが巻かれている女性--
「おう嫁!」
「あらカナデちゃん!」
赤鬼の慎平と九尾の紅緑さんが現れた!
「ど、どうしたの!?」
二人が喧嘩を始めたら森が火事になる!
何とかして止めなくては!
「聞いてよカナデちゃん、この赤鬼が『嫁の所に行く』って聞かないのよ!」
--はぁ。
「はんっ! 嫁に会いに行くのは旦那として当然だろ? この狐のババアが何も分かっちゃいねぇんだよ!」
--この二人を当時に相手するのは疲れるんだよなぁ。
「カナデさん。 貴方はワシの正妻で、ワシの子どもを産んでくれるんだよね?」
--涼佳さんの嫉妬モード入りましたよ!
もう、頼みの綱はリーフしか……
「待って、白いお馬さん!」
--行くなリーフ!
ねぇ待ってよ、この地獄を何とか出来る人いないの!?
「おうカナデ、何やってんだ?」
--この声は、胸のあるイケメンの!
「よう!」
空からドラゴンのアッシュが降りてきた!
タイミング良過ぎるぞイケメン娘!
「あの、さっそく申し訳ないんだけど、あの二人の喧嘩って止められないかな!?」
気づいたら慎平は金棒を手にしていた。
そして紅さんも炎を出して威嚇している!
「おう、任せとけ」
アッシュが火花を散らしている二人に近づく。
--火花の原因は私らしいけど、まぁアッシュに仲裁してもらってもいいよね!?
「カナデが困ってんだろ! 止めやがれ!」
アッシュはそう叫んで口から炎を吐いて二人を分断させた。
--だけならよかったが。
「ひっ、ひぃぃぃ!!」
情けない声が私の後ろから聞こえた。
ええ、流れ的にあの人ですよ。
「カッ、カナデさん! 逃げましょう!」
私の後ろの木の陰から包帯が全身に巻かれた男が飛び出してきた。
--『地獄』はまさに『カオス』と化した。
「マティスさん、どうしてこんな森の中に!?」
ミイラ男のマティスは以前、見世物小屋から抜け出してお化け屋敷の客引きとしてスカウトされたのだ。
--だから森の中にいるはずがない。
「あの、に、逃げてきたんです……!」
よく逃げるなぁおい!
怖がりなのに逃げる勇気はあるって何だよ! 普通は逆だろ!
「えっと、マティスさんはとりあえず仕事先に帰りましょ!?」
一人づつ対処してこのカオスを終わらせなければ--!
「へっ!? い、嫌です! あそこ怖いんですもん!」
何なんだこのチンチクリン!
黙って帰れよ! ……いや、帰って下さい!
「わかった。 この包帯男は俺が連れて帰る、じゃあなカナデ」
アッシュは慎平と紅さんをなだめ終えたらしく、マティスさんの首元を掴むとドラゴンの翼を生やして羽ばたいた。
「う、うん。 またね!」
--アッシュは何をしに来たんだ?
いや、それより慎平と紅さんはどうなったの!?
私は二人の方を向いた。 すると--
「ゴメンなさいねカナデちゃん、私が間違っていたみたい……」
--えっ?
「ああ、俺様も嫁のお前に会いたかっただけなんだ。 許るせ」
--えぇっと?
どうゆう状況だ? これ……
「あのドラゴンさんが炎で二人を圧倒させたんだ。 戦ったら負ける、そう思わせたみたいだよ」
涼佳さんは涼し気な顔をしていた。
どうやら嫉妬モードは終わったみたいだ。
「そうなんですか…… 森が火事になったりしなくて良かったです」
アッシュが来てくれなかったら今頃どうなっていたか……
「ところでカナデさん」
そう呟いた涼佳さんの顔が私の顔に近づき、何だか恥ずかしくて目を逸らしてしまう。
「人間と烏天狗の、ワシ達の子どもはいつ産んでくれるんだい?」
--嫉妬モードは終わっていなかったみたいです。




