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カナデの奇妙な生活①

 あれ、今のは夢……?


 久しぶりに東京の景色を見た。 夢の中で。

 --懐かしいなとは思ったけれど、何故か帰りたいとは思わなかった。


「おはようございますお嬢様。 今朝は眺めのおやすみでしたね」


 執事であるダンテの声がする。

 --すぐ左から。


「おはようございます」



 なかなかの高身長に黒く綺麗な瞳を持つ整った顔、後ろを小さく結んだ黒髪。

 彼は普通なら女性が黄色い声を上げてもおかしくないビジュアルの持ち主だが、かなり難を持ち合わせている。


「なんでダンテが私のベッドの中にいるの?」


 この執事は雇い主のベッドに何食わぬ顔をして入ってきていた。

 いや、慣れてきたとかじゃなくてさ……


「添い寝でございます」


 --は?

 しれっと何を言ってるんだコイツは。


「そうじゃなくて、早く出てってよ変態!」


 そう。 私の執事はイケメンだ。

 --それと同時に、変態だ。


「かしこまりました。 出ていきましょう」


 やれやれといった表情をしてるけど、私のベッドだし私の部屋だからね!?

 というより、いつから私の部屋にいたのよ!


「そうよ、勝手に入ってきて! 変態め!」


 ダンテが私のベッドから出るとほのかに血の匂いがした。 もしかして--


「機能、副業してきたの?」


 そう聞くとドアに手をかけていたダンテは焦った様子で私の方に振り返った。


「匂い、消えてませんでしたか……?」


 私は頭を縦に振り、シャワーを浴びてくる事を勧めた。

 ダンテは執事と同時に『暗殺者』もしているから、昨晩に着いた血の匂いがする事がたまにある。


「お嬢様ときたら、朝から私にシャワーを? 私は朝より夜の方が……」


「まだ朝なんだけど! ていうか出てって!」


 私の罵声でダンテが部屋を出て行った。

 アイツは喋らなければイケメンなのだけど……



「お嬢様、怒鳴り声が聞こえましたが大丈夫でございますか?」


 ダンテと代わるようにメイドのカノンが部屋に入ってきた。

 赤い瞳を持つ茶髪の女性で声が一般女性より低く、男装してもバレなそうな顔立ちをしている。


「大丈夫。 ダンテが許可してもないのに添い寝してたから怒っただけ」


 --口頭で説明するとかなりカオスだな。

 そう思っているとカノンの顔が曇った。


「私が添い寝したかったです……」


 そこかよ!

 女性のベッドに男が無断で入るなんて!とかじゃないのかよ!!


「それに可愛らしいお嬢様が汚れてしまうではないですか!」


 いやお前、心の声の方が先に出てたぞ!?


「殺ってきます。 お嬢様はお部屋にいて下さいまし」


 ちょ、おいおい!

 カノンは太ももの辺りに常備しているクナイを右手で取り、部屋のドアを睨んだ。


「禁止! 屋敷の中で曲者以外にクナイを使おうとするの禁止!!」


 何故クナイを常備しているか? それは勿論、彼女の副業がクノイチだからだ。


「お嬢様が仰るなら……」


 カノンは素直にクナイを仕舞ってくれた。


 私の言う事を聞くし、頼れる。

 でも心の声が漏れたり私の事を思うばかり変な事したりするけれど頼れるメイドだ。


「ではお嬢様、料理長にお嬢様がお目覚めになられた事をお伝えしてきます」


 カノンが私の部屋から出た。

 そろそろ着替えなければ。 そう思っていたが--



「おはようカナデ」


 部屋のドアをノックする音がした。

 声からしてベルンだろう、私は入る事を許可した。


「おはようベルン。 昨日は外で寝るって言ってたけど、大丈夫だった?」


 --別に罰ゲームじゃないですよ?

 彼は銀髪に銀の瞳、ダンテ程ではないが身長もある青年だ。 ()()


「おう、変な炎が近づいてきたけど追っ払った。 その他には何も無かったぞ」


 変な炎って何だよ! 確認してから追っ払え!!

 --もう一度言います、罰ゲームじゃないですよ?


「そうなんだ。 ……ところでベルンはどっちの姿で寝たの?」


 何を言っているんだと思った貴方、いたら素直に手を上げなさい。


「狼に決まってるだろ、人間の姿だったら化け物か何かに食われて死んじまうよ」


 そう、彼は狼と人間を自由に変身できるオオカミ男なのだ!

 でも暮らし始める時に毛が落ちるので屋敷の中では変身しないようにお願いした。


「へへっ、心配してくれたのか?」


 ベルンはニヤッとした。

 --最近のコイツは女性を落とす方法でも学習しているのだろうか。


「うん。 だって家族だし」


 出会った初日にベッドに押し倒されて泣かれた事は未だ忘れてないけどな!


「そ、そうか……」


 ベルンの顔が赤くなった。

 と同時に銀の毛をした尻尾が出て、ブンブンと揺れている。


「俺もう行くわ……」


 ベルンは突然部屋を出て行ってしまった。

 うん、よく分からん奴だな。


 さて、今度こそ着替え--


「おはようございますお嬢様!」


 今度は小柄な料理長のハータムが入ってきた。

 朝から癒されるこの笑顔……


「お嬢様。 エッグベネディクトとパンケーキ、どちらがいいですか?」


 それはもう一択ですよ!


「ベネディクトでお願い!」


 ハータムは「やっぱり」と言いたげな表情で微笑んでいた。 天使過ぎます。


「そう言えばお嬢様はエッグベネディクトが大好きでしたね、分かり切った質問をしてすみません」


 彼は照れているのか右手で頭を掻き始めた。

 --その姿は非常に人間らしい。


「ううん、大丈夫だよ。 むしろハータムと話せて嬉しい!」


 彼は元気で照れ屋なドワーフの少年。

 言うなればショタ枠の子だ、そのおかげで私は毎日癒されている。


「えっ! あ、いえ、何でもありません!」


 ハータムの顔が赤くなり、彼の小さな手がそれを隠す。


「大丈夫?」


 私はハータムの顔を覗き込もうと前のめりに屈み、彼の顔を見上げようとした。


「だ、大丈夫です! 朝食ができるまでお待ち下さい!」


 さそくさと部屋を出ていかれてしまった。

 出て行く瞬間さえ可愛らしいとは、あのドワーフはいったい何者なのだろう……



「お嬢ちゃん、失礼するよ?」


 着替えを出すためにクローゼットを開けようとしたらドアがノックされ、庭師のジャックが入ってきた。


「はい、マンドラゴラの水だよ」


 緑色に濁った水(?)の入ったバケツを手渡される。

 --出来ればイケメンにこんな物を持ってきて欲しくはない。


「あれ、まだパジャマなのかい? 早く着替えないと襲われちゃうよ?」


 --金髪に右耳だけのピアスを光らせた貴方が言うなよ!

 見た目的に屋敷の中で一番やりそうなの貴方じゃん!


「そうだよね! 早く着替えないとカノンにも悪いよね!」


 追い出すような言い方だが仕方ない。 着替えていないのは事実だし。


「何なら、お兄さんがコーディネートしてあげようか?」


 --!?

 何ですかそれ、ご褒美ですか?


「いいの?」


 思わず聞いてしまった。

 あ、いやでも…… 待てよ!?


「ああ。 じゃあ、お兄さんが選んで持ってくるからね?」


 嫌な予感がする。 もしかしたら彼の前職の『ヤクザ』の服とか持ってくるんじゃ……!


「後でねお嬢ちゃん。 楽しみにしていてね?」


 思い返せばジャックの普段着でダメージジーンズやタンクトップなどワイルドな物以外を見た事が無い--!



「おはようカナデ!」


 突然小学生くらいのエルフ、リーフが部屋に入ってきた。

 なんでいるのか? 一晩泊まったんですよ。


「カナデ、まだパジャマなの?」


 いやいやリーフ、貴方もう着替えてたの?

 もしかして私が遅いの?


「うん、ジャックが服を選んできてくれるから待ってるんだよ」


 --不安でしかないけどね!

 でも彼はリーフがいつも付けている貝殻の髪飾りを探してきた男だ、センスはあるはず。


「ジャックなら大丈夫だよ! 絶対可愛い服を持ってきてくれるよ!」


 リーフの髪飾りで束ねたクリーム色のポニーテールが揺れる。

 --商人に売られていた彼女がここまで明るく成長するなんて、誰が想像出来ただろう。


「あ、その水ってマンドラゴラにあげるやつだよね!? 私があげてもいい?」


 リーフが上目遣いで私を見る。

 --誰だ、天使に天使みたいな仕草教えたの!


「いいよ。 重いから気をつけてね?」


 ジャックに手渡された水(?)をリーフに渡す。

 彼女は小柄なわりに力が強く、水が並々入ったバケツを軽々と持った。


「はい、ご飯ですよー!」


 --録画しておけばよかった。



 そう思っていると鉢植えから金髪の女性(植物)が顔を出した。

 --ええ、初めて会った時は怖かったけど慣れましたよ。


「おはようございますお嬢様、リーフ様」


 マンドラゴラはいつも無感情で、何を考えているのかは分からない。 でも私や屋敷の仲間を守ってくれるので、大切にしてくれていることは確かだ。


「今朝はリーフ様が水を与えて下さったのですね、ありがとうございます」


 --ええ、今の発言中も真顔です。

 でも時々照れたりする。 その瞬間がギャップの様で可愛らしい。


「そういえば、今朝の四時頃にダンテ様がこの部屋に入ってきましたが大丈夫でしたか?」


 --あの変態執事、副業終えて四時からずっと私の部屋のベッドにいたのか。

 正直、言わないで欲しかった……



 --東京でトラックに撥ねられ、私の『異種族』に囲まれた奇妙な日々が始まった。


 でも、この生活は意外と--


 東京で女子高生をやっていた時より『格段に楽しい』です。

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