とあるヒロインから王子さま達へ☆ +蛇足
これにて完結となります。
ヒロイン視点なのでやや糖度高めになります。宜しければ渋茶かブラックコーヒーをお供にどうぞ。
「良いですか、ショコラーテ。学園に行ったら母の記したこのノートを毎日一度は読み返すのですよ?」
「はい、お母さま。」
王立学園に入学する前に。お母さまから落ち着いた色の革張りのノートをいただいた。学園に通う間は寮住まいになって離れて暮らさなければならないから、心配したお母さまが約束事を一つ一つ丁寧にしたためてくださったの。
「同じ寮に仲良くしていただいていたお隣のノーマ・ル様もいらっしゃるから、言う事をよく聞いて、何か困ったことがあったら必ず相談するのですよ?」
「はい、お母さま。」
お隣のノーマちゃんは仲良しの幼馴染。
とってもしっかりしていて、頭がよくて、同じ歳なのになんだかお姉さまみたいなの。
王立学園初等部が始まる12の歳に学園に行っちゃったから、それ以来お手紙でやりとりしたり、夏期や冬期の休暇にしか会えなかったの。
ショコラあんまり頭がよくないからずいぶん遅れて初等部最後の四年生からの入学になっちゃったけど、これからは毎日会えるのね、嬉しい!
このお母さまのノートとノーマちゃんが一緒なら、お家から離れて寂しいのもきっと我慢して頑張れると思うわ。
たくさんお友達ができるといいな♪
初等部の一年は初めて尽くしであっというまに過ぎちゃった気がする。
高等部からは校舎も変わるし、苦手なお勉強も一段と難しくなるんだって。うう、ぼんやりしてないで頑張らなきゃ!……て思ってたのに、また迷っちゃった。ここどこだろう?一年の教室じゃないのはわかるんだけど……あ、ノーマちゃん居た!探しに来てくれたんだ! よかったぁ!
「そこの、亜麻色の髪の貴女、廊下は静かに歩くものでしてよ?」
「は、はい!」
「下位貴族では所作が拙いのも当然かもしれませんが、学園の名に泥を塗るような行為は慎んでいただきたいわ。」
「はい、すみませんでした!」
一目で高位貴族とわかる方々の中でもひときわ目立つ方。私でも知ってる、イライザ=アクヤーク公爵令嬢様。
うわぁ、ホントのお姫様だ! 初めて見ちゃった! 確か高等部三年生だっけ。
なんて綺麗なんだろう。歩き方も首をかしげる仕草も全然違う。
凄いなあ、こんな近くでお目にかかるなんて、学園でもなければきっと一生なかったよね!ね?ノーマちゃん!
「……そうだね。あともう少し声は落とした方がいいと思うよ。」
「うん!」
「なんて野暮ったいのかしら! その程度でお茶会に参加するのは早いのではありません事? でも招待を受けたら下位貴族の貴女が参加を断るのは失礼ですわね。良いですわ、貴女が余計な恥をかかないように私から皆様へ招待状を送らないように申し上げて差し上げますわ。」
「まあ、イライザ様のお優しい事。貴女、お礼を申し上げなさいな。」
「は、はい、ありがとうございます。」
あーあ、お勉強は苦手だけど、お茶の作法は家庭教師の先生もほめてくれたんだけどなぁ。学園レベルにはまだまだって事だよね。頑張って練習しよっと!
それにしても、ここの所よくイライザ様にお声をかけられるんだよね。
学年も違うしほとんど接点もないショコラの事まで気にかけてくださるなんて……やっぱり公爵令嬢ともなると違うなあ。
「ショコラ! またイライザに何か言われたのか?!」
「ヒローイン嬢、遠慮なく言っていいんだぞ?」
すぐ後にやってこられたのは第二王子殿下であるウワキーオ様とお友達のダンベル侯爵子息のノーキン様。
以前うっかり廊下でぶつかっちゃって、ころんじゃった所を助けていただいたの。その時はスカートが盛大に捲れちゃって、今思い出しても恥ずかしいやら申し訳ないやら。
お詫びにその時ノーマちゃんと食べようと思って持っていた手作りクッキーを差し上げたら、気に入ったって言ってくださって、ちょくちょく献上することになったの。
王子様と侯爵子息様だもの、きっと普段は手の込んだ豪華なケーキとかを召し上がってるから、シンプルなバタークッキーとか珍しかったんだろうな。
でも美味しいって言ってもらえるのはとっても嬉しい。
「えと、お茶会の作法がまだまだだから、恥をかかないように皆様に招待を見合わせるように言ってくださるって……」
「なんだと! 何と陰険な!」
「いえ、そんな…」
「しかし、お茶会か……女子の領分に俺たちが口を出しにくい事を知って……!」
「あの! 頑張って練習しますから、大丈夫です!」
「ショコラ……」
「ヒローイン嬢、無理はするなよ?」
「はい、ありがとうございます。」
あ、そういえばイライザ様はウワキーオ様の婚約者だったっけ。だから接点は一応ある……のかなぁ?
この王立学園は余程のことがない限り貴族の子女なら一度は通うきまりになっているから、上は王族から下は準貴族の騎士爵までいろんな人たちがに通ってる。もちそん王族や上位貴族様方と下位貴族は寮こそ違うけど(警備の関係なんだって)、校舎は一緒だから学科やレベルが合えば教室ではご一緒することもあるの。すごいよね。
でも、ショコラちょっと抜けてるしお家の家格も下の方だから、上位貴族様にいじめられるんじゃないかって姉やが心配してて……ちょっぴり不安もあったの。
だけど、入学してみたら意地悪な人なんて一人もいなくて、イライザ様達もウワキーオ様達もとっても親切で優しいし、お勉強はやっぱりちょっと苦手だけど知らない事を教わるのは楽しい。学園に来て良かったあ♪
でも、最近不安があるの。
ノーマちゃんや教室で一緒になることが多いお友達が心配そうな顔や困った顔をしているの。
ショコラ知ってる。これ何か間違った事をしちゃった時なの。
このところ忙しいみたいで前ほどノーマちゃんと一緒にいられないから、何が間違ってるのか直ぐその場で教えてもらう事ができない。
だから自分で考えてみるんだけど……ううう、わかんないよぉ。
なんでか王子様達とあんまり仲良くしちゃダメなのは教えてもらったけど、お誘いを断るのもダメなんだよね?
この前作詩の授業でよく組になる男爵家のシーナちゃんに聞いてみたけど「そうなのよね……」って頭を抱えてた。
刺繍の授業で一緒になったサイフォーナちゃんに用事があるからって言ってみたらってアドバイスを貰ったんだけど、すぐ噓だってばれちゃったし……どうしよう。
とりあえず、お母さまのノートの『ダメ、絶対!男女交際編』の禁止項目は守れてる、よね?
【殿方と二人きりで個室に行かない】
この前ウワキーオ様にお手伝いを頼まれて生徒会室に行ったけど、すぐ副会長で宰相子息のエセ・シューサイ様がいらっしゃたし。
【理由なく十二歳以上の男性の身体に触れない】
ウワキーオ様とぶつかっちゃったのは事故だし、ノーキン様はあちらから肩を叩いてこられるんだし。
よく頭をなでてほしいってクロショ・タッコー様に頼まれるけど、お父様がタッコー宮廷魔導師長なせいか、生まれつき特別魔力量が多くて特例で入園されたから今十一歳だし、うん、セーフだね。
【キスされる】
前にチャーラオ・フリョー侯爵子息様にお声をかけられた時に急に顎をとられてされそうになっちゃったけど、とっさに両手で抑えて阻止できた! でもご無礼しちゃってすみませんって謝ったら「面白いやつだな」って笑ってた。許してくださったのよね?
それから『恋の秘め言葉編』……これ覚えるの大変だったなぁ。なんで普通に言っちゃダメなんだろう?
【金のオレンジの花の指輪を贈られる:婚約する】
ノーキン様に貰ってくれるかって言われたけど、お母さまにお聞きしないとダメなんですって言ったら「そうか…ごめんな」って苦笑いなさったから思わず「ごめんなさい。」って言ったら「いいんだ。」って。
ちょっと涙ぐんでらしたけど、大丈夫だったかな。
【ピンクのロザリアの花束を貰う:恋人になる】
ノーマちゃんの名前でクロショ・タッコー様に裏庭に呼び出された時差し出されたけど、「ごめんなさい、受け取れません。」って謝ったら許してくれた。
結婚を前提にしないで恋人にっていうお申し込みは誰が相手でもとりあえずお断りしなさいってお母さまがおっしゃってたもんね。
【白ワインをかけられる:秘め事をしましょう】
エセ・シューサイ様にかけられそうになったけど、急いで避けられたから大丈夫。……でもこれは流石にただの事故よね。ま昼の学食でだったし……確か夜会での決まり事だったはず。エセ・シューサイ様ものすごく慌てて謝ってくださったし。
────────うん、最後の手段だっておっしゃってた『お母さまが危篤なので今すぐお家に帰ります!』はまだ使わなくても大丈夫よね?
なんだか色々あったみたいだけど、あっという間にもう高等部三学年の卒業式。
イライザ様やウワキーオ様、ノーキン様が卒業なさるのは寂しいけど、おめでたい事だもの、お祝い申し上げなきゃ♪
初等部二年になるクロショ・ターオ様はもちろん、一つ上のエセ・シューサイ様はまだいらっしゃるんだし……あ、確かノーキン様のご婚約者でイライザ様のお友達でもあるトリーマキ伯爵令嬢のソノニア様も。
あー、でもどうだろう? イライザ様はよくお声をかけてくださったけど、ソノニア様は一緒にいらっしゃるからついでにって感じだったし……でも、今迄みたいに色々教えていただけたら嬉しいなぁ。
あれ? 夜会のエスコートはお父様の弟のボブ叔父様だったはずなんだけど……あれ?なんでウワキーオ様が?ノーキン様やエセー・シュウサイ様も、あれ?婚約者のご令嬢方は? エスコートしなくていいの?
何が何だか判らない。ノーマちゃんを向こうに見つけたけど遠いし、なんか抜け出したらダメっぽい雰囲気だし。
ショコラ、どうしたらいいの?
えっ? 罪? 何が? イライザ様が私に嫌がらせ?
階段から突き落として殺人未遂?
ええぇ──────────────────っ!!
そんな、イライザ様には何かと気にかけていただいてたのに! 嫌がらせなんてされてないよ?!
階段からって…先週の?! 二階の窓にとまってた珍しい小鳥に気を取られて転んじゃったって、私ちゃんと言ったよね?!
どうしてこんな────────?!
パシャ……ッ!
え
イライザ様が
私の胸に
赤ワインを────────?
夜会で、赤ワインをかける。
知ってる、これ、お母さまのノートにあった秘め言葉の一つで、意味は─────
『貴女が欲しい。結婚して私だけのものにしたい。』
その瞬間、赤ワインが炎のように熱くなった。
え、うそ! イライザ様が、私を、こんな情熱的に、そんな……あ、ひょっとして学園で学年も違うのに何度も行き会ったり、声をかけてくれたり、色々気にかけてくださったのは……ひょっとして、私の事を……?
え、そんな前からずっと?
そんな、そんなのって……
どうしよう。
お胸もほっぺも熱くてドキドキして、私─────────溶けちゃいそうだよぅ。
そうして……この度、ショコラーテはイライザ様のお嫁さんになりました♪
えへへ、今とっても幸せですぅv
あの後、プロポーズしていただいたとはいえ公爵家と子爵家じゃ家格が違いすぎて無理かもって思ったんだけど、公爵様からお家に、多少問題があっても何とでもできるから心置きなく嫁いでくるようにってお達しがあったの。
お父様もお母さまもとっても吃驚したけど泣いて喜んでらして……イライザ様なら安心だって、精一杯お仕えするんですよって。
ふああv ショコラホントにイライザ様と結婚できちゃうの?
そのうち真っ白い百合の花みたいな素敵な花嫁衣裳が贈られてきて、あわあわしているうちに大聖堂で結婚式をあげました。
色とりどりのステンドグラスの下、同じ白百合みたいなドレスのイザベラ様は本当に夢みたいにお美しくて……感動して泣いちゃったショコラの涙をそっと指で拭って安心するように微笑んでくれたの。
ああ、こんな素敵な方に望んでいただいてるんだ……!と思ったら胸がいっぱいになってまた涙が出ちゃった☆
今迄ショコラに優しくしてくれた人や、可愛いって褒めてくれた人はいっぱいいた。でも、イライザ様はショコラに
「こんなこと君は知らなくても良いんだよ。」
とか
「可愛いんだからこれくらい出来なくてもかまわないよ。」
って言わないの。
いけないことは何度でも叱ってくれるし、わからない事は何度でも教えてくれる。
ショコラあんまりお利口じゃないからなかなか上手くできなくて、きっと教えるのも大変だと思うのに。
そんな時、ああ、ショコラのこと考えてくれてるんだって、愛されてるって感じてすっごく幸せな気持ちになる。
ウワキーオ様達もイライザ様と同じくらい何でもできて、とっても優しくしてくれたけど、「出来なくても良い」って言われるのが……仕方ないけどちょっぴり寂しかったの。
それに、その、初夜の時も……きゃv
結婚式の前にお母様が「うち程度で同性婚をするとは思わなかったわ。」って、慌てて女夫婦用の夜の嗜み手引書を用意してくださったの。
イライザ様と、こ、こんな……ど、どうしよう、は、恥ずかしくて目が回りそう~~~!
でもドキドキの初夜はお休みのキスをして手をつないで同じベッドで眠っただけで、安心しちゃった。
でもショコラのこと『欲しい。』っておっしゃってたのに、いいのかなぁ?
そうしたら「急な結婚だったから、ショコラーテの気持ちの準備ができるのを待ってくださってるんだよ。」ってノーマちゃんが。
────────ああ、ショコラ本当に大事にしてもらってるv
イライザ様のお嫁さんにしてもらって本当に幸せ。
だから、イライザ様に何をして差し上げられるかなってノーマちゃんに相談してみた。
そうしたら出来る事からひとつづつやっていけばいいよって教えてくれたから、遅くまでお仕事してるイライザ様にお茶と焼きたてのスコーンを持っていくの。
お仕事の手伝いとか難しいことは出来ないけど、お茶を淹れるのには自信があるわ。
学園でまだまだだって教えていただいてからいっぱい練習したもの!
イライザ様がショコラの入れたお茶を「美味しい」っていってくれて、ホッとした顔で笑ってくれるのを見ると、胸の奥がキュウンってする。
ああ、私、ホントにイライザ様が大好きって、その度に思う。
ショコラ、これからもうんと尽くしますねv
そんなある日、最近めっきりお会いしなくなったウワキーオ様達からお手紙をいただいた。
わあ、お見掛けしないと思ってたら、卒業してから皆さん色んなところで頑張ってるんだなぁ。ちっとも知らなかった。
でもなんでまたイライザさまに意地悪されてないかって言うんだろう?
夜会の後にちゃんと誤解だって説明されたって聞いたんだけど……私よっぽど変な言い方しちゃってたのかな?だったら、誤解させちゃって申し訳ないなぁ。
そうだ!お手紙なら読み返して変なとこ直したりできるし、言いたい事をすぐに返せなかったりするお話よりきっとちゃんと分かってもらえるよね。
どんなにイライザ様が優しくてショコラが毎日幸せか、お伝えしなくちゃ!
前略 ウワキーオ第二王子様
イライザ様は優しくて何でもできてとっても素敵な方で、お嫁さんにしてもらってショコラ毎日すっごく幸せですぅv
新しい所で頑張ってらっしゃるとお聞きました。
学園で優しくしていただいたせめてものお礼に、ショコラの幸せがおすそ分けされますように☆
かしこ
※他、数名分あり。
◇蛇足◇
何処か国境沿いの砦にて
「おいゴラ! てめェ何やってくれてんだこの馬鹿ボ……副長、こいつどうした?」
「ああ隊長、おかえりなさい。」
「このアホが王都への荷に元子爵令嬢あての手紙を隠してやがったって聞いたんだが……」
「ええ、それでその元子爵令嬢、現公爵夫人のお返事がこちらです。」
「何ぃ?──────────あー……副長。」
「はい。」
「今日の処は、こいつそっとしておいてやれ。あとコーヒー頼む、ブラックで。」
「私も今特別濃いのを煎れたばかりですから、どうぞ。」
「サンキュ。」
前略 逆ハーmen’sから……
返事がない。
ただの屍の様だ。
若者たちドンマイ!
おまけ:思い付きで書き始めたため、急きょ帳尻合わせする事になった学園設定
12歳~15歳:初等部
16歳~18歳:高等部
初等、高等の二部制で敷地は一応一緒だけれど校舎は別で鍛錬場なども別。
高位貴族は優秀な家庭教師がついていたり、マナー教育の基準が厳しいこともあってだいたい高等部から入学。
レベルの高い家庭教師の確保が難しい下位貴族はだいたい初等部から。ただしある程度の学力とマナーを身に着けていないと入学できない。