エピローグ
そこは爆発的に拡大収束を繰り返す混沌とした宇宙の中心であり、その無窮の中心で呪詛にも似た冒涜的な言葉を吐き出し続ける不定形の影こそ、『アカシックレコード』にたどり着きうる魔術師や、それを意にも介さぬ外なる神々ですら口にすることを忌避する、無限にして時空を超越した魔王、アザトース。
宇宙の誕生する以前よりそこにあり、彼の見ている夢こそ世界そのものであると知っているシラノは、俯瞰から世界の終わり、つまりはアザトースが目覚める瞬間を見下ろしていた。
「所詮この世は夢物語――とは、あなたの言葉でしたね。夢からの追放者よ」
シラノの背後から話しかけて来たのは、いつぞやの黒い神父だった。
夢からの追放者というシラノに対して使われた呼び名は、文字通り彼がアザトースの夢――世界から追放されたその外側にいるものであることを意味している。
「随分と的を射た言葉だ。それに、自身に対する皮肉も交えるとは、さすがですね」
「事実だ。そして、今回の夢はここで終わりか。随分と愉快な夢だったのだが……」
神父もそれに同意したかのように大きく頷いた。
「そうですね。我が主には新たな夢を見ていてもらわねばなりません。ですので……」
「わかっている」
そう言うと、シラノは指をならして魔術を発動した。魔術を発動する際に彼からあふれ出るその魔力は、旧支配者や外なる神とは比べものにならない程の力の波動として宇宙全てを飲み込んでいった。
そして、アザトースの周囲に異形の神々が創造され、それらは各々精神のない踊りをしながら、手に持った太鼓やフルートを奏で始める。
それに慰められるようにして、目覚めたアザトースはすぐさま再び眠りについた。
「やはり、我が主と同じ位階に意思の通じる方がいるというのは助かりますね。あなたが創造した彼らは私が用意するものたちよりも質がいい――おや、もう行かれるのですか?」
神父の話を聞きながら、シラノは再びアザトースの夢へと旅立つ準備を始める。
「あなたが我が主の夢全てを取り込み尽くした時はさすがに焦りましたが、それを昇華し主と同じ位階にたどりついたのですから……人の可能性も侮れないものです。貴方はそういう人の可能性を見たいのでしょう?」
「然り。カノンの件で確信したが、人はより高みへと向かえる可能性を秘めている。今回は妖虫の邪魔が入ったが、私と同じ場所まで上り詰めることが出来る人間が現れればと思うよ」
シラノはそう言うと、その場から姿を消した。
「白痴にして愚かな我が主が目覚めれば彼が慰め、彼は再びその夢へと向かう。全く、世界の内側も外側も上手く回るように出来ていますね」
――かくして、夢から追放された魔術師は、新たな世界で戯れる。
『世界征服を果たした魔術師は異世界で戯れる』無事完結することが出来ました。皆様多くの感想や誤字脱字報告、お気に入り登録やポイント評価等ありがとうございます!
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