第三十七話 彼らの悲願(下)
今回は短いです。
「……どうしてだ?」
達也はショックでへたり込みそうになるのを耐えながら、イスが乗り移っているエルフに対して静かに問うた。
「ああ、この表現では誤解がありますね。貴方をもといた時間軸に送り返すことは出来ます。しかし、貴方の仲間は時間的に助けることは出来ないと言ったのです」
「あんたたちは時間制御が出来るんじゃないのか?」
「私たちは出来ます。しかし、それは精神体である私たちが物理的な制約を受けないからであって、肉体のある貴方達に対して時間制御を自由にできる訳ではありません」
つまるところ、彼らイスの偉大なる種族達は、遙か昔に肉体を棄てることにより、時間の制約から外れることが出来たのであって、肉体を持つ達也が自由に時間制御を出来るようには出来ないのだ。
だが、彼らは腐っても時間制御を完全に扱える種族である。達也一人を元の場所に送り返すことくらいは出来るのだ。
「この世界はすでに限界です。私もあと数十分すればおの世界から離れ、遙か過去に移動します。その際、貴方のみを救うことはしても良いと考えています。素敵な手土産も貰いましたし」
仲間を見捨てて、元の世界に帰るか。それとも、イスの言うこの世界の終焉をすでに死んでいるとも言える仲間と共に迎えるか。
彼にはこの時究極の選択を強いられていた。
だが、彼は元の世界では齢二十にも満たない少年に過ぎない。一度会えないとなってしまえば、家や友人が恋しくなってしまうのは当然とも言えた。
そして、肉体的にも精神的にも未熟な彼に、世界の終焉を死んだ仲間と共に迎えるなどという愚かな選択をとれるはずもなかった。
「わかった。僕を助けてくれ!」
言葉にしてしまうと、彼の心に言いようのない罪悪感が押し寄せてくる。数ヶ月前まで積極的とは言えないが共に訓練に励み、王国を妥当するという一つの目標を目指していたのだから、その罪悪感は並のものではなかった。
しかし、最後に見た彼らの全裸の包容に、頭部を犯す虫の姿が達也の脳裏を過ぎり、そんな罪悪感など振り切って彼に帰還を選択させた。
「わかりました。では、貴方を救って差し上げましょう」
歓喜でもなく落胆でもなく、きわめて平坦な口調のエルフの返事に、達也はどことなくほっとしていた。
シラノのように嬉々として提案を受け入れられれば、達也は再び罪悪感に苛まれただろう。しかし、その声に落胆の色をにじませられれば、それはそれで達也は罪悪感に苛まれてします。
達也はその無表情のエルフの姿に救われたような気にもなりながら、手持ちぶさたになりながら待っていた。
――時間移動は面倒なのですよ。
そんなエルフの姿をしたイスの呟きは、達也の耳には届かなかった。
達也は気が付くと、自室のベッドに寝そべっていた。体を起こして周囲を見渡すと、小学校入学時に買ったもらった勉強机や、マンガが大量に収納されている二重本棚。今年でサッカー部を引退したため、部屋の隅には寂しげにボールが転がっていた。
そこは紛れもなく日本にある達也の部屋だった。
彼はまず魔術による幻覚を疑い、幻術を弾く魔術を発動した。それはシラノに教えてもらったものではなく、使い慣れていた帝国で教わったものである。しかし、そこに反応はない。
達也はベッドを降り、机や本棚に手を触れて回った。
実物に触れ帰還したのだという実感が沸いてくると、ダムが決壊するように一気に涙が溢れてきて止まらなくなった。
「達也、どうしたのッ!?」
次第に大声を出して泣き出す彼の声を聞きつけて、達也の母である美代子が慌てて部屋に入ってきた。子離れ出来ない彼女にとっては、普段気だるげにしている可愛い息子が大声をあげて泣いているというのは大事である。
彼女は泣きやまない達也に駆け寄ると、達也は美代子にしがみつき、さらに声を大にして泣き続けた。
――なぜ、元の世界あるこの日本で、魔術が使えているのか疑問に思う事もなく。
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