第20話 元王国兵站運搬員の片影
新年、おめでとうございます。から3日後の1月4日。
1月6日に高校生活へ戻る。
多久戸書店。あのライトノベルは家に置いてきた。
キラキラネームみたいだなと思いながら書店に入ったが、若しかしたら。
タクトは、普通の名前なのかもしれない、などと書店の中で考えていた。
ライトノベルコーナーは、いつ見てもカラフルの一言。
表紙に可愛い画があるのは、普通だが画のクオリティが年々上げってるんだよな。
だが、今日は立ち読みが多かった。新年から、俺も含めてライトノベルってどうなんだろうとは思いもするが、今更だ。
立ち読みが減ったら、もう一度見にこようと心に決める。
俺の近所の書店は、異世界物ハーレム系が人気と無駄な知識を頭に刻んだ。
場所を移動し、平積みされたマンガ本を見回す。漫画本は、シュリンクに包まれていた。
ビニールだが、シュリンクと言うらしい。
最近はライトノベルのコミカライズ作品も、売れているみたいだな。
取次から、どの程度入荷したのかは解からないが平積みで揃えて並べる書店なので人気度を少しだけ把握できた。
少しの意味は、補充されたら解からなくなるからだ。
1冊のマンガに目を奪われた。
言葉が出ない。題名は、
【元王国兵站運搬員の片影 58巻】
表紙の青年は前世の俺と同じ、浅葱色。
青と緑の中間、今時。青色や緑色の髪色をした主人公は、珍しくない。
表紙には青年が、描かれてはいる。だが、魔人だと青年の姿でも40代ってのはざらだ。
本を掴み取る。頭上から、アニメソングが流れてくるがそんなことはどうでもいい。
本を裏返す。
【フェトル・イーストラ=スズナの人生。ここに堂々の完結!】
激しい運動をしても最近は、胸が痛くなることは無かった。
胸が締め付けられるような、痛み。
この本の内容によっては、人生を否定するようなことになりかねない。
恐いもの見たさ、とかではないが。いや、本当は恐い。
全巻、買うしかないだろ。
§ § §
少しフェトルの面影がある。この少女はフェリル、9歳。
フェリル・イーストラ=ロガールセン。
上質な原稿用紙。数枚を両手に持った、フェリル。
「題名。あたしのお父さんとお母さん」
台詞を、一文字すら逃さず読む。
後ろの鞄棚にフェトルとリョリルが立って、フェリルを見詰めていた。
「お父さんの職業は、冒険者で――」
(成長したな……)
フェトルの心の声。
ページをめくる。
「そんなお父さんとお母さんをあたしは、尊敬しています」
「そして、ず~と。大、大、大、大好きです!」
先生視点でフェリルを基点にし、背後にフェトルとリョリルの2人は違う泣き方で、涙を流していた。
【元王国兵站運搬員の片影 58巻】を閉じる。
このフェトルは、俺では無い。アリステラド人に勝利を収め。最高の人生を、手に入れたフェトルだ。
それしても、このフェトルはリョリルを選んだのか……。
自分が何者か、俺は直久海晴だろ?
それとも、フェトル・イーストラ=スズナが転生した姿。
ただ、マンガの中から出てきた主人公。
本当は……。
言い訳や答えを、考え続けることさえ嫌になってきた。
受け入れられる訳が無い。オタクと言うプラス思考を持っていても、これだけは無理だ。
ハーレムしない、ハーレム小説並みに無理。例えも何かオタクっぽい、腹立たしい。
本を机に置き、右手で机を叩く。右拳を作って振り下ろす。
「何でだ、訳わかんねぇよ!」
俺が異世界に転生なり召喚される話なら、受け入れよう。だが、これは何だ。異世界で、餓鬼みたいに生きやがってマンガだからか!
更に机を叩くと積んであったマンガ本が、崩れ落ちた。
俺は一体、何者なんだよ。
明日から、学校にいかないといけないのにどうしたらいいんだ。
結局、学校で弓菜に会っても。後悔し続けていた。
§ § §
できるだけいつも通りに接していたが、なぜか弓菜に『直さんの家で勉強会しませんか?』と言われ。
ほとんど、強制で休日に2人だけで勉強会をすることになっていた。
初めての勉強会。
「真核生物と原核生物の違いは――」
説明を始めようとした開絵は、直久が心ここにあらずだと気づく。
「――直さん!」
直久は目を白黒させる。
開絵に見詰められるが、視線をずらしてしまい。余計に怪しまれた。
(何か、隠してるってバレバレなんですけど……)
溜め息をついた開絵は、直久に声を掛ける。
「悩み事があったりします?」
直久は心の中で、はっとした。
「心の声は、声に出さないと伝わりないよね」
床に置いた小さな机を挟んで、2人は向かい合っていたが机に手を突き。
直久の近くで、女の子座りをした。
「その座り方、あんまり長くすると。体に良くないぞ」
「……いつもはしないもん、気分が沈んでいるから。言ったんですよね、でも隠し事か嫌なことがあったと言うのが露見していくだけですよ」
足を動かし、体育座りへと変える。
「隠しておきたい、秘密があるんだよ」
直久は、しまったと言った顔をした。
(本当は、言いたいんじゃないですか。直さん)
しばらく2人共、口を噤む。
数分考えた、開絵は口を開く。
「わたしにも、秘密ありますよ」
「意味が……」叫びかけた直久は、口を閉ざした。
「そうですか。直久さんは、大切な人に自分の秘密を教えられないん。人だったんですね」
「違う、そうじゃない、そうじゃないけど。簡単に言えることじゃないんだよ」
話しながら、直久は目を右腕で擦った。
いつもの開絵なら、これ以上。追及しなかった筈だ。
「人生は、考えているより短いですよ。後悔をいつまでも引き摺らないで、人生の糧にしなくちゃいけないんです」
俯いていた、直久は顔を上げて。開絵を見る。
「やっぱり、無理だ。ごめん」
開絵は小さな机におかれていた緑茶が入ったグラスを左手で掴み、一気に飲む。
「あっ!」
直久は驚く。開絵が使っていたグラスの中には、すでに緑茶は無かったので、直久のグラスを掴んでいたからだ。
グラスを机に優しくおく。
「わたしの今まで、誰にも言ってない隠し事。教えるから、直久さんの隠し事を教えて」
(ちょっと、言い過ぎたかも)
エアコンで、快適な室温の筈が直久には少し暑く感じていた。
行き成り、直久は立ち上がり。本棚へと向かう。
「ここまで弓菜に言わせておいて。隠していたら、恥ずかしく思えてきた」
(以外に、かなりのプラス思考なんじゃ)
開絵は、そんなことを思いながら。直久を見ていた。
本棚の一番下から、マンガ本を取り出す。
【元王国兵站運搬員の片影】を58冊を、開絵の右側におく。
「全てを読み終わってから、話をさせてくれ」
開絵は、先ず1巻を手に取った。
§ § §
うっすらと涙を浮かべながら、【元王国兵站運搬員 58巻】を弓菜は優しく閉じる。
「俺には前世の記憶があって。それをひとつの人生だと思っていた――」
話し終わったら、なぜか弓菜に説教され始めた。
「人生って、過去に拘り過ぎなんじゃない。前世は前世、今は今」
よくよく考えたら、前世が他人の創作でも。本当に生きていたとしても、今がある。
昔みたいに、偽善だと言って自分を貶める必要も無かった。
この程度の悩みなんかで悩んでいた俺は、バカみたいだ。
「何か、ごめん。そして、ありがとう」
俺を見下ろしていた弓菜は、床に腰を降ろす。
「もしですが、その痛みが解かるっていったら怒ります?」
「えっ」
正座していた弓菜は、右手を床に突き。体育座りをした。
「わたしも。本当はもっと時間が経ってから、言おうと思ってた」
隠し事のことか。
痛みが解かるって、どういう意味だ?
「運命と言えば。そうかもしれないし、偶然なのかもしれない。わたし実はね。
前世の記憶があったりしてるんだ」
「まだ、驚かない。慰めで言ってるんだろ?」
弓菜は、ゆっくりと首を横に振った。
「私の前世は、リョリルだったんです。今日まで、直久さんにこんな話しをしても。
信じては、くれないんだろうなーって思ってた」
「そんな、小説みたいな話は……」
本当、本当なのか。
俺の悲しみが、本当にわずかに感じ始める。リョリルは、主人公でさえない。フェトルのヒロインだ。
ヒロインは主人公になれなし、主人公を輝かせる脇役でしかない。
「確信が、まだ持てませんよね。この本に出てこなかった話をします」
深く、弓菜は深呼吸をした。
「わたしの母親は、レシアクス・ロガールセンです。余り、マンガでは書かれていませんがわたしは家から出たい女子。向こうでは、16歳から成人でしたね」
全て、中抜きされた内容。
人生を本にしようとしたら、1日で数ページ。俺は昔、本気で小説を書いてみようと思ったことがあるからよく解かる。
人生を、本にしようとはするべきではない。
「どうして、弓菜はそこまで強くいられるんだ」
「人生は、今なんです。全て含めて人生だって、思ってください」
弓菜は左手につけた、腕時計を見る。
「嘘、もう5時過ぎ!」
慌ただしく、荷物をまとめ始めた。
「お茶とお菓子とありがとう。付き合ってるってことを忘れないでね、好きだよ。直さん」
部屋の外に一緒に出る。
階段を先に降りたら。母親と出くわした。もちろん、髪は黒髪だ。
「まだ帰らせて、なかったの? 彼女、親に連絡入れてた」
「あー、していないような」
「お母さんが、彼女を家まで送るから。待たせててね」
強く念を押された。
「お邪魔してます」
弓菜は、買い物帰りの母親を見て少し驚く。そう言えば、家に入ってきたときに誰もいないのに挨拶していたんだよな。
「海晴、晩ご飯の食材。下処理お願い」
行き成り現われ、俺に声を掛けた。
「今日、鰤大根だから。出来るなら全部、作っちゃてて」
「えっと、開絵弓菜さん。初めまして、家まで送るから。住所、教えてくれる。じゃあ行こうか」
「はい」
母親が先に靴を履き、その後に弓菜もヒールがほとんどない。パンプスを履いた。
玄関が開かれ、2人は外に出る。俺は急いで靴を履き、駐車場へと向かった。
「――32号とこれでよし」
『目的地を決定しました。エンジンを、始動させる前にシートベルトをお締めください』
左側の後部座席に弓菜は座るって、シートベルトを締める。
ドアが、開きっぱなしだけど……。
車に乗り込んだ2人。外はすでに、薄暗く。街路灯が光を灯していた。
「海、ドア閉めてあげて」
エンジンスターターボタンが押され。機械的な音が耳に届く、EVモードで始動したようだ。
これは、EV走行時に態と機械的な音が出るようになっている。本当は、もう少し静かなんだよな。
ガソリンエンジン始動時とは、音が違うから誰にでも解かると思う。
「また明日、弓菜さん」
頷かれたので、ドアを優しく閉めた。
駐車場から、静かに発車する。
独特の車体、空気抵抗を極力減らす為の弓なりの形だ。
車のテールランプが細長く赤い光を、発した。
そこに、ブレーキを知らせる赤い光が灯る。
このセダン型ハイブリットカーは、日本で一番流通している車だ。
そんなことを思いながら、車体が見えなくなるまで見届けた。




