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32 花祭り



「……ということでした。ごめんね。心配かけて」


私は今、学園の秘密の東屋で昼食をつつきながら昨夜のベルとの事の顛末をアリアに説明していた。

アリアは声を出して笑いながら私の話を聞いていた。


「もう。ベルに限って心変わりなんてありえないと思っていたけれど……。

今回はさすがに肝が冷えたわ。

でもリユーそんなに嫉妬するくらい気持ちが育っていたのね」


笑いすぎて涙を浮かべた目をぬぐいながらアリアが言う。

さすがに今回は怒る気にもならなかった。


「ほんと……。

私の勘違いでアリアにもクリストファーさんにも迷惑かけちゃった」


「いいのよ。いいのよ」


片手を顔の前でひらひら振りながらアリアが言う。



「それでね、ご迷惑をかけたお詫びに今日、朝早く起きてクッキー作ったの。

これはアリアの分。

これは……クリストファーさんに渡してくれる?」



私は昨日の夜、悩みが解決してすっきりしたからか、いつもより早く目が覚めた。

朝から厨房にお邪魔して家族の分ともちろんベルの分、そしてアリアとクリストファーさんにお詫びのクッキーを焼いていた。


「わぁ嬉しい!

私、リユーの作ったクッキー好きなのよね。

いつもの?」


「うんそうだよ。ばぁちゃん直伝の薬草クッキー」



孤児になる前。

私を育ててくれたばぁちゃんが唯一教えてくれた、薬草を混ぜ込んだクッキーは今でも時々作る。

家族もアリアたちもこのクッキーは気に入ってくれていて、時々リクエストされるくらいだ。

クッキーを早速かじりながらアリアが言う。



「じゃぁ無事にリユーもベルと花祭りに行くのよね?」


「うん。二人で行けるよ」


私は話していたために、全然進んでいなかった昼食を食べ勧めながら返事をする。


「本当に良かった」


優しく微笑んでくれるアリアに私も微笑みを返した。







花祭り当日。


私の髪色は金色に近い茶髪なので特に染めたりしない。

いつも学園では前髪で隠している目を今日は前髪を横に流し、髪は結わずにそのままおろして赤い帽子をかぶっていた。


赤いスカートに白いブラウス。

茶色の編み上げブーツを着て準備を完了させた。


鏡で自分の姿をもう一度確認したとき、ちょうど部屋をノックする音が聞こえる。

返事をするとベルが入ってきた。


私を一目見て嬉しそうに目じりを下げる。

私もベルの姿を見て嬉しくなる。

ベルは赤い髪はさすがに目立つので濃い茶色に染めていた。


いつもの服装に見えるが、シャツの襟もとにさりげなく金の刺繍が施されていた。


「リユーかわいいよ。

今日はこれを決して外さないで?」


そう言いながらベルが差し出したのは、真っ赤なアスターの花とアイビーが金色のリボンで飾られていた。

私はそれを見て思わず息を飲む。



この国の令嬢は花言葉を令嬢教育で習う。

アスターの花言葉は『変化・多種多様』そして……『信じる恋』

アイビーの花言葉は『破綻のない結婚・永遠の愛』そして……『死んでも離れない』


私はベルに向き合いそっと頭を下げる。

ベルが私の頭に花輪を飾ったのが分かった。

顔を上げると嬉しそうに満面の笑みをこぼしながらベルが言う。


「俺はさ、花に詳しくないし。

もちろん花言葉もわからないんだ。

だから、キルダの姉さんに色々教えてもらいながら選んだんだ。

よかった……すごく似合っている……」


頬を染めながら、ベルには珍しく歯を見せて笑顔になる。

私は嬉しさのあまりベルに思いっきり抱き着いた。

それを優しく受け止めて抱きしめ返してくれるベル。


「……ずっとこうしてたいけど、今日は花祭りを楽しもう」


その言葉に私も満面の笑顔で

「うん!!」と返して二人で手を繋いで屋敷を出た。





今日は馬車ではなく、ベルの馬に私も乗せてもらい二人乗りで街に出る。

私は今日スカートなので横乗りになる。

ベルの腕が私のお腹に回り支えてくれる。

その腕に時々力が入るので、そのたびにベルに顔をむけるとベルは嬉しそうに私に微笑んでくれた。


噴水広場と呼ばれる南広場の入り口で馬を預け、二人で手を繋いでまずは東広場に向かって歩きはじめる。


「東広場に何があるの?」


「行ってからのお楽しみだ」


私の質問にベルはいたずらっぽく笑って答える。

広場に向かう途中、馬の上でベルは東広場にある露店でどうしても探したいものがあると言っていた。

私は見たいものなどは特になく、ただ、祭りの雰囲気を味わいたかったのでもちろん了承した。


2人で東広場を回りながら時々気になるお店に入ったり、食べ物の露店で買い食いしたりして回った。

しかしなかなかベルのお目当てのお店は見つからなかった。


「なかなか見つからないねぇ」


「10年以上前の話だったからもうないのかも……」


しょんぼりするベルが少しかわいそうになる。

どうしようかなと考えていると私の目に気になるお店が目に入る。

落ち込むベルに悪い気もしながら、ベルの服の裾をクイクイと引っ張る。


「ん? リユーどうした?」


「ねぇあのお店見ていい?」


目の良い私は5メートルほど先にあるお店を指さしてベルに聞く。

私の指の先を確認したベルの表情がパァっと明るくなる。


「リユー! 俺が探していたの多分あの店だ!!」


嬉しそうに私の手をぐいぐいと引っ張りながら目当てのお店に向かうベルについて行った。


ベルお目当てのお店はガラス玉のアクセサリーを売る露店のようだった。

ベルは次々と露店のおじさんに希望を伝えて商品を見せてもらっていた。


どうやらベルはブレスレットが欲しかったようだ。

ガラス玉と飾り紐を自分の好みにアレンジできるお店で、私はおじさんの手元を見てどこか既視感を覚える。


「あれ? これって……」



「あっ気づいたか? 父上と母上がつけてるブレスレットだよ。

昔アイラおば様がプレゼントしてくれたものが、10年前に一度壊れたらしいんだ。

それで父上と母上が花祭りの時にまたこのお店で買ったんだ。

俺もその時、連れて来られていたから覚えてて……。

今回どうしてもリユーに買いたかったんだ」



はにかみながらそう言うベルの顔を見て思わず顔が熱くなる。

おじさんも嬉しそうに商品を渡してくれた。


「そんな親子二代で大事にしてもらえるなんておじちゃん嬉しいねぇ」


ベルがお金を払う。

私の手に付けてくれたのは緑のガラス玉に赤い飾り紐のブレスレットだった。

私はすごくうれしくなっておじさんに声をかける。


「ねぇおじさん。金色のガラス玉に金色の飾り紐はある?」


「もちろんあるよ。お嬢ちゃんの髪に近い色の紐でつくろうかね」


私もおじさんからブレスレットを受け取り、お金を払う。


「お父様とお母様を真似るならベルもつけなくっちゃね」


そう言ってベルの手に金色のガラス玉に私の髪によく似た、少しくすんだ金色の飾り紐のブレスレットをつける。

ベルは嬉しそうにそのブレスレットを眺め私の手を取り、ブレスレットにチュッと軽くキスをする。


「リユー嬉しい。ありがとう」


「私もありがとう。ベル」


私もお返しにベルの手首のブレスレットに軽くキスをする。


「いい宣伝を店の前でありがとうね。お二人さん。

でもお二人さんのおかげでたくさん客が来そうだからそろそろいいかな?」


おじさんが笑いながら私たちに告げるので、思わず二人で顔を見合わせて真っ赤になる。


「おじさんありがとう」「ありがとう」


2人でおじさんに挨拶をしてそそくさとお店から立ち去った。

後ろを少し振り返ると何人かの若者たちがお店に集まっていた。

嬉しい反面、恥ずかしく思いながらベルと顔を見合わせてクスリと笑い合った。



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