31 ベルとの仲直り
次の日。
ベルは夕食を公爵邸のカラスの食堂で食べて帰ってくることをアリアから教えられた。
アリアはクリストファーさんから伝言を受け取ったらしい。
昨日ほど取り乱すことも無く、心も落ち着いた状態でいつもどおりの……しかしベルのいない夕食を食べた。
お母様は今日ベルが返ってくることを知っているのか、夕食後、私を軽く抱きしめてくれる。
「大丈夫よ」
お母様のその一言で私は落ち着いてベルに向き合えそうな気になっていた。
ベルが帰ってくるまで落ち着いて過ごそうと思い、入浴をすまし部屋でお茶を飲みながら本を開く。
しかし、ベルの事を考えてしまい文字は目を滑って行ってしまう。
これではだめだと思い、窓の方に向かう。
窓の近くに椅子を移動させ、そこに座り窓枠に腕を置いて頭をのせる。
どうやってベルに話そう……。
そんなことを考えているとあっという間にが時間は過ぎ去っていく。
しばらくそのまま外を眺めているとバサバサと音が鳴った。
ベルの鴉が戻ってきた。
ということは……。
私は急いで寝間着の上にガウンを羽織り、廊下を走った。
ベルの部屋の扉の前で大きく深呼吸をして息を整えた。
ドキドキという心臓の音が廊下に響いているのではと錯覚に陥る。
しかしいつまでも扉の前に突っ立っているわけにもいかず、私は意を決して行動に出た。
コンコンとノックをするとベルの「入って」という声が聞こえてまた胸が大きく跳ねる。
ベルの声は落ち着いているように聞こえる。
グッと手を一度しっかりと握りしめ、扉のノブに手をかけてそっと開ける。
私の目に最初に入ってきたのは月明かりにキラキラ赤く光るベルの髪だった。
ソファに座ったままのベルに思わず息を飲みながら近寄る。
いつもならベルが腕を引いて隣に座らせてくれるけれど、今日は腕が伸ばされない。
自分が引き起こしたことだけれど自分勝手に傷ついてしまう。
余りにも身勝手なそんな自分の感情に思わず嫌気がさす。
どこに座ればいいか分からずベルの座っている傍に立つ。
「座ってよ」
ベルの言葉にふるふると頭を振る。
ベルの顔が怖くて見れない。
そして先ほどまで落ち着いていたはずの気持ちは、ベルをいざ見ると吹き飛び混乱し始める。
私が何も言わないのを静かに待ってくれるベルに更に焦りが生じる。
私は手をギュっと握りこんで何か言わなければと焦ってしまった。
「…………ベルは胸が大きい人がすきなの……?」
「……………へ?」
ベルの気の抜けた返答に私は我に返っておかしな事を口走ったことで更に焦る。
それがよくなかった……。
しかしもう私の口は止まってくれない。
「ベルは胸が大きい人が好きなの!?
だって私大きくないし、女性らしい体じゃないもん!!
訓練のせいで筋肉ついちゃっているし、手足だってひょろひょろ長いだけだもん!!」
私の意味の分からない言動に、ベルは驚きながらも真面目に返す。
「リユー。とりあえず落ち着け。
俺は……むっ胸とかそんなことで人を好きになったりしない!!!」
ベルの勢いに今度は私が少し冷静になる。
「じゃぁ……なんで一昨日ベルはデートしてたのよ……」
普通に声をだしたつもりだったけれど、思ったより小さくなってしまった。
けれどちゃんとベルの耳には届いていたのかベルは呆気にとられたように呟く。
「……デート?」
「デートしてた!!
私、アリアと見たもん。
赤いワンピース着たきれいな女の人と楽しそうに花屋さんで花を見てたもん!!」
私の半分叫びともとれるような言葉にベルは驚きながらも納得したような顔をする。
そしていつも通り私に手を差し伸べる。
「あー分かった。一旦座ろう。リユー」
そう言っていつものように私をベルの隣に座らせる。
そんなベルの行動にまた自分勝手に少し安堵してしまう。
しかしそんな安堵の気持ちとは反対に私はこれから何を言われるのか恐ろしくなり俯いて体をこわばらせてしまう。
そんな私に優しくベルが話し始める。
「リユー。俺の話を聞いてくれるか?」
その言葉に私は俯いたままコクリとただ頷く。
「一昨日、花屋でリユーたちが見た人は俺の友人の姉だ。
リユーも知っているだろう?
トラン男爵。あそこの令息のキルダと俺は友人だ。
キルダの姉が嫁いだ先が商家でそこの花屋を紹介してもらったんだ」
ベルの話に私は自分の大きな勘違いにものすごく恥ずかしくなった。
顔が真っ赤になるのが自分でわかる。
自分の頬を両手で押さえ、恐る恐る顔を上げてベル見る。
ベルは少し嬉しそうに私の手の上から自分の手を重ね言葉を続ける。
「花屋で俺が何していたかというと、花祭りでリユーに渡すための花輪を予約していたんだ。
俺が楽しそうに見えたなら、それはリユーの事を考えていたからだ」
「……ごめんなさい……」
私はなんてことをしてしまったんだろう。
勘違いで……独りで怒ってベルを傷つけた……。
私は思わず謝罪の言葉を口にする。
「私の勘違いで……。ベルに嫌な思いさせちゃった……」
俯きそうになるのをベルの手が許してくれない。
視線だけなんとか下げる。
するとベルが優しい声で私に声をかける。
「リユーこっちを向いて?」
その声にベルの方におずおずとベルの綺麗な緑の目と合わせる。
「確かに……一昨日は驚いたしショックだった。
でも……リユーから話を聞いて分かったんだ。
リユーはやきもちを焼いてくれたんだろ?」
ベルの言葉にハッとする。
そして少し考えて声に出した。
「……うん……」
やきもちと言われて私の胸にストンと何かが落ちた。
あれはやきもちだった。
ベルの隣で赤い服を着られるのは私だけ。
ベルが優しく微笑んでくれるのは私だけ。
そう思っていた事にやっと気づいた。
それだけでベルは嬉しそうに私の顔を自分の肩に寄りかかるように促してそのまま言う。
「俺はものすごくうれしい。
なぁリユー。改めて言うな。
俺と花祭り行ってくれるか?」
私はそれを聞き、体の力を抜いてベルの肩に寄りかかる。
そして小さく「うん。もちろん」とつぶやいた。




