28 アリアとお買い物
クォーツに戻り、久しぶりの家族団らんの時を過ごし、学園にも戻った。
学園はシーラス様とアル兄様のおかげで、私たちが帰国する頃には変わらない雰囲気に戻っていた。
そんなある日、花祭りまであと一週間となった学園の休日の日。
私はアリアに誘われて街に出かけていた。
2人で買い物を終え、カフェで一息ついているときアリアが真剣な面持ちで私に相談を持ち掛けた。
「リユー。私決めたわ!!」
両手でこぶしを握り意気込んだように言うアリアに私は疑問を返す。
私はアリアの勢いと言葉の意味が分からずアリアの顔を見ながら首を傾げて問いかける。
「ん? 何を?」
「私、今回の花祭りでミハエルに婚約を申し出るわ!!」
私は飲んでいたお茶を危うく吹き出しそうになりながらも寸でのところで耐えた。
思わず変な声が出る。
「ふへ!?」
「だから、私から婚約を申し出るわ。
私、クォーツに戻ってからミレッタおば様に相談したのよね。
そしたらアーロンおじ様も、私のお父様とお母様が無事に結婚するまではっきりした事をミレッタおば様に言わなかったそうなのよ。
あのアーロンおじ様がよ!?
あんなにミレッタおば様にべったりなのに!!」
アリアの言葉に私までびっくりする。
確かにお父様はやたらとお母様にくっつくのが好きだ。
どんな時でも二人でいるときはお母様の腰から手を放さない。
わずか6歳の私の人生初の告白にさえ
『俺には愛する大事なミレッタって言うかわいい奥さんが居るんだ』
と言い切った。
そのお父様が、ジョエルおじ様とアイラおば様が結婚するまで核心的なことを言わずにいたとは……。
俄かに信じがたいが……ミハエルお兄様を見ていれば……。
「ってことはね……。
ミハエルはお兄様が結婚するまではっきりしてくれない気がするのよ……。
お兄様はお父様とお母様みたいに拗れたりしていないけれど……。
婚約者のイリーナさまはシーラス様の婚約者の王女のカラスとしてヘルダにいるでしょ?
このままだと……私は……」
お父様とお母様の話はさておき。
ミハエルお兄様がアリアにはっきりした事を言わない可能性に関しては否定できない。
アリアをものすごく大事にしているのは見ていればわかるが……。
公爵令嬢と子爵令息ということで遠慮している気持ちもわかる。
いくら子供の頃から仲が良くて、両親が公爵夫妻のそれぞれ右腕だと言っても、世間からすれば公爵令嬢が子爵令息に嫁入りすることは異常なことに見えるだろう。
ミハエルお兄様はなまじ頭が良い分、私が思いつかないことまで考えていそうだ。
「なるほどね……。
確かにアリアがそこまですれば、お兄様もはっきりするしかなくなるわね」
「花祭りに誘ってくれたし、グロリアで
『いつか必ずアリアを堂々とエスコートできるようにするから』って言ってたのよ」
「お兄様がそんなことを!?」
身内のキザな発言に思わず私まで恥ずかしくなってしまう。
私とは違う意味で頬を真っ赤に染めながらアリアが話を続ける。
「私はいつかなんて……。
そんな不確定な未来を信じて待つなんてできないわ」
アリアのそんな姿が私にはものすごく眩しく映った。
お茶を飲んで喉を潤したあとアリアが再び口を開く。
「で? リユーはベルのことどう思っているの?」
私は言われた意味がよくわからなくてコテンと首を傾げる
そんな私を見て呆然としケーキを食べていたフォークを思わず取り落としたアリア。
「……え?
っえ? 二人は恋人同士じゃないの?」
アリアの言葉に私も驚きのあまりフォークを取り落とす。
しばらく二人で呆然と見つめ合っていると、店員さんが私たちに申し訳なさそうに新しいフォークを差し出してくれる。
それに気づき、私たちは恥ずかしくなりフォークをおとなしく受け取る。
「恋人ってお互い『好きです』って言ってなるよね?」
私の質問にアリアも悩まし気に眉間に皺を寄せて考える。
「まぁそうよね? 世間的には……」
「それなら私、ベルに言われたことない」
「へ?」
アリアがまた目を瞬かせながら私を見る。
「だから! ベルに好きって言われたこともないし、私も好きって言ったことないの!
それに知ってるでしょ?
私の初恋はお父様なのよ?
あれから誰かを好きになったことなんてないわ」
「え? ちょっと待って。アーロンおじ様の話はさておき。
リユーはベルが好きじゃないの?」
アリアの言葉に私は誰にも言ったことが無い自分の気持ちをアリアに打ち明けた。
「私さ孤児だったでしょ?
その時に教えてもらったのは『ふとその人の事を思い出したり、その人の事を考えるとドキドキしたりする』のが好きだって。
その相手が当時、お父様だったの。
だから恋愛とかの好きってお父様を好きって気持ちと同じだと思っていたのよ。
それでカラスの訓練に夢中になっているうちに、アル兄様やミハエルお兄様、ベル以外の男の人と接することも無かったのよ。
だからベルへの気持ちは兄弟に対する好きだと思っていたの……。
ベルにはドキドキすると言うより安心する気持ちの方が多いんだもの」
アリアは顎に手を置いて考えている。
思わず頬が熱くなってくる。
私はそんなアリアを見ながら言葉を続ける。
「ドキドキすることは無いけれど……。
ベルは私に誰よりも安心感を与えてくれるの。
それがもしかしたら私にとってベルは特別なんじゃないかなって……。
このベルへの気持ちが、アリアがミハエルお兄様を好きって気持ちかはわからないけれど……」
私のこの言葉を聞いて満足そうに微笑むアリア。
「そっか。グロリアで色々リユーなりに考えたんだね」
「うん。マリアお姉さまとも話して、普段よりベルと一緒に居られるようになって、いろいろ考えたの」
その後も二人でゆっくりと美味しいケーキとお茶をゆっくり楽しんだ。
その後、二人で街をゆっくりと散歩ついでに歩くことになった。
東街の大通りを歩いていると、あるお店の前に見覚えのある真っ赤な頭が目に入った。
「あっねぇねぇ。ベルが居る!」
私がアリアに話しかけてベルに目を戻した瞬間、私の周りの音が消えたように感じた。
ベルがお店の前に立っているのは間違いなかった。
私があの夕日のような真っ赤な髪を見間違うわけがない。
けれどその隣には年上に見える素敵な女の人が立っていた。
思わず自分の体を確認してしまうほどにその女の人はスタイルがよく、私と違う豊かな金髪のウェーブヘアだった。
そしてなにより私がショックを受けたのはその女の人が真っ赤なワンピースを着ていた。
真っ赤な服をベルの隣で着られるのは私だけだと勝手に勘違いしていた。
ただ茫然とその二人を見ていると、ベルが女性の方を見て頬を染めて微笑んでいるのが見えてしまった。
「え? 何あれ……」
アリアのつぶやきに私は我に戻る。
「リユー顔色が真っ青だわ。とりあえず帰りましょう」
何も言わない私の腕をつかんで馬車乗り場までアリアは何も言わずに連れて行ってくれた。
馬車に乗り込んでしばらくの間はふたりとも無言だったけれど、アリアがゆっくりと口を開く。
「リユー。あんまり悪い方ばかりに考えないで?
ベルも何か理由があったのよ。
あの女の人との関係だってわからないんだし……。
私がベルと話してもいいんだよ?」
わたしの手をそっと握って言ってくれるアリアに私は上手に言葉が出てこなかった。
「ベルに……聞いてみる……」
帰宅するまでずっと手を握ってくれていたアリアに感謝して私は自室に戻った。




