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2 失恋と……



無断外出がばれてから、私には職員さんがつきっきり状態になった。

反省のため、5日間は遊び時間なしでお手伝いと勉強時間にされるらしい。



しかし3日も過ぎると、遊びたくてうずうずしてくる。

また抜け出そうかと考えているとき、院長さんに呼ばれて院長室に行った。




部屋に入ると思わず目が零れ落ちそうになるくらい見開いた。

なぜならアーロンがソファに座っていたからだ。


「よう」

と手を上げ気軽に、私に挨拶するアーロン。



それになんとか「こんにちは」と挨拶する。



アーロンが私に近寄って、また前のように私を抱き上げて今度は膝に乗せる。


「おぉ。こうやってみると別嬪じゃねぇか。ほらっ」

クッキーを私に差し出しながらアーロンが言う。


私はクッキーを大人しく受け取って、おずおずと口にしながら院長先生を見る。

院長先生はニコニコとしているだけだ。



「今日はリユーに話が合ってきたんだ。

お前、俺の娘にならないか?」



カチンと自分の体が固まる音が聞こえた。



「……やだ……」



なんとか私は声を小さく絞り出した。

けれどアーロンは私の声を聞き取ったようで、しょんぼりしながら私を覗き込む。



「なんで嫌なのか……教えてくれるか?」


大好きな夕日のような赤が少し陰ったような気がした。

私はそんなアーロンの雰囲気に焦って口を開く。




「だって!!

私アーロンが好きなんだもん!

娘になったら結婚できないってリリが言ってた!」



結局、昨日の夜、リリに全部しゃべらされた。

その時に相手が大人で、公爵家関係の人だということも話してしまった。


私の話を聞いてリリが真剣な顔をして言った。

『絶対にその人の養子になったらだめよ』と。



アーロンは、ぱちくりと緑の宝石みたいな目を動かした。

私を膝から降ろして隣に座らせる。

私は嫌われたと思って泣きそうになる。



「すまない。リユー。

俺には愛する大事な、ミレッタって言うかわいい奥さんが居るんだ。

だからお前とは結婚できねぇ。

でも、お前ともっと一緒に居たいから俺の娘になってくれないか?

ミレッタにそっくりの一つ上のミハエルと、お前と同い年の俺とそっくりのエイベルという息子が居る。

そいつらと兄弟になって、俺とミレッタの可愛い娘になってくれないか?」



眉を下げて、しゅんとするアーロンを見た。


そして『兄弟』『家族』という、私の憧れの言葉を言われてしまう。

私にはもう家族と言える人がいない。

そもそも私を育ててくれたばぁちゃんしか『家族』を知らない。



私は密かにずっと憧れていた。

下町で『家族』で手を繋いで歩く人たち。

貧民街で『兄弟』で寄り添って生きていた子たち……。



そんなことを考えていると私は無意識にアーロンに返事をしていた。


「分かった。アーロンの家族になる……」



そう言って抱き着いた。



アーロンは嬉しそうに私を抱きしめて立ち上がる。


「俺の可愛い姫」

と言いながらくるくると私を抱き上げたまま回った。



こうして初恋を自覚した数日後には失恋し、初恋相手の娘になることになった。




その日のうちにお別れ会を孤児院で開いてもらった。

リリは泣きながらでも嬉しそうに私に抱きついて「さよなら」を言ってくれた。

私も少し泣いた。





次の日、私はアーロンにプレゼントされた、真っ赤なワンピースに着替えてアーロンの家に連れていかれた。


アーロンの家は公爵家の別邸の一つでサウス邸という家らしい。

今までは何人か子供が住んでいたらしいが、今はアーロンの家族だけらしい。


初めて乗る幌馬車以外のちゃんと座席のある馬車にどぎまぎする。

するとそんな私を見かねたのか、アーロンが膝の上にのせてくれた。


初めて見る馬車から見る外の景色に終始テンション高くなる。


「あれは何? これはなに?」

と色々なものを指さしては、アーロンを困らせていた。


貧民街育ちの私にはものすごく大きなお屋敷と思い、思わず開いた口がふさがらなかった。

けれどアーロン曰く、別邸の中でも一番小さい建物らしい。

公爵家……恐るべし……。



「数日以内にリユーも公爵本邸に連れて行ってやるよ。

でもサウス邸より、でかいからな。

はしゃぎすぎて迷子になるなよ」



私の頭を撫でながら優しく言うアーロンに父ちゃんってこんな感じなのかな……と思っていた。

サウス邸に到着してドキドキしながら、アーロンに手を繋いでもらったまま中に入った。



1つの扉の前に到着すると

「いいか? ここでリユーの家族が待っているからな」

とアーロンが言う。



緊張しながらコクンと頷く私を安心させるように抱き上げられる。

少し安心しながら、アーロンの手で扉が開けられる。

アーロンの首に引っ付いて目をギュっと閉じて待った。



「まぁ!! かわいい!!

私の可愛いお姫様。

お目目を見せてくれないかしら?」



花の良い香りがした。

綺麗な声に思わず目を開ける。

すると女神様みたいなキラキラした髪の色のきれいな女の人が映った。



「……女神さま?」



思わず呟く私に嬉しそうな笑顔を女神さまが見せてくれる。


「ごめんなさい。

女神さまじゃなくて、あなたの母のミレッタよ。

お母様と呼んでくれると嬉しいわ」



女神さまはミレッタというらしい。

この間、アーロンから聞いたアーロンの奥さんだ。

ミレッタがお母様ということは……。



私は私を抱き上げたままのアーロンを見上げて

「……お父様?」

と呟いた。



アーロンは嬉しそうに私の頬に自分の頬を擦り付ける。



「あぁそうだ!

俺がリユーのお父様だ。

これからはそう呼んでくれるか?」



宝石みたいな緑の目をとろけるように、細めながら、そして嬉しそうに言うアーロンに嬉しくなる。



「お母様!お父様!」

というと、お父様に抱かれる私にお母様も抱き着いてくれる。

その温もりは今まで感じたこともない、心の奥底まで温めてくれる温もりだった。


「かわいいわぁ!!

嬉しいわぁ!!

私たちの可愛いリユーちゃん」



お母様が私の頬に優しくキスをしながら言ってくれる。

お母様の顔を覗き込めば「ふふふ」と笑いながら私の頭を撫でて時々、優しくキスをしてくれる。


お父様の大きな手もそこに加わる。

お父様とお母様が私をもみくちゃにして満足すると、そっと私を降ろす。



「リユー。私が君の1番目のお兄様。ミハエルだよ」



「同い年だけど俺の方が、誕生日が先なんだ。

俺はエイベル。

お前は俺が守ってやるからな!」



頭の良さそうな、優しそうなお兄様。

そしてちょっと怖いけど、下町の子供みたいなエイベル。


私は昨日、孤児院で教わった挨拶をする。

スカートの裾をつかんで少しかがむ。



「リユーです。今日から家族になります。よろしくお願いします」



お父様とお母様とお兄様は

「上手だな」と頭を撫でてくれながら褒めてくれた。


しかし、その輪に入らないエイベルが一人でポツンと立ちすくんでいた。

エイベルは顔を真っ赤にして固まっていた。

私はその姿に少し不安を覚えた。


エイベルの近くに寄り

「エイベル?」と顔を覗き込めばハッとして私の手をギュっと握った。



「リユー!

俺をベルと呼んでくれ。

俺は父上と同じで、剣が得意なんだ!

お前を守ってやるからな!」



そうベルに言われて私は嬉しくなる。

その気持ちのまま、思わずベルに抱き着いた。


「ベルよろしくね!」





私を優しく迎え入れてくれた新しい家族。

全員が私を優しい微笑みと優しい眼差しで見てくれている。

今までぽっかりと開いていた喪失感はいつの間にか温かいもので溢れていた。



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