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19 秘密のオークションの後



オークションから帰宅後。

心はくたくたなのだが、どうしてもこのまま寝れない……。

もやもやした気持ちを抱えながら寝ても、良い睡眠がとれないので諦めて楽な服に着替え外に出る。


疲れてはいるが体力はまだあるので庭を走ろうと思った。

外に出ると、もう月が上がり空気も澄んで少し冷たく感じる。

軽くストレッチをして屋敷の庭を軽く走り始める。




オークションにはドレスで着飾り、かかとの低い靴を履いてメイクをばっちりして向かった。

馬車でエディハルトが迎えに来て、オークション会場に向かった。


特にいい情報は仕入れられることも無かった。

興味のない宝石のうんちくを自慢げに語るエディハルトに「すごいですわー」と反応するだけ。


腰に回されたエディハルトの手を振り払いたくなるのを、必死で我慢し令嬢リユーを演じていた。

会場でアリアとお兄様と一度だけすれ違ったが、エディハルトは全く二人に気づくことも無かった。





走って少しすっきりしてきたので一旦休もうと足をゆっくりと止める。

その先にタオルと水を持ったベルが立っていた。

思わずベルのもとに走って行ってベルに抱き着く。


「どうした? 嫌なことが会ったのか?」


私を体に巻き付けたまま、器用に私の汗をぬぐってくれるベルに安堵のため息が漏れる。


「嫌なこと……。

というか、エディハルトに触られるのが気持ち悪いの……」


顔を上げた私の顔についている汗を優しくタオルで拭ってくれるベル。


「ベルには触られるのは嬉しいと感じるし、触れたいと思うのに不思議ね」


抱き着いたまま言う私の顔に当てたタオルがピタリと止まる。

少ししてベルが上を向き大きなため息をつく。

私はハッと気づき「ごめんなさい」と言って離れる。


私の急な行動にベルはおどろいて

「どうした?」と言って近づいてくる。


私は両手を前に突き出し、ベルが近づかないようにしながら言う。


「……もしかして……。

ベルは私がエディハルトに触られて不快なように……」


小さな声でつぶやくように言う私の声をきちんと聞き取ってくれる。


そして私の伸ばした腕を思いっきりベルに引っ張られてしまう。

そのまま力いっぱい抱きしめられながら耳元でベルがささやく。


「俺もリユーに触れられると嬉しいし、触れたいと思う……」


ベルの言葉にほっとして力を抜く。

しばらくベルに甘えてそのままの状態で過ごせば、もやもやしていた気持ちがきれいさっぱり消え去った。


「ベルありがとう。落ち着いた」


「ん……」と名残惜しそうに私の体から離れるベル。

それは私の願望からそう見えたのかも知れないけれど。

ベルの体温から離れたからか、夜の空気にさらされて汗をかいた体を思わずぶるりと震える。


「さぁ、そのままだと風邪ひくぞ。

明日は学園も休みだし、打ち合わせもあるぞ。

早く部屋に戻って熱いシャワー浴びて寝ろ」


優しく頭をなでてくれる手に嬉しく思いながら笑顔で頷いた。






次の日、しっかりと睡眠がとれた私は朝食の席に向かう。

お互い挨拶をしてそれぞれゆっくりと朝食を食べ始める。

今日は学園が休みの日だからゆっくりとできる。


「今日は休みだから、今までの事も含めて昨日のことを中心に少しゆっくりと打合せするか」


ミハエルお兄様が言うのを頷きながら聞く。


「それじゃあ、お菓子や昼食をバスケットに詰めてもらって、庭園でゆっくりピクニックしながら過ごしましょう」


「それ嬉しい」


アリアの提案に喜んで賛同する。

後で、二人で厨房にお願いしに行くことにした。

紅茶もお菓子もたくさんの種類を準備しようと二人で話しながら朝食をとった。





今日はピクニックにぴったりの天気で、使用人たちがパラソルとシートを庭園に準備してくれた。

シートの上にはお茶の準備やお菓子の入ったバスケットや、昼食の入ったバスケットが置かれている。


メイドの気遣いで、毛布やたくさんのクッションも置いてあった。


時間になり全員が集まったところで、私がお茶を淹れる。

皆好きな場所に好きなように座ってくつろいでいる。

お茶を配り終え、ミハエルお兄様が口を開く。



「昨日の事は後でゆっくり話すとして、グロリアの学園の事を少ししっかりと確認したい」


「私たちは、公爵家で教育を受けているからクォーツでも勉強に困ることは無かったけれど……」


「そうだな。かなりグロリアの学園はクォーツより進度が遅い」



アリアとベルの意見に同士する。


「一学年上の授業もそうだな。

やっている内容はクォーツの1年でやる内容だ」


「貴族の作法やマナーも荒い気がする……」


私の意見にアリアが同意してくれる。


「エディハルトとシーラス様は比べるまでもないけれど……。

爵位を振りかざす生徒がかなり多い印象ね」


「シーラス様が生徒会長でそういうことを嫌悪しているのもあるからな。

クォーツでは実力が伴ってこその爵位という認識だからな。

しかし、グロリアの学園の学生の学力低下もマナーが悪いのもやはりここ数年のようだ」



茶色のカラスの調査とお兄様が先生方から仕入れた情報らしい。

確かに目に見えて、グロリアとクォーツで差がある。



「やはり、グロリア国王と王太子に問題があるようだな。

おそらく、クォーツ側の想像以上にグロリアは荒れてきているのかもしれない。

グロリアが荒れればクォーツにも影響が出るだろうからな。

サイラス国王もジョエルおじ様も気にしているんだろう。

この件はジョエルおじ様に伝令カラスを飛ばそうと思う」



ミハエルお兄様の言葉にベルが頷いた。




「さっ。学園のこととグロリアの事はこのくらいで昨日の話を始めようか」


しっかりと頷いて、私から話し出す。


「エディハルトはかなりの常連のようで、複数の客とも話していました。

しかし、後ろ暗いような会話はありませんでした。

特筆するような情報は手に入れられなかったの……」


しょんぼりとするわたしの背中にベルの大きな手が添えられる。

温かくて気持ちいい。安心する……。


「大丈夫よ。

リユーが今回紹介状を手に入れてくれたから、私たちが特大の情報を仕入れてきたわ」


「そうだぞ。特大だ」


アリアとお兄様が満面の笑みで報告を始める。


「昨日、うまく事が運んでな。

やはりあのオークションには裏の顔があることが分かった」


「これよ。裏オークションの招待状」


アリアが黒の封筒を取り出す。

内容をベルと顔を寄せて一緒に見る。


「場所と時間と番号しかないね」


私の言葉にアリアが残念そうに言う。


「今回は複製が難しいわ。

この封筒は昨日のオークションの責任者から直接手渡されるらしいの。

番号と渡された人間は会場が把握しているみたい。

参加者は仮面で素顔を隠すのだけれど、潜り込むのは難しいわね」


私は手を顎に添えて考える。

しかし良い案は思いつかない……。


「そこで昨日の夜に潜入した他のカラスからの報告がある。

裏オークションの出品一覧だ」


差し出された紙を確認して思わず息を飲む。


「薬物の違法取引!?」


「人身売買だと!?」


アリアとベルが驚きの声を上げる。

私お兄様が渡してくれた報告書を確認しながら思案する。


「お兄様。

最近の下町や貧民街で起こっている事件をまとめた報告書を見せてくれませんか?」


お兄様は苦笑する。

既に準備していたのだろう。

事件をまとめた報告書を見せてくれた。

その報告書と、裏オークションの出品リストを見比べながら納得する。


「分かりました。囮潜入ですね」


「……そうだ……」


お兄様が苦虫を嚙み潰したような顔をする。

私はそれに苦笑しつつ「やりますよ」と言った。

アリアとベルが強い口調でお兄様に詰め寄る。


「どういうことよ!?

リユーが危険な任務をするの!?」


「ダメだ! 兄上!」


2人の反対にお兄様も眉間に皺を寄せ、難しい顔をして黙っている。

私はそんな3人にむかって安心させるように微笑みながら話す。



「二人の気持ちはありがたく受け取るわ。

でもこの囮潜入しない限り詳細はつかめないよね?

それは二人もわかっているはずだよ?

絶対大丈夫だよ。

ベルの鴉も。

それについて来てくれている漆黒のカラスもいるでしょ?

何より私は戦闘狂カラス姫の愛弟子。

アイラおば様の名を継ぐのよ?」



最後は冗談めかして言うと、ミハエルお兄様が困ったような笑顔を見せてくれる。



「リユーすまんとは言わない。

お前を信じて任せる。

ありがたいことに裏オークションは数週間後だ。

念のために鴉を昨日の時点で飛ばして、ジョエルおじ様とアイラおば様には報告している。

何かあっても公爵家を上げて必ず守ると返事をもらっている」



ベルは下を向いて唇をかみしめたまま。

アリアは涙を浮かべたまま私を見る。



「二人がそんな顔しているまま任務に行くのは嫌だよ。

私はお兄様もアリアもベルも信じているからこの任務受けるんだからね。

みんなも私を信じて」



私の言葉を聞いて3人が一斉に私を抱きしめる。

さすがに急に3人に抱き着かれ支えきれなくなり、倒れこむ。


シートの上でじゃれるように倒れこんだことにおかしくなって声を出して笑う。

するとみんなもつられて笑い始めた。


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