411話:力ずく
その日の夜、ホテルにチェックインした俺たちが襲われることはなく。次の日は、みんなと子供たちと一緒に、海の方のテーマパークを堪能した。
二つのテーマパークで土産もたくさん買った。雰囲気に踊らされて散財している気もするけど、金は余っているし、ここで土産を買うのは、お約束だろう。
「すっごく、楽しかったね!」
「うん、また来たいよ!」
二日間遊びまくった子供たちは、すっかりご機嫌だ。一泊二日の家族旅行が終わって、『異世界転移門』で俺たちの世界に戻ろうとしたとき、公安覚醒者対策課の課長、紫藤武明から『伝言』が来た。
『アリウス、米国が本腰を入れて動き出した。詳しい話をしたいから、時間を取って貰えないか?』
『解った。こっちは合わせるから、時間と場所を指定してくれ』
「ねえ、アリウス。何かあったの?」
ミリアが小声で囁く。みんなが俺を見ている。やっぱり、みんなに隠し事はできないな。
「ちょっと用事ができたんだよ。悪いけど、みんなと子供たちを『自由の国』に送った後、俺はもう一度こっちに来ることになる」
「また、こっちの世界の奴らが仕掛けて来たってこと?」
「そういうことみたいだな。だけど問題ないよ。向こうが仕掛けて来るなら、面倒だけど相手をするだけだ」
「そうね。アリウスなら心配ないのは解ってるけど、それでも私たちが心配していることは忘れないで」
エリスが優しい笑みを浮かべる。本当は心配している筈なのに、それを表情には見せない。
「解っているよ。絶対に無茶なことはしない」
俺にとって無茶なことは絶対にしない。みんなも俺が考えていることは解っているだろう。
※ ※ ※ ※
みんなと子供たちを連れて『自由の国』の城塞に戻ると、俺は再び『異世界転移門』で前世の世界に来た。
武明が指定した場所は、渋谷にあるクラブ。大音量で鳴り響く音楽と、天井が高く薄暗いホールを埋め尽くす客たち。
前世の俺には全然縁のない場所で、武明にも全然似合わないと思ったけど、VIPルームにいた武明はいつもと違うラフな格好で、眼鏡も外してした。
「アリウス、こんな騒がしい所に呼び出して済まない。だが誰にも聞かれずに話をするには、最適の場所だろう」
注文した酒が届いて店員が出ていくと、武明が話を始める。
警視総監経由で公安覚醒者対策課に届いた情報は、覚醒者による犯罪を国際的に取り締まるために、米国が日本に対して正式に協力を申し出たこと。
国際的な犯罪に対して、各国の警察が協力することはあり得ないことじゃないが、今回は米国政府が日本政府に対して協力を申し出ている。つまり警察以外も動くってことだ。
「米国ならやりそうなことだが、協力という名目で、諜報機関や軍の人間を送り込んで来るだろう。このタイミングで通達して来たのは、明らかにアリウスたちがターゲットだ」
昨日、俺たちが襲われたことは『伝言』で伝えていた。奴らは普段から日本で活動しているみたいだけど、わざわざ通達して来たのは、もっと過激な行動に出るってことだな。
「それにしても、よく武明のところに情報が降りて来たな。警察組織内で、覚醒者対策課は疑われているだろう?」
「アリウスがターゲットなら、米国が送り込んで来るのは十中八九覚醒者だ。警察も米国の覚醒者が好き勝手に動くことを放置する訳にいかない。覚醒者対策課以外には、警察には覚醒者がほとんどいないから、使わざるを得ないってことだろう。
他にも私たちを敢えて泳がせることで、アリウスの居場所を探り出して、米国に伝えて点数稼ぎすることも考えられる」
俺が米国に拘束されるか始末されれば、俺という邪魔者がいなくなる訳だし、米国が送り込んだ奴らも引き上げることになる。警察が俺の居場所を掴んだら、確実に米国に知らせると考えた方が良いだろう。
「米国が送り込む覚醒者について何か情報を掴んだら連絡するが、アリウスも警戒しておいてくれ」
「何を悠長なことを言っているんだよ? これから奴らが動くようなことを言っているけど、それなりにレベルが高い奴で、日本に来たことがあるなら、『転移魔法』を使えば一瞬だからな。俺たちが襲われてから、もう一日以上経っているんだ。
米国はもう覚醒者を送り込んでいるだろう」
こっちの世界にも『転移魔法』が使える奴がいることは、海外の組織の連中と戦ったときに『鑑定』で確認済みだ。
「だとしても、アリウスたちが街中を出歩くまで、居場所を掴むことは不可能だろう。奴らがアリウスを探している間に、こっちも向こうの戦力と動きを探る」
「情報を教えてくれるのは有難いけど、武明たちがそこまでする必要はないよ。仕掛けて来るのが解っているなら、こっちから先に仕掛けるだけの話だ」
『認識阻害』と『透明化』を発動して、『短距離転移』で夜空に移動すると、高速移動しながら『索敵』で魔力を探る。
俺は一度『索敵』した魔力を憶えている。つまり米国が送り込んだ覚醒者は俺の知らない、それなりに魔力が大きい奴ってことだ。
これまでに俺が目撃されたのは首都圏だけ。向こうも当然首都圏を探すだろう。一時間ほど空中を飛び回って当たりをつける。
米軍基地内の邸宅に、五つの大きな魔力。そのうち一つが特に大きい。姿を隠したまま『短距離転移』で潜入して、そいつらを確認する。
男が四人に女が一人。五人は私服だけど、向かい側に座っているのは、将校らしい軍服姿の男だ。
「まだ『悪魔』の居場所は解らないのか? だからテーマパークにいるうちに仕掛けるって言っただろう」
「夢の国を血の海に沈めるつもりか? おまえたちの好きにさせたら、何人死人が出るか解らんだろう。さすがに揉み消すことはできん」
『悪魔』って俺のことか? そう言えば、昨日襲い掛かって来た奴らを『異世界転移門』で俺たちの世界に飛ばしたままだから、皆殺しにしたと思っているのか。
まだ俺を捕らえるつもりか、殺すつもりなのかは知らないけど、そのために人を殺しても構わないと思っているみたいだな。
『異世界転移門』を発動すると、奴らは一瞬で俺たちの世界に移動する。辺りは、見渡す限り何もない何もない荒野だ。
「おい、これはどういうことだ? 何が起きている?」
「幻術……精神支配系魔法を使われたってこと? 『解除』!」
「そんなことをしても無駄だ。これは幻術じゃなくて、実際に移動したんだからな」
俺が『認識阻害』と『透明化』を解除して姿を現すと、五人が一斉に武器を抜いて、警戒心全開で構える。
「『悪魔』……おい、ここはどこだ? 貴様は俺たちに何をした?」
頬に傷のある身長二m近い男が、巨大な斧を手に全身に魔力を漲らせる。他の四人は俺を警戒したまま、取り囲むように位置を変える。さすがに戦い慣れているな。
「やっぱり、『悪魔』って俺のことか。おまえたちは俺のことを探していたみたいだけど、何の用だよ?」
「俺の質問に答えるのが先だ。勘違いしてるようだが、喋らなければ殺すだけだ」
「別に好きにして構わないけど、それくらい教えてやる。信じる信じないは勝手だけど、ここはおまえたちとは別の世界で、俺が『異世界転移門』で連れて来た」
「別の世界だと……ふざけたことを! どうやら死にたいようだな!」
「止せ! おまえたちの任務は、情報を聞き出すことだろう!」
将校らしい奴が止めるけど、五人は無視して一斉に攻撃を仕掛ける。それぞれがスキルや魔法を発動して、俺に集中砲火を浴びせる。本気で殺すつもりで。
「ば、馬鹿な……」
奴らの攻撃は確かに命中した。俺が避けなかったからだ。だけど当たっただけで、俺は服すら無傷だ。
『鑑定』したから、こいつらのレベルとステータス、使える魔法とスキルは全部知っている。だから攻撃を受けてもノーダメージなことは解っていた。
全員五○○レベル超えで、頬に傷のある男は一〇〇〇レベルを余裕で超えている。だけど俺のレベルは、そろそろ七桁に届きそうだからな。




