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空使いとアルカンシェル  作者: 天瀬 智
第十章 闇の少年と虹の少女
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エピローグ 約束(7)

「……」

 カームも、そして観客たちさえも、黙り込む。

(あの子……まさか……)

 一瞬、嫌な予感が脳裏をよぎる。

(いえ……容姿が違う……間違いなく別人よ……でも……)

 あの子は逝った。

 ソラがその身を賭し、その魂を解放させた。

 そのときに見た少女の表情は、とても安らかだった。

 だから、もうあの子が敵意を持つことなどないはずだ。

 ましてや、闇のエレメントなど……。

「あなた、とても珍しいエレメントを使うのね」

 相手から情報を引き出せないか、カームは誘導してみた。

「そうなんですか? これだけは、体が覚えていると言うか、意識しなくても使えたんです」

「見たところ、四大のどのエレメントとも一致しないように見えるわね」

「あなたには分かりますか? 私のエレメントが、なんであるか?」

「私の技を、消したわね」

「消した……というよりは、いただきました」

「いただく?」

「はい。そして、こういうこともできます」

「……?」

 クゥが右手を掲げる――と、そこに現れたのだ。

「なっ!」

 火ノ鳥が――!

「お返しします」

 高揚のない、だが、あまりにも強烈な台詞に、カームは反射的に動いていた。

 少女が手を振るう。

 それに合わせ、火ノ鳥がカームへと飛んで来た。

「――ッ!」

 カームの足から黄のオーラが溢れ出す。

 同時、カームの前方に土の壁が飛び出す勢いで盛り上がると、紙一重で火ノ鳥を防いだのだった。

 ぶつかった拍子に火ノ鳥が形を失い、大量の火の粉を撒き散らして消える。

 カームは土の壁を戻したが、一部はあまりの高温で溶けてしまっていた。

 もし、コンマ一秒でも遅れていたら、直撃していた。

 ソラと、特にクリスに感謝だ。

 カームは内心で二人の顔を思い浮かべた。

 ソラによって基礎を叩きこまれ、クリスによって地使いとしての戦い方の応用を教わった。

 地使いはよく、地面を操るとき、しゃがみ込んで手のひらを地面に当てる。

 エレメンタラーがエレメントを操作するとき、体の部分で最も使用するのは手だ。

 手で動きを伝え、操作する。

 だから、エレメンタラーは手からエレメントを出しやすくなっていったのだ。

 地使いもまた、その長年の無意識の慣例によって、手から地のエレメントを大地に送り込む。

 だが、それでは無駄な動きが多くなり、咄嗟の判断による行動の際、出遅れることがあるのだ。

 そのためにカームがクリスから教わったのが、手ではなく足からエレメントを送り込み、大地を動かすというものだった。

 手から足へ。

 たったそれだけのことなのに、それが年単位での時間を要した。

 人の体で例えるのならば、手の指と同じくらいに足の指を器用に動かすことができるようになれと言われるようなものなのだ。

 当然、人の足は物を掴むような構造はしていない。

 だがクリスはそれをやれと言った。

 卒業後の課題にしてはあまりにも難題で、イリダータでの実技がまるで基礎中の基礎を学んでいるように感じてしまうほど。

 それでもカームは鍛錬を怠ることなく、手で大地に触れたときと同じ練度にまで引き上げることができたのだ。

 その成果を目の当たりにしたカームは、自分自身を褒めたい気持ちになった。

 じわり、と背中に嫌な汗が流れる。

「すごいです。今までの人たちはみんな、自分の技を返されて、それで呆気なく倒されていました」

「よっぽど驚いたんでしょうね。技を吸収されて返されるなんて、そんな経験、これまで誰ひとりとしてしたことがないはずだから」

「でも、あなたは返せました」

「私は、実戦経験が豊富なだけ。今のも、反射的に動けただけで、後になって思考が追いついたくらいよ」

「もしかしたら……」

 そのとき、少女の瞳に少しだけ光が宿った。

「あなたなのかもしれません」

「私が、何?」

「ずっと探していたんです」

「私を?」

「いえ、誰かは分かりません。でも、私を起こしてくれた人——その人の顔は見えませんでしたが、その人の体からは、赤と青、そして緑に黄、それらが混ざり合って、まるで虹のような、そんなオーラが出ていたんです」

 赤、青、緑、黄——四つのオーラを熾すことのできるエレメンタラーは、カーム自身しかいないはず。

 だが、もうひとりだけ。

 もし、【深淵しんえん】という心の呪縛から解放された少年ならば、火のエレメントなど容易に習得でき、カームと同じ【虹使い】となっているかもしれない。

「だから、アルカンシェル杯に……?」

「はい。これに出場すれば、虹のようなオーラを出せる人がいるかもしれないと思ったので」

 そう言って、クゥの瞳がカームを見据える。

「その人物はおそらく、私ではないわね」

 少女の夢の中でのことなので、確信はない。

 だけど、そんなことをする人物は自分というよりはむしろ、あの子の方が……。

「そう……ですか」

 少しだけ、クゥが肩を落としたように見えた。

「ねぇ、あなた」

 呼びかけに、クゥが顔を上げる。

「イリダータ・アカデミーに入学する気はない?」

「それは、なんなんですか?」

 クゥが首を傾げる。

「エレメントの学び舎よ。あなたのエレメントは特殊だわ。あなたがもし、そのエレメントを少しでも理解したい、使いこなせるようになりたい、他のエレメントも学んでみたい――そう思うのならば、イリダータの門をくぐるといいわ」

「そこに行けば、私が誰なのかも分かりますか? 夢の中の人のことも」

「保証はできない。でも――」

「でも?」

 少し不安げな表情を見せるクゥに、

「とても楽しいわよ」

 そう言って、試合という戦いのなかで、笑顔を浮かべて見せたのだった。

「楽しい……?」

「ええ。エレメントを学べて、友達もできて、そして自分と渡り合うことのでき、認め合える人もできる。そして、あなたのことを理解してくれる人も、きっと……」

「……考えておきます」

 そのとき見せたクゥの表情が、どこか期待しているような、ほんのわずかだけど、口元が笑っているように見えた。

「じゃあ、試合を再開しましょうか」

「はい」

「さっきので、あなたのエレメントがなんなのか。一応は察しがついたわ」

「え?」

 意外だったのか、クゥが思わず声を上げる。

「だから、見せてあげる。鍛錬の成果を――」

 カームの体から、赤のオーラが熾き、そこに青のオーラが熾きる。

 さらに緑のオーラが熾き、最後には黄のオーラも熾きると、そのオーラが上へ上へと昇り、それはまるで――

「虹……」

 クゥがそれを追うように顔を上げる。

「そう。でも、ここからよ」

 それぞれが、己の色を主張しながら揺らめくオーラが、重なり合う。

 そしてひとつになると、光を放ち始めた。

「これは……」

 光により、クゥの影が長く背後に伸びる。

「これが、あの子の標にするべく編み出した光のエレメント――【極光きょっこう】よ!」

「すごい……」

 クゥの口角が、明確な意思を以て釣り上げられる。

「さぁ、かかってらっしゃい。アルカンシェルの称号は、私がいただくわ!」

「すごいです。その光、とってもおいしそうです!」

 二人が同時に大地を蹴る。

 白と黒——光と闇がぶつかり合い、そして、


「勝者は――ッ!」


 歓声が、総合競技場スタジアムを覆い尽くした。
























 空使いとアルカンシェル〈完〉


 










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