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空使いとアルカンシェル  作者: 天瀬 智
第十章 闇の少年と虹の少女
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第五話 灯火(14)

「フィリスお姉さまああああああ!」

「カァァァムーーー!」

 卒業式を終え、ガウンも脱いでいつもの制服姿になったカームとフィリスに、二人の影が飛び込む勢いで駆け寄ってきた。

 フィリスの目の前で立ち止まるエラの横で、そのままカームに向かって飛び込むフラン。

「ちょ、ちょっと! フラン!?」

「カァァァム~~~!」

 そのまま体勢を崩したカームは尻餅をついてしまうも、胸の中でカームの名を泣き叫ぶフランに、怒る気も失せたような、仕方ないような笑みを浮かべていた。

「お姉さま……」

 そんな二人には目もくれず、エラはフィリスへとまっすぐな視線を向けていた。

「ご卒業、おめでとうございます」

「ありがとう、エラ」

 微笑むフィリスにエラは、

「お姉さま……私、お姉さまが首席で卒業されると信じていました」

「それは、あなたのおかげよ」

 そう言って、フィリスがエラの頭を撫でる。

「あなたは誰よりも飲み込みが速くて、とても優秀で、だからこそ一番に試験を突破することができたの」

「いえ、それもこれも、すべてフィリスお姉さまの教えが良かったからです。だから、だから……私も、四年生になって、一年生に教えるときがきたら、お姉さまに教えていただいたことを胸に、きっと一番なってみせます」

「あなたが教えるなら、その子は幸運ね。一番を目指すことは悪いことじゃないわ。でも、固執してはダメよ」

「え?」

「一番になるのは誰のため? 自分のため? 何よりも考えなければならないのは、相手のため。私が一番になれたのは、何度でも言うわ。私のパートナーが、あなただったからよ」

「お姉さま……」

「三年後、あなたの晴れ姿が見られるのを楽しみにしているわね」

「……は、はい!」

 言うべきこと、伝えたいことを言い終えたように、二人の間に静寂が流れる。

「いやです……」

 エラの口から出た言葉に、フィリスだけでなく、後ろで見守っていたクリスとレイもまた反応する。

「お別れなんて……嫌です。せっかく、出会えたのに……たった一年だけなんて……もっと、もっとお姉さまに教えてもらいたいです。もっと……お姉さまと一緒に……いたいです……」

 涙を零し、フィリスの胸に顔を埋め、制服にしがみつくエラ。

 そのエラの背中に、フィリスがそっと手を添える。

「私にも、尊敬できる立派な先輩がいたわ。今の私がいるのは、その人たちのおかげでもある」

 フィリスはそう言いながら、背中に添えていた手をエラの肩へと移し、そっと引き離した。

「でも、その人たちが卒業して、自分が先輩という立場になって、そして出会えたのよ。エラ・グリーン――あなたに」

「お姉……さま……」

「だから、あなたにもきっと現れるわ。あなたを導いてくれる、素敵な後輩が」

 微笑むフィリスに、エラは何度も洟をすすっていた。

「だから、後輩にそんな姿は見せられないわよ。ほら、笑って」

 フィリスの両手がエラの頬を包み込み、親指で涙を拭う。

「お姉さま……」

 エラは瞼をぎゅっと閉じ、それからゆっくりと開くと、目に涙を浮かべながらも、それ以上は流すまいと耐え、そして笑顔を浮かべるのだった。

「これを、あなたに託すわ」

 そう言って、フィリスは首元の青い石がはめられたループタイを緩め、それを襟元から外すと、エラの手を掴み、その手のひらにのせた。

「――ッ! いいん……ですか?」

「ええ。私もね、寂しいと思っているのよ。あなたとの別れが……だから、時々でいいの。これを見て、私と言う先輩がいたことを思い出してくれたら……嬉しいわ」

「絶対に、忘れません!」

 エラは両手で青のループタイをぎゅっと掴み、それを胸に当てた。

「レイ。エラのこと、頼んだわよ」

「はい」

 フィリスとレイが視線を合わせ、頷き合う。

「クリスも、二人のことをお願いね」

「任せて下さい。フィリスさんも、お元気で」

 クリスが歩み寄り、どちらともなく手を伸ばし、抱擁を交わす。

「風子も」

「うむ」

 クリスの隣に立つ風子とも抱擁を交わす。

「いつになるか分からないけど、落ち着いたら、またあなたの実家を訪ねさせてもらうわね」

「うむ。みな楽しみにしているのだ」

 間近で顔を合わせ、微笑み合う。

「いい加減に離れて、フラン!」

 ようやくフランを引き離せたカームが、そのままフランを押さえながら立ち上がる。

「だって、卒業しちゃうのよ!? 寂しいじゃない!」

「だからって、いい大人がそんな涙を流して、恥ずかしいじゃない」

 呆れて溜息を漏らすカームの後方に人影が近づく。

「カーム」

 その声に、カームは振り返った。

 その際にすっぽ抜けたフランが、「あうっ」と地面に倒れ込む。

「お父様……」

 振り返った先に立つのは、ルカだった。

 卒業式で着ていたガウンと角帽も脱ぎ、いつもの恰好に戻っている。

「学長としてではなく、ひとりの父として、今はお前の前にいる」

 その意味をカームが理解しようとするよりも先に、

「卒業おめでとう、カーム」

「――ッ!」

 そのひと言を言いたいがために、あえてそう言ったのだと理解したカームは、急激に込み上げてくる熱いものに視界が滲み、

「ありがとう、お父様」

 微笑みながら涙を流すのだった。

「カーム」

 立ち上がったフランが、そっとカームの肩に手を置き、

「あなたは、私たち家族にとっての誇りよ。自慢の娘で、自慢の妹」

 そっと抱き寄せるフランに、カームはその胸に顔を埋め、抱きついた。

 そのカームの耳元で、

「ノアも、きっと喜んでいるわ」

 その言葉に、カームは何度も頷いた。

「カーム」

 ルカの呼ぶ声に、カームはフランから離れ、涙を拭った。

「聞いていなかったが、卒業後の進路は決めているのか?」

 父としての言葉に、カームは強く頷いた。

「はい。約束がありますから。それに向けて、やるべきことをやります」

「約束?」

 フランが首を傾げる。

「ええ。そのために、私はこの大陸で誰より有名になる。名実ともに、最強の座を目指す」

「あなた……まさか……」

 悟ったフィリスが、驚きの表情を浮かべる。

「そうよ。私は――」

 カームが顔を上げる。

 その視線の先に映るのは、雲ひとつない――空。

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