懸念 (side : リタ)
半ばデューレに追い払われた形だが、儂は死の渓谷にやって来ていた。
先日の激闘の跡は生々しく遺されている。
一帯を埋め尽くすどこかか、小山を幾つも作っている飛竜達の死骸。
中でも一際目立つのは、聳え立つ大魔獣の巨躯。
その頭部だけが無残に潰され、超巨大な魔獣は屍と化している。
セーラが放った水属性の脅威的な破壊力によるものだ。
儂が大魔獣の死骸を調べている、その理由…
それは、ある怪物と関わりがある。
いや、怪物では無い。
正しくは神と形容するべきかもしれない存在。
その存在こそ、闇の竜王バハムート。
魔王を倒す最後の切り札となるであろう、闇を司る究極の竜神である。
四聖人の持つ真の力は、己が使う属性の神を使役する事。
個々の戦闘能力やスキルなどは、その恩恵でもある。
今の時代は勇者が不在。
神の力を借りなければ、我々では魔王に抗えないかもしれない。
最強の水の戦乙女として覚醒しつつあるセーラ。
その潜在能力には期待しているが、やはり最後の切り札は用意しておくべきだ。
一方…
亡き先代の弓術士、リディマーによって風神の力がデューレに受け継がれている。
神の力は行使する代償として、自身の命を差し出さなければならない。
エルフとしては未だ若い子供であるデューレを、みすみす犠牲にしたくはない。
本来ならば無い筈の命を持つ儂こそが、その役割を果たさなければならないのだ。
そして、水属性のセーラにだけは…
あの力を絶対に行使させてはならない。
闇の竜王バハムートと対を成す、究極の存在。
心が成熟していないセーラにとって、その存在は諸刃の剣となる。
怒りの力に呑まれ、セーラ自身が世界を破滅に導く存在になってしまう可能性もある。
それを阻止するのも、儂の使命。
今は大魔獣から、闇の竜王を呼び出す手掛かりを見つけるしかない。
突如、背後からの殺気!
同時に、細い糸の様な何かが儂を襲う。
「何用かの…?儂は忙しいんじゃが」
糸の様なモノによる攻撃は、儂が無意識に纏う防御盾によって阻止されている。
「流石は大賢者だね!隙が全く無いなんて凄いや!」
振り向いた先には、若い女。
歳の頃はセーラと同じくらいか?
破廉恥な下着の様な恰好に、褐色の肌。
長い髪をポニーテールにして結っている。
無邪気な笑顔を見せる可愛い顔とは裏腹に、その殺気は尋常でない。
「でも、僕の方が強いかな!」
彼女はそう言い放ちながら、背中に据えていた大剣を手に取ったのだった。




