落涙
次の瞬間、私が居たのは何処かのお城だろうか…巨大な城門と高い城壁が目に入る。
自らを犠牲にして、私だけを安全な場所に移したローランの最期の瞬間…。
最初で最後のキスをくれた、大切な人との別れの瞬間…。
それが現実であると認知してしまう、そんな残酷な見知らぬ場所。
その城門の前で座り込み、私は張り裂けんばかりに大声で泣き叫んだ。
「ううぅッ…ローランッ…ローランーーッ!」
その名前を叫ぶ度に、今は大切な人が傍にいないという事実が私を叩きのめす。
「何だ…?」
「誰だ、城門の前で何をしている…?」
次々と城の中から兵士達が現れては、泣き叫んでいる私の姿に困惑している。
だか、そんな事は構いもせずに私はローランの名前を叫び続けていた。
「お、おい…?あの女が持っている剣…!」
一人の兵士が私が抱き抱えているローランの形見である神剣に気が付いた。
「あ、あれは!神剣ジュワユーズ!」
その言葉に兵士達は騒然となる。
「ま、まさしく…殿下が携えている筈の神剣に相違ないではないかッ!?」
「と、とにかく…今すぐに騎士団長殿を呼んで参ります!」
狂った様に泣き叫び続ける私は、兵士達によって城内へと連れて行かれたのだった。
(……ローラン。どうして私だけを残して行っちゃったの?)
真っ暗な静寂。
(……貴方が一緒に居ないと、私は幸せになんてなれないよ。)
夢の中だろうか?
意識が混濁して、後悔の念だけが怒涛の様に押し寄せる。
(……魔王とか、巫女とか、もうどうでも良いよ。)
誰に語りかける訳でもなく、私の思いが溢れ出す。
(……ローランが居たから、この世界に来ても希望が持てたんだよ?)
今はいない、大切な人の笑顔が浮かぶ。
(……ローランが居たから、私は笑顔でいられたんだよ?)
暗闇が薄れ、徐々に白くなってゆく。
(……ローランが居たから私は…私は………)
そして暗闇の全てが真っ白になった時、私は意識を取り戻していた。
おそらく、城内の何処かの一室。
広いベットの上だった。
「あ、目を覚まされましたか?」
気が付くと、少し離れた位置に侍女らしき女性が居た。
錯乱して泣き叫んだ挙句、疲れれ果てて眠っていた私の看病をしてくれていたのだろうか…。
部屋のドアを開けて護衛の兵士に耳打ち。
兵士は誰かを呼ぶ為に急ぎ走って行った様だ。
でも、そんな事はどうでも良かった。
だって私は、既に空っぽだった。
大切な人を失って、空っぽだった。
一緒に消える事を許して貰えなかった私は、空っぽだった。
しばらくすると、ドアをノックして一人の騎士らしき男が入ってきた。
彼が目配せすると、侍女は入れ替わる様に部屋を出て行く。
私の横たわるベットの側に歩み寄った騎士。
「私はグロニア王国の騎士団長を務めております、サーテインと申します」
まだ20代後半くらいに見える騎士団長サーテインは、私が持っていた筈の剣を携えて持って来ていた。
「あ…あ……それは、ローランの……!」
神剣ジュワユーズを見た瞬間、錯乱する私。
しかし、サーテインは表情も変えずに毅然と私に語りかけた。
「グロニア王国の第二王子、ロヘラングリン殿下の身に起きた出来事をお伝え頂きたい」
なんだぁ。ローラン…実は王子様だったんだ…
酷いなぁ、婚約者に本当の事も隠したりして…
すっかり枯れ果てたと思っていた涙が、再び溢れ出した。
涙が白いシーツにポタポタと零れ落ちた。
(……ローラン……ローラン……ローラン!!)




