巨影
何をやっても、顔がだらしなくニヤけてしまう。
ローランと結婚…。
まさか私が花嫁さんになれる日が来るなんて、想像した事すらなかったよ。
「セーラ…」
こんなにカッコ良くて優しい人。
「セーラ……」
裕福とは言えない母子家庭の娘が、遂に幸せを掴み取りました。
お母さん! 私、遂にやったよ!
こんな私にも彼氏が出来ました!
彼氏というか、婚約者なんだよ!
どうしよう! 嘘じゃないんだよ!
最愛のダーリンを実際、紹介出来ないのが心残りだよ…
(ムフフフ…………)
「セーラ! 聞こえてますか?」
「ひゃいッ!!」
ローランの声に、素っ頓狂な返事をしてしまう。
私はすっかり夢の世界の住人になっている。
だって無理もないよね?
僅か16才でありながら、私は人生のピークを迎えてしまったんだもん。
「もうそろそろ、強力な怪物が現れるエリアに入ります。 絶対に僕から離れないで下さいね?」
「うん…怪物が居ても居なくても、私はローランから離れないよ!」
結婚を申し込まれた日から3ヶ月が過ぎた頃、こんな歯が浮く返事すら自然に返せる様になっていた。
遂に私も異世界でリア充だよ! 凄いよ!
愛は人を変えちゃうって本当だったんだね!
そして現在…。
魔王を捜す手掛かりを見つける為、ローランは過去に魔王の砦となった城塞跡へと向かう旅をしていた。
途中で立ち寄る都市、町、村。
残念ながら今のところ、私を口説く魔王候補は現れていない。
と言うよりも、若き英雄である聖戦士と仲睦まじい婚約者を口説く者はいなかった…って感じ。
まぁ、そうだよね。
長い旅の果て、城塞跡が遠くに見えて来た。
「セーラ、僕の後ろへ…!」
「え?まだ何も居ないけど…」
ローランが空を指差した。
上空から凄まじい速さで、何かがこちらに向かって来ている。
徐々に大きくなるシルエット。
大きな翼を広げ、巨大な姿がはっきりと明らかになる。
「あの城塞跡…魔王に関する何かが有る、って事は確定です」
そう言いながらローランは鞘から剣を引き抜く。
「まさか、闇の竜王バハムートが門番とは…」
続くローランの呟きを聞いて、私は自分の全身に鳥肌が立つのが判った。




