008 宝石商回り
ユージとマリイは繁華街へやって来ていた。
マリイの持つ、母の形見という宝石を見てもらうためである。
「まずはここにしてみるか」
「はい」
手近な店に入る二人。
「いらっしゃいませ、お買い求めですか?」
すぐに店員が寄ってきた。
「いや、鑑定を頼みたいんだ」
そうユージが言うと、
「わかりました、こちらへどうぞ」
そう言って店員は奥にある鑑定室へと二人を案内した。
「これなんだけど」
早速、マリイの持つ形見の宝石を見せると、鑑定士は虫眼鏡で覗いたり、明かりを当てたりして見ていたが、
「…申し訳ございません。このような石は見たことがありません」
そう言ったのである。
「そうか、ども」
それでその店を出、次の店へ行ってみる。
だがその店でも、また次の店でも、このような宝石は見たことがない、というばかりであった。
出掛けた時の元気はどこへやら、しょげかえったマリイにユージは、
「ほら、元気出せ。珍しい宝石だということは、それだけ重要な手がかりだってことだ。産地とかわかれば一気にお前の種族のこともわかるってもんだ」
「そ、そうですよね!」
そう言われて少し元気になったマリイに、
「そろそろ昼だな。あれでも喰うか」
そう言ってユージは屋台の串焼きに向かった。
「3本くれ」
「へいまいど」
近くにあったベンチに座ると、受け取った1本をマリイに手渡し、ユージもかぶりついた。
「おいしいですね」
串焼きを食べたマリイ、尻尾が元気よく振られているのは嬉しいからか。
「ああ。おっちゃん、あと4本」
「はいよ」
結局ユージが7本、マリイが3本を食べた。
「あー、美味かった」
「おいしかったです」
少々喉が渇いたので今度は飲み物を探す。南国特有のフルーツジュースの屋台が目に入った。
「お、あれ飲んでみるか」
ユージがそう言うと、
「あ、わたしが買ってきます」
とマリイが言ったのでユージは、
「お、そうか。これで好きなの買って来な」
そう言って50ジェン銀貨を渡した。それを握りしめたマリイは駆け足で屋台へ行き、何やらジュースを二つ買い、両手に持つとこちらへと走り出した。
「おい、そんなに慌てると転ぶぞ」
そうユージが注意した直後、案の定マリイは凹みに足を取られて体勢を崩す。
「きゃっ!」
「っと」
マリイが倒れる瞬間、ユージがその体を受け止めた。
「あれ? ユージさん?」
「大丈夫か、マリイ? 怪我しなかったか?」
「はい、ユージさんが受け止めて下さったので大丈夫で…あ!」
ジュースのコップは二つとも地面に転がっており、中身は既に土に染み込んでしまっていた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
またも頭を抱えて謝るマリイ、ユージはその頭を優しく撫でて、
「バカ。怒らねーよ。ほら、もう一度買ってこい。今度は走るんじゃねーぞ」
そう言ってもう一度銀貨を握らせた。
今度はマリイもこぼさずにジュースを買ってきた。ベンチに座って飲む。
「甘酸っぱいです」
「ああ、美味いな」
柑橘系の味で口当たりが良く、塩辛くなった後口にぴったりであった。
「さて、他の店を回ってみるか」
食後、少し休憩した後、別の繁華街へと向かい、そこで宝石商を探し、鑑定を頼む。
…が、結果は同じであった。
結局、夕方まで回ったが、訪れた全部の宝石商で、見たことがないと言われたのであった。
短めです。
さて、宝石の謎は? というほどのものではないんですけどね(今のところは)。