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116 ユージの過去

「…マリイ」

 ユージは泣き出したマリイが泣き止むまで待った。そして、ようやく泣き止んだマリイを見ると、唐突に口を開く。

「俺にはな、妹がいたんだよ」

「えっ?」

 突然のユージの独白にきょとんとするマリイ、だがユージは構わず続ける。

「アカネって言って、俺の2つ下の妹だった」

「……」

「両親が忙しかったこともあって、俺に懐いていてな。いつもいつも、お兄ちゃん、お兄ちゃん、って俺の後を付いてきたもんだ」

 マリイは黙って聞いている。

「でもな、やっぱり男の子同士で遊ぶ時なんか、2つ下の妹なんか邪魔になる事もあるもんだ。そんなとき、アカネは遠くから寂しそうに俺が遊んでるのを眺めていたな」

 寂しそうなユージ。

「で、結局はアカネの所へ行ってやることになるんだ。そんなある日」

 少し言い淀むユージ。だがすぐに話を再開し、

「アカネの奴が熱出して寝込んじまったんだ。俺はずっと側に付いていてやったんだけど、ちょうど俺も学校へ行く歳だったんでな、試験を受ける必要があったんだ」

 黙って肯くマリイ。

「そんなときアカネが、『おにいちゃん、アカネ、だいぶ楽になったよ。おにいちゃん今日試験だったでしょ、行ってきなよ』そう言ってくれたんだ。俺は肯いて、『うん、きっと合格してくるからな』、そう言って試験に行ったんだ」

 そこでユージは悲しげに沈黙した。そんなユージを心配そうにマリイは見上げる。やがてユージは重い口を開き、

「…それがアカネの声を聞いた最後だった」

「!!」

「試験から帰ってきた俺が見たのは…冷たくなったアカネだった」

 そう言ったユージを、マリイはそっと抱きしめた。そして、

「ユージさん…かわいそう…アカネさんも…かわいそう…」

 泣きながらそう言ったマリイに、

「ありがとな、泣いてくれるのか、マリイはやさしいな」

 そんなマリイの頭をそっと撫で、

「でな、そのアカネとマリイは良く似てるんだよ。もちろんアカネは人間だし、髪も目も俺と同じ色だったけどな」

 ユージがそう言うとマリイは少し寂しそうに、

「わたし…アカネさんの代わりだったんですね」

 と言った。だがユージは、

「そうじゃないさ。…命っていうのはたった一つ、たった一度のものだから、ほんとうにそれを大事に出来るんだし、大事にしなくちゃいけないんだ」

 そう言って今度はユージがやさしくマリイを抱きしめ、

「だから、アカネはアカネだし、マリイはマリイだよ」

 そしてもう一度マリイの顔を見つめ、

「そうは言ってもマリイにアカネの面影を見ていたのは確かだけどな」

 そしてこれで話は終わり、と浴槽から出るユージ。マリイも続いて上がる。脱衣所には侍女メイドが待ち構えており、2人とも強引に着替えさせられてしまった。

 何せ脱いだ服も、持ってきた着替えも無くなっていたのだから仕方がない。


*   *   *


 着替えた2人が案内されたのは食堂である。

 大広間と言っても差し支えない広さの部屋に長テーブルが置かれ、上座にクアトロ子爵とおぼしき壮年の男性、そして右側下座に順次、クアトロ夫人らしき貴婦人が。

 さらに二十歳前と思われる青年、最後にフィオレが席に着いていた。

 そしてユージは子爵左の客座に、その下手にマリイが案内されたのである。

「ようこそ、ユージ君、マリイさん。私がこの家のあるじ、クアトロ=シンドラー=ギンガムだ。これは私の妻」

「ジョゼフィンですわ」

 夫人が立ち上がって優雅に一礼する。見事な栗色の髪、綺麗な鳶色の瞳をしていた。

「そして次男の」

「エッケハルトです」

 これも見事な騎士風の礼をした。母親似の髪と目をした痩身の青年である。

「そして、もう見知っているな、長女の」

「フィオレ=ネマーニャ=ギンガムですわ」

 スカートの裾を摘み、流れるような礼をするフィオレに、ユージは目を見張った。が、すぐにいつもの調子を取り戻すと、

「王国名誉騎士、ユージ=アキモトです」

 と言って軍隊風に敬礼をして見せた。そしてマリイを指し示し、

「マリイを紹介いたします。狐の亜人ですが、自分の妹分です」

 マリイは慌てて立ち上がって、深々と体を曲げたお辞儀をし、

「マリイ…ともうします、きょうはおまねきありがとうございます」

 と礼を述べたので、子爵以下の目が細められる。フィオレなどは顔を上気させ、今にも抱きしめにかかりそうだ。

「これで挨拶も済んだ、それでは始めよう」

 席に着いた子爵がそう言うと、後ろに並んでいた給仕達が一斉に動き出し、グラスにワインを注いで回る。マリイだけはジュースだが。と、ユージが、

「あ、俺もジュースにしてくれますか?」

 そう言ったのでマリイははっとした。

「訳あって酒は止めておりますので」

 そう言い切るユージに無理強いもせず、子爵が肯くと、給仕はグラスを取り替え、マリイと同じジュースを注いだ。

「では、今日の良き出会いに、乾杯」

「乾杯」

 子爵の音頭でグラスが合わされ、澄んだ音を響かせる。そして和やかに夕食会が始まった。

 ユージがマリイを一目で気に入ったのは妹に似ていたからでした。今は別の感情も持っていますが。

 そして子爵の長男は既に家を出て一家を構えています。以後出るかどうかは未定ですが。

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