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国の名前はふたりから  作者: 小林晴幸
神器とスケアクロウ
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55.神器の恩恵、神の加護

大体、神器の説明分です。




 『神器』

 それは、神が自ら創った民へと授けた神の恩恵。神の遺物。

 神々が地上へ姿を現さなくなって久しいが、神器は変わらず民の傍らにあった。

 神の加護という、特別な恩寵を滞りなく行き渡らせる為に。


 地上に生きる、神に創られた私達…大陸の民。

 神々は自分達の創った民にそれぞれ、格別な加護を与えた。

 だけど神に創られたと言っても、所詮その身は神ではない。

 神ならぬ身に、神から与えられた過剰な力。大きな力。

 私達の身体は、その大きすぎる力を直接注がれて平然としていられる程、強くはない。

 大陸で最も頑健な肉体を持つ竜人族であっても、それは例外じゃなく。

 どんなに神の寵を与えられ、子供同然に可愛がられても。

 私達は神じゃないから。

 大きすぎる力は、到底耐えられるモノじゃない。


 神の方にも加減の分からないことだったのだろう。

 大陸に暮らす六種族の、最初の方…初代に当る者達は、若くして亡くなっている。

 その死因が、それこそ神によって過剰に注がれた力に寄るモノ…。

 直接与えられた加護に、肉体へかかる過負荷。

 力を与えられるには容量が足りない。

 結局、始祖達は肉体の崩壊を起こして、自滅していったと記録されている。


 だけどこの世に作り出されたばかりの頃の祖先達は、とても不安定な存在で。

 神の加護無しに生きていくこともまた、難しい程だったのだという。



 強すぎる加護は毒。しかし加護無しで生きていくこともできない。

 その問題を解決する為、各種族に神々がもたらしたモノこそが、『神器』。

 それは神々の大きすぎる力を中和し、中継する為のモノ。

 直接それぞれの民に力を流し込むから耐えられないのだと、神々は程なく気付いた。

 間に神器を挟んで中継とし、緩衝材としての役割を求めた。

 地上に使わした神器を介して加護を与えることで、問題を解決したのだ。


 神器という中継ポイントを介してそれぞれの民に届けられる加護は丁度程良い具合で。

 神々に与えられた加護と、神器。

 二つの恩寵は、間を置くことなく民にとって掛け替えのないモノとなった。

 今も尚、目に見えない加護と、目に見える神器は神の変わらぬ愛情として尊ばれている。



 神器は神々から民への愛を、加護の力を届ける。

 だけど神器は万能の道具ではなかった。

 その掛け替えの無さ。手放すことの危険。

 神器の持つ、若干の不具合。

 図らずも、そのことを証明してしまったのは、魔族で。

 神器を手放してしまった、私達の御先祖様で。

 情けない話だけど、神器を手放すという先祖の不始末は、魔族の弱体化を招いた。

 それは私達魔族が、『人間』の猛攻を防ぎきれなかった理由の一つと考えられている。


 『魔族』が『神器』を手放したということ。

 その存在は確かに同じ大陸の上にあり、決して紛失したという訳でもない。

 だけど手元に無いことも、事実。

 『神器』は持ち主として選ばれたる種族が持っていてこそ、意味がある。

 魔族の元から神器が離れたことで、私達魔族が神から受ける加護が一気に弱まった。


 具体的に言うと、加護が薄く弱くなったことで、身体が本来よりも弱くなった。

 全体的に身体能力も、魔力も、生まれつき持っている能力が平均的に下がった。

 更に言うなれば寿命も縮み、成長が遅くなり、老化が早くなった。

 魔族の成人年齢はかつてよりも高くなり、ほぼ不老だった身体が年を取る。

 それだけでも大きな変化だというのに、神器が手元にないというだけで更なる弊害が襲う。

 より守られるべき立場にある、子供の存在。

 彼等は戦う力もなく、それこそ神の加護によって庇護されていなければ生きていけない。

 大人達ならば切り抜けられることや、外敵に襲われた時。

 精神的にも肉体的にも能力的にも未熟な子供達では一溜まりもない時。

 そんな時に子供を能力外の要素として切り抜けさせてきたのが、加護という神の守り。

 それがあるだけで、授かる幸運や瞬発的に発揮される潜在能力が変わる。

 戦う力のない子供達が生き延びるのに、加護の守りは必須。

 だけどそれが、弱まった。

 魔族が神器を手放してしまったから。

 子供は物理的に守る親以外の守りを失い、『人間』に狩られる格好の獲物となった。

 抵抗する力のない子供は容易く捕まり、『人間』の間で『奴隷』という概念が横行する。

 神の加護、守りが弱体化した魔族は、大陸の民の中で最も虐げられる存在となった。

 

  全て、神器を失ったが故。

  だからこそ、私達は神器を取り戻すことを悲願とする。

  何故なら、取り戻せた瞬間にこそ。

  私達は神から本来与えられていたはずの、様々な恩恵を取り戻せる筈だから。




 神器という大きすぎる忘れ物が、まさか、私達の命運を握っているなんて。

 当時の平和ボケしていた魔族は知らなかった。

 大陸中の、ありとあらゆる種族が気付いていなかった。

 そんなモノを、身を以て体験することになってしまった、私達は魔族は…

 もしかしたら、大陸で最も間抜けな種族なのかも知れない。



 目の前に『神器』があり、私は利用される身。

 この手にとっても、到底『魔族が取り戻した』とは言えない状況の中。 

 望んでもないのに『神器』を敵に捧げる立ち位置にされそうな中で。

 自由を奪われている私は、ままならない現状にそっと溜息をついた。


 

 

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