表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
国の名前はふたりから  作者: 小林晴幸
最後の『奴隷市場』
PR
91/193

妖精の母

何だかダラダラした感じに長いです。

グター視点。

しかし、グターがリンネと離ればなれになって女々しすぎる。

うん。物凄くダラダラした感じです。



「遅い! 遅いよ、ラティ君!!」


 目標の場所へ駆けつけ、その場の『人間』達を制圧した俺達。

 間をおかず、そんな俺達にかけられたのは、麗しい美少女の憤慨する声。

 大輪の薔薇みたいな鮮やかな美少女だけど、その顔にはどっかで見た覚えがある。

 …と思ったけど、ソレが何処か分かった。

 だってラティと美少女が並ぶと、本当に瓜二つなんだもん。顔が。

「誰だ? ラティのねぇちゃん?」

「関係性はともかく、確実にラティさんの身内ッスね」

 なんでそんなヤツがこの場にいるのか、ちょっと聞いてみたい。

 でも、美少女はあまりの剣幕だし、ラティが冷や汗を流しているし。

 …あの、ラティが。

 正直、とても近づきたくない。


 俺達が遠巻きにする前で、ラティは困り顔。

 美少女をなんとか宥めようと、両手を突き出す。

「ま、まあまあ、落ち着こうよ…母さん」

「「って、母親かよ!?」」

 うわぁ。ヴィと声ハモった。

 美少女はラティと全くの同世代…もしくは、ちょっと上にしか見えない。

 大人と呼ぶには幼い外見をしているんだけど。

 長寿種族の外見と年齢が比例しないのは常だけど。

 それが特に妖精族には通用しない概念だって聞いてはいたけれど。

 少女(・・)にしか見えない姿で、ラティみたいな大きい子供が居るなんて。

 妖精族の実年齢、恐るべし。

 性格に何歳なのかは知らないけれど、確実に数百年は生きているだろう美少女を前に。

 俺とヴィは、心底から妖精族の恐ろしさについて考えていた。

 多分ソレは、俺達のちょっとした現実逃避だったんだと思う。

 余裕が足りない。ゆとりがほしい。

 そんな渇望をするくらい、心が枯れ果てて凍り付きそうで。

 俺は何とも言えない自分の感情に、気持ち悪くなってくる。

 だって、見渡す視界の中に、求めた姿がなかったから。

 

 足りない、足りない。

 あるはずの姿。此処にいるはずのアイツ。

 俺達は間に合えたと思ったのに。

 どうしてアイツは此処にいないんだろう。

 その理由は何となく分かりそうなのに。

 俺の心が否定する。

 認めたくないと騒ぐ。

 本当はちゃんと分かってる。

 でも、感情が認めようとしない。

 思わず現実逃避して目を逸らしてしまう。

 そんなことをしても無駄なのに。

 そんなことをしている暇があるのなら、他にすることが幾らでもあるのに。

 それでも、俺は認めたくない現実を前に、どう動くべきか見失ってしまう。

 思えば、こんな時にいつも俺の行く道を指し示し、背を押してくれたアイツ。

 俺が道を見失っても、どうすれば良いのか迷っても。

 アイツは俺に的確にやるべき事を示してくれた。

 そんなアイツが、傍にいない。

 俺を導いてくれるはずの、アイツが此処にいたい。

 それって、俺にとっては生き死にに関わるくらい大きな問題で。

 俺が迷い、惑っても仕方ないじゃないか。

 本当はそんな時間は少しもないのに。

 俺が戸惑い、足を止めても仕方ないじゃないか。

 …。

 ………。

 ……………。

 いや、違う。

 やっぱり仕方なくなんてない。

 俺は胸を張ってアイツを助け出したい。

 その為にはやるべき事があり、アイツが目の前にいないからって…

 予定通りに事は運ばず、事前調査通りの場所にアイツが居ないからって。

 それだけのことで、俺が立ち止まってしまっちゃ駄目だろ?

 俺はやるべき事をやらなくちゃ。

 アイツを探し出して、助けてやらなくちゃ。

 例え、何処にいるのか分からなくても。

 例え、助ける方法が分からなくても。


「え、と、ラティの母さん?」

「おばさんのことはソフィちゃんって呼んでくれると嬉しいな☆」

「………」

「あ、無理にとは言わないから。おばさんでいいから」

「えーと。じゃ、おばさんで」


 空気を読まないラティ母の言葉に、どんな反応を返せば良いんだろう。

 微妙な空気が漂う中、ラティ母は俺達の白けた目をモノともしない。

 この人…(色々な意味で)強いな。


「もうっ それにしてもラティ君といい、グター君といい、遅すぎるわ!!」

 いや、俺達は別々じゃなくて、一緒に来たんですけど。

 おばさんは俺にも険しい目を向け、叱りつけてくる。

「貴方達が遅いから、リンネちゃんが買い取られちゃったじゃないー!」

「ええっ!?」

 うすうす分かっていた事実。

 だけど盛大にぶちまけられて、俺は動揺が隠せない。

 うろうろ訳もなく身体を動かしながら、俺はやるべき事が分からない。

 買われたって、誰が?

 買われたって、誰に?

 アイツは一体、どこに行ったんだ?

 追いかけなくちゃとは思うのに、一体どこに行ったのか見当がつかない。

 途方に暮れてる場合じゃないのに、俺は困り果てていた。

「おばさん、リンネがどこに連れて行かれたのか分かりませんか!?」

 混乱のあまり、聞いても仕方のないことを、分からないだろう人に聞いてしまう。

 だけどラティの母はやっぱり、何処か違う。

 答えなど期待していなかった俺の問いに、彼女はこっくり頷いたのだ。

「そこは、任せてちょうだいな☆ リンネちゃんがどこに連れて行かれたのか、大体の位置なら分かるよー。今はなんかごちゃごちゃしてて、方向しか分からないけど」

「「「え?」」」

 予想外の答えに、俺達は揃って間の抜けた顔をしてしまった。

 俺達が揃って唖然としながらも注目する中、ラティ母はおっとりと頬を染めて笑む。

「こんなこともあるかなーって思って予防線張ってたんだけどー。保険になってくれるかなぁて、取って置きを。無駄にならなかったみたいで、おばさん、複雑だわ」

「………」

「………ラティ」

「…なにかなー」

「お前の母さん、すげぇな」

「うん…。僕が唯一、勝てないかなぁって、思う人だし」

「そっか」

 凄い人なのだと、内心では思っているけれど。

 何となくそれを口に出して賛美しようとは思わせてくれない人みたいだ。

 一筋縄じゃ行かないって、こういうことかなぁ?

「それで、奥の手って何ですか?」

「うふふ。実はね、リンネちゃんを言いくるめておばさんの子供を託してあるの☆」

「はあ!?」

 ラティ母の言葉に、ラティが盛大に引きつった声を挙げた。

「お母さん、子供って誰ですか!? 兄さん達? どっから連れてきたの?」

「やぁね、ラティ君ったら。連れてきたんじゃなくて、生んだのよ」

「って、また子供生んだんですか!? いつの間に…こんな場所で!?」

「そぉなのー。こんな所に入れられちゃったからー、満足に環境も整えてあげられなくって…育ててあげられないまま、実はもう、八年も経っちゃった」

「八年!? そんなに長いこと、こんな所に居たの!? 姿を見ないと思ったら!!」

 うあ。すげぇ。

 混乱の窺えるラティは頭を抱えて取り乱している。

 俺も「子供」発言には驚いたけど、ラティはそれに輪をかけた感じだ。

 ラティがこんなに取り乱してる所なんて、出会ってから初めて見たかも。

「うふふー。捕まって直ぐにポロって生まれちゃったんだけど、流石に『奴隷市場』で芽吹かせる訳にはいかないでしょ? お陰でもう八年も種のまま待たせちゃってるの。そこをリンネちゃんに押しつけちゃった☆」

 ラティ母はかる~く言うけど、それってよっぽど大変な事じゃないか?

 只でさえ、妖精は子供が生まれにくいっていうし。

 それなのに、そんな子供を押しつけた?

 それも、先行きの分からない、売られていく相手に?

 何というか、豪快というか。外見にそぐわず、ラティ母は肝が据わっている。

「子供のいないラティ君には分からないだろうけど、妖精のお母さんには、ちゃんと子供の位置が分かるのよ? 何処にいるのか、元気なのか。芽吹かない内、限定だけど」

 えへんと胸を張るラティ母は無闇に元気そうだ。

 仮にもこれが、子供を無明の闇とも言える先行き不安に突き落としたばかりの母親か?

 どういうつもりかな。リンネに対してかなり好意的なことしか分からない。


「なあ、グー様」

「なんだよ、ヴィ」

「妖精の母親なら子供の位置が分かる…って、なにそれ?」

「あー…ヴィは知らねぇの? 妖精って出生率が低い上に身体も強くないからさぁ、生存確率を高める為、ってリンネは言ってたけど。子供を守る為の本能? 無事に生まれるまで、子供の状態が両親にはつぶさに分かるんだと」

「それも分からないんだ。子供は既に生まれてるんじゃないのか? 芽吹くって、なに」

「これも知らないのかー。妖精って、まず植物の種の形で生まれてくるんだよ」

「……妖精って、人の一種だよな。植物じゃないよな」

「妖精って植物の影響強いよ。そんで植物の種な我が子を見分け、状態を把握する為に発達した、妖精特有の特性なんだってさ。俺も詳しいことは知らないけど、そんな感じ」

「………。ラティさん見てても思ってたけど、妖精って想像以上に奇怪な生物だな」

「それについては、ちょっとだけ俺もそう思う」

 だけど、その妖精特有の性質のお陰で、助かったのは事実だから。

 心の平安と、アイツの未来。

 それらを守る為に必要なら、俺はきっと何でもする。

 そう思う中に、妖精がそういう生き物であったこと…

 そして此処に、ラティの母が居たこと。

 それら全部に、感謝した。




 たった二人で旅立って、たった二人で始めたことだから。

 俺はアイツを切り捨てることだけは、したくない。

 アイツが本当の本当に、大切だから。

 だから最後まで、道を果たすまで、傍にいたい。一緒にいたい。

 アイツがいなかったら、俺の歩みなんて意味を亡くす気がするんだ。

 だって俺を此処まで歩かせてくれて、俺の行動を支えてくれたのはアイツだから。

 俺の行動に指図して、良い方向へ向かう様に計らってくれたのは、アイツだから。

 アイツはきっと、それは俺の錯覚だと言って怒るけど。

 そんなアイツが居なければ、俺はきっと駄目だから。

 俺だけじゃなくて、俺達みんな、何をやるべきか分からなくなっちゃうんじゃないか?

 その位、アイツが重要な存在だって、みんな知ってる。

 知らない…気付いていないのは、きっとアイツだけだ。

 アイツがいないだけで、俺達は思想もやりたいことも、行動基準もバラバラで。

 瞬時に瓦解しそうになる我の強さを、上手いこと調整して纏めているのがアイツで。

 アイツが居なくなったら、きっと俺達、纏まることもできずに何もできない。

 俺達全員の未来の為にも、アイツは必要で。

 何より、俺の傍にアイツがいないなんて、俺が嫌だから。

 何より、俺が我慢できないから。

 味方全ての制止を振り切ってでも、俺は助けに行かなくちゃならない。

 この場にいない、姿の見えないアイツを。

 なりふり構わず、持てる全力で探さなくちゃならない。

 此処に足りない大切な、俺達を支え続けてくれたアイツを。

 そうしないと、俺の心は収まらない。


 焦燥で焼き尽くされそうな心。凍り付きそうな情緒。

 どうしたって大切にしたい、一緒にいたいアイツ。

 俺はアイツを取り戻す為だけに、リーダーにはあるまじき事だけど…

 今すぐに何もかもを振り切ってでも、一直線にアイツの元へ駆けて行ってしまいたかった。

 そうやって全てを捨てることは、到底許される立場じゃなかったけれど。

 そうやって全てを投げ打てば、アイツに軽蔑されることは分かっていたけれど。

 それでも飛んでいきたいと切望するくらいには、俺はアイツに会いたかったんだ。



 リンネ

 絶対に、絶対に。

 何が何でも助けに行くから…

 無茶だけはしないで、待っててくれよ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ