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国の名前はふたりから  作者: 小林晴幸
帰ってきた危険人物達
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38,アイツのお守り役が増えました



 魔族の国を打ち立てるには、色々と準備が必要です。

 最低条件(『人間』に奪われた土地の奪還)達成だけでも、何年かかるのか…。

 それを成し遂げる為に、既に三年かけて準備を行ってきた訳ですが。

 ようやっと先が見えてきたと言いましょうか…

 何とか準備完了の目処が立ったのは、最近のことです。


 こんな時期に仲間になってしまった影君には大変なことと思います。

 ですが折角仲間になったのならば、充分役に立って貰いましょう。

 尋問無しで穏便に情報を入手できる相手は貴重です。

 特にそれが信用できる相手で、真偽の程を疑わないで済むのが重要です。

 影君は『人間』の国にいた頃に後ろ暗い汚れ仕事ばかりをさせられていたとのこと。

 それってつまり、『人間』が公にはしたくない、貴重な情報ってことですよね。

 新たな情報網を敷くにも、彼の嘗ての伝手を使えれば、とても助かります。

 まあ、『人間』相手では脅しが必須ですが、彼は別の伝手を持っていました。

 幸いにも彼は『人間』の国で迫害される混血達のコミュニティと交流があったらしく…というか、そういった集団を作って互いを守り、身を寄せ合ってなければ生きていけない環境だったらしく、今でも硬い結束で結ばれているとのこと。

 純粋な『人間』には抵抗がありますし、信用できませんし、早晩殺し合うことになります。それが『人間の国で苦労している混血』というくくりになると、途端に警戒心が親身になれるのだから、魔族はつくづく同族の血に甘いとしか言えません。特に苦労していることがポイントです。


 私は影君から彼等の情報を得て、味方に引きこめないかと算段中です。

 敵の内部から圧迫、工作し、情報を扱うのに協力してもらえれば心強いので。

 混血の方々は多かれ少なかれ酷い目に遭っているそうなので、建国の暁には魔族に受け入れ、移住を手伝う条件で交渉してみましょう。影君の話では勝算ありだと思います。

 この交渉には、やはり影君の存在が重要になってきますね。

 彼にも何かしらの権限を与えるべきでしょうか?



 …といった相談を頭脳派メンバーと話し合った結果、影君にお仕事ができました。

 彼は未だ新参者ですが、その経験と知識はとても重宝します。

 『人間』の国では実績もあるようですし、結構使えるとの判断です。

 それでいて、既存の仲間から反発のでない様に気を遣った結果、彼の肩書きは…

 アイツの従者(と、いう名目の知識面補佐兼護衛)となりました。

 しかし所属はもっと複雑になり、工作部隊と諜報部隊の二つに半々で籍を置き、普段はアイツに張り付いているのがお仕事という、何とも不思議な結果になりました。

 まあ、工作隊の保護者と、有能な部下が欲しいと駄々をこねた羽根の人のストーカーが熱く議論した挙げ句、収拾がつかないので喧嘩両成敗で裁いた結果なのですが。

 爆破魔さんなどは、有能で技能のある人材は可能な限り使い尽くして酷使するべきだと笑顔で主張していました。何気なく、人の好さそうな笑顔で酷いですね、同感ですけど。

 使える範囲で次々仕事を割り振りますよ。過労で倒れない程度に。

 ですが彼の体力値と要領の良さを分析するに、彼ならやれると思います。

 現状、三分身でもしなければこなせない仕事ですが、きっと分裂せずに済むでしょう。


 過酷な労働が待っていることを知らず、本人はまだ慣れない仕事に慣れようと必死です。その姿を見るに、周囲がどんどん同情的な顔になっていきます。

 工作部隊はまだしも、諜報部隊は中々問題の多い部隊です。特に、隊長が。

 そこからの命令を受けつつ、工作隊を手伝いつつ、アイツの護衛…。

 …いつか、本当に三つに分裂しないと首が回らなくなりそうですね。

 本人には知らされていない過酷な労働環境は、既に周囲にも告知済みです。

 お陰で周囲が優しいこと、優しいこと。

 その生い立ちも悲劇仕立てで広めておいたので、影君の味方作りは完了です。

 どんどん親切になっていく環境に、戸惑う影君は本当に哀れです。

 せめて、彼が周囲に可哀想な子扱いされていることに気付かなければいいのですが。

 いつしか自然と、彼にはとある渾名が付いていたのですが…

 本人がその渾名を知ることのないよう、祈るばかりです。




 さて、影君の仕事はアイツの補佐兼護衛が主。

 しかし実際は私の目の届かないところまで監督する仕事とも言える。

 アイツのお目付役と言っても良いくらいだ。

 だって実際、今目の前で影君に引きずられてるし…アイツ、何やった。

「あ! リンネ」

 ずるずる襟首を掴んで引きずられながら、私に気付いてアイツが手を振る。

 なんだか、やけに和やかで呑気ですね。いつものことですが。

「グター、貴方どうしたの? 首を掴んで引きずられるなんて、穏やかじゃないわね」

「聞いてくれるか? 実はお前の為に北東の谷に咲く花を取りに行ったんだ」

「あら。ありがとう!」

「ああ、この花欲しがってただろ?」

 俺はちゃんと覚えてたぜ、と胸を張りながら自慢げに言う、アイツ。

 しかし、引きずられているので様にならない。

 アイツはそっと腕に抱えていた薄紅色の花束を掲げると、私に捧げてきます。

 なんだか、愛の告白のシーンに似た構図かもしれない。

「本当に有難う…丁度、切らしてたのよ」

「切らして…って、え?」

「ご苦労様、大変だったでしょう? 毒素の煙が吹き出す谷にしか咲かないんだもの」

「それは良いんだけど…切らしてって、え??」

「あれ? 言ってなかった? これ、打ち身によく効く薬になるのよ」

「え…!?」

「いつもは医療班全員で完全武装して探しに行くんだけど、最近暇がなかったから切らしちゃって。助かるわ。見つかりにくい薬草なのに、こんなに一人で見つけたなんて!」

「あ、あは…あははははっ」

「…? どうしたの、グター」

「はは、は………リンネが、欲しい訳じゃなかったのか…」

 どうしたというのだろう。

 いきなり乾いた笑いをあげ始めたアイツは、少し様子がおかしい気がした。

 だが、考えてみれば、いつもこんな感じだったかも知れない。

 不可解なものを感じつつも、ちょっとだけアイツの頭を心配した。

 問いかける視線で影君を見てみると、彼はちょっと肩を竦めるだけだ。

 しかし心なしか、その視線が同情の色を含んでアイツを見ている様な…

 いつもは同情される立場の影君が、逆に誰かを哀れんでいると違和感が。

 だけど影君にも同情されるなんて、アイツに何があったのだろう?

「それで結局、グターは何で引きずられているの?」

「ああ、実はグー様は単独で北東の谷に向かわれて。装備も完全ではないまま、ずっと花探しに没頭していたらしい。俺が捜し当てた時には、毒素の煙に当たって麻痺状態だった」

「な…! 大変じゃないの。何、愚かなことしてんのよ、グター!!」

 そんな馬鹿をしてまで花を集められても、私はちっとも嬉しくない。 

 さっきグターがくれた嬉しさが、心配と怒りで吹き飛んでしまった。

 これはきつく叱らなければと睨むと、アイツも思うところがある様で。

 しおしおと萎れていく様子に、ちょっと可哀想になった。

 様子を見かねたのか、可哀想になったのか、影君も擁護に回る。

「叱るのは簡単だが、グー様の熱意と成果を評価してやってくれ。彼は体が麻痺して倒れても、意識が朦朧としても、それでも参謀様が欲しがっていた花を手放そうとはしなかったんだから」

 諭す様な口調は、明らかにアイツを庇っている。

 その瞳には、同情と共にアイツへの敬意みたいなモノが見えた。

 いつの間に、二人は仲良くなったんだろう。

 初対面の印象は最悪だし、色々と互いに気にくわないところもあるみたいだったのに。

 ああ、でも、アイツは昔から、どんな人とも気付いたら仲良くなっていた。

 他人の親切を引き出す才能があるというか、私にはない人望が凄い。

 いつだって、気付けば他人を惹きつけている。

 知らない間にこんなに仲良くなった二人の姿を見ると、しみじみそう思うんだ。

 

 影君がしみじみとした哀れみで、アイツに優しくなっているとは思わなかった。




 その後、麻痺の未だ抜けないアイツの体が心配になって、私は午後の仕事を全て後回しにして看病に費やした。

 アイツは申し訳ないと思ったのか、やけに潤んだ瞳で泣きそうになっている。

 もしかしたら、毒素の影響で熱でもあるのかも知れない。

 やたら頬が熱を怯えているので額に額を当てたら、物凄く熱かった。

 思わずびっくりして、熱冷ましの薬草を取りに走ろうかと思った。

 だけどアイツは必要ないと言うし、影君も大丈夫だという。

 彼等に何が分かるんだろう? そうも思ったけれど、アイツは熱の割に元気そうだ。

 もしも毒素の影響なら、熱冷ましは効かないかも知れない。

 影君に指摘され、それもそうかと納得した。

 こうなれば地道に看病するしかないと、その夜は付きっきりだった。

 …昼の分、仕事の溜まった明日が怖い。


 しかし私が看病に精を出している後ろで、影君は手伝いもせずにずっと傍観していた。

 時折うんうんと頷いては、アイツに対して優しい目を向ける。

 偶に「良かったな、良かったなぁグー様」とか呟いていたけれど…

 アイツが傍で、高熱と麻痺に苦しんでいるというのに。

 一体、何が良かったというのだろうか?

 私は分からずに首を傾げて問いかける。

 しかし誰も教えてくれないし、結局何が良かったのか、私が知ることはなかった。

 



 

周囲の同情が凄い影君からの同情さえ、勝ち取るグター。

その位、リンネに振り回されて日常を過ごしている。


多分、麻痺を言い訳にリンネに物凄く優しくされた。

看病と称して「はい、あーん」とかして貰ったものと思われる。


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