35.5 たかいたかーい(高すぎて、星の海に逝きかけました)
ちょっとオマケ的なもの。短め。
『解放軍』に入る洗礼と称して、お兄さんが大技を繰り出した。
何の前触れもなく、唐突に。
再び引きずられる形で訓練場(元闘技場)に連れ出された、影君。
手も足も出ない(実は未だ簀巻きだった)彼が、売られていく仔牛に見えた。
相手は受け身も取れない姿だというのに、歓迎の儀式と称してお兄さんが吹っ飛ばす。
真っ直ぐ空に、垂直に。
アレは、雲を突き抜けたのではないだろうか…?
それ以前に歓迎の儀式とか、初耳なんですが。
ちょっと他の人に確認してみても、今までそんなことが行われた事実はないという。
お兄さんは、一体何がしたいのだろうか…。
「おい、アシュルー。アレは死んだのではないか?」
「あー? 大丈夫だろー。力量計るつもりで、手加減はしたんだぜ?」
「アシュルー…普通、身動きできない相手を空に打ち上げますか?」
「まずったか? 魔族ならいっかなーって思ったんだけどよ」
「…あの子は、混血ではないですか。純血程、頑丈ではありませんよ!!」
「ふむ。あのまま墜落したのでは、内蔵が潰れるのではないだろうか」
「冷静に言っている間に、回収しに行ったらどうなんですか! フェイル!?」
やはり、問題多き大人達は全員が揃うと騒がしくて仕方がない。
特に、規格外三人組が大変な騒ぎ方をしている。
私達が見上げる先、空に消えてキラリと☆になった影君。
上を見上げすぎて首が痛い。
だけどこうして見続けているのに、彼の上昇は止まる様子がない。
これは本当に、洒落にならないのではないだろうか。
「お兄さん、手加減下手になった…?」
ただでさえ、普段から手加減ができているとは言えない人なのに。
これは飛ぶことに書けては魔族随一の羽根の人か、竜人族に回収に行かせなければ。
でなければ、これは死ぬ。
冗談抜きに、これは死ぬ。
間違いなく、これは死ぬ。
やりすぎ感の溢れるお兄さん。(しかして、悪気と反省は見られない)
いきなりすぎる彼の暴挙に、その場は騒然と恐慌状態に陥った。
爆破魔さんと剣殺鬼さんが説教に回り、キレたお兄さんが乱闘を起こしかけ。
どう対応すればいいのか分からないままに、アイツとちっちゃい人が右往左往し。
あかい人と羽根の人が花束を供えだす。いや、未だ死んでないから。
それぞれがそれぞれの対応に走る中、何故かまともに影君の救出に動く者はなく。
敢えて言うならば、キラキラさんと妖精の少年がマットを取りに走ったくらい。
いや、マットを敷いたぐらいで助かる段階は、余裕で過ぎてるから。
影君の死亡まで秒読み段階。なのに彼等は自由すぎる。
そうこうしている間に助けに走れと私が怒鳴って、彼等はようやく動き出した。
「ひ、酷い目に遭った…」
簀巻きのまま、影君はぐったりしていた。
彼はよくぐったりしている人だ。
本人にとっては不可抗力であり、面白くないことだろう。
しかし初対面一日目にして、彼の印象がぐったりに傾くぐらい、疲労困憊している。
あの後、なんとか全力飛行で羽根の人が迎えに行き、全く失速することも降下することもなく常勝し続けていた影君は地上に生還を果たした。羽根の人曰く、あと少しで星の海に出てしまうところだったと言うが、それが何処まで本当かは知らない。ただ確かに、酷い目に遭った事実に間違いはない。
今日一日で彼が体験した目まぐるしい一日に、私達は同情を禁じ得ない。
混血と言うことで誰かに阻害されてもおかしくない、影の人の生い立ちだったが。
お兄さんの暴挙のお陰で同情が集まり、皆が彼に優しく接する。
目に見えて陰険だったり横暴だったりする対応は見られず、彼が受け入れられた事実に私達はホット胸を撫で下ろした。
…あれ?
もしかしてお兄さん、これを狙っていた…?
まさかと思いつつ、私達は疑惑の目をお兄さんに向ける。
その真相、彼が何を思っていたか。
それはお兄さんだけが知っている。
はい、内緒だそうです。




