地底世界の籠城戦(必死になった時、つまりは火事場の馬鹿力)
猛攻を開始した残り少ない敵達。
土壁の上から、迎え撃つのはあまり直接戦闘の得意ではない魔族達。
魔力を吸収する銀の刺草で敵の魔法を封じたは良いものの。
うっかりそれで自分達の魔法まで封じられるということ。
それに魔族が気付いたのは、敵が激しく土壁に身をぶつけた時だった。
「迎撃しますよ。罠、3番の発動を--」
「無理です! 魔力が作用しません」
「え。」
「ラティさんの刺草が、罠の魔力まで封じてしまっています。少なくとも発動条件を魔力に頼ったモノは、全て使用不可だと思われます」
「ええぇ!? ら、ラティ君、どうするんですか!」
「え、今更?」
襲撃者達は、己の知らないところで好都合な事態が起こっていることを知らない。
ただひたすら、突撃していく。
「あーあ、無謀…」
冷めた目の青年は、仲間と呼んだ者達を嘲笑う。
仲間達が丁度良く混乱状態になったのを良いことに、彼は仲間達から距離を取る。
このまま殲滅されるのを待つのは、彼の趣味ではない。
仲間だった者達が魔族の注意を惹きつけているのを良いことに、行動を開始する。
彼は先程から目を付けていた、光の届かない脇の方へと身を隠す。
そうして、期を計ってからひらりと身を翻し…
闇の中へ、姿を消した。
…つもりだった。
こちら、物見櫓の上の司令室(仮)。
メイラとラティは、方々へ下す指示に忙しい。
容赦なく進む展開と、動く状況。
それを見極めながら、やるべき事を部下に伝えていく。
「あ、壁の上から物を落とす作業は止めないで下さい! 地味にダメージ大きいから」
「こんなことなら、煮えたぎった油を用意しておくべきでしたね。もしくは熱湯とか」
「…『人間』のフリッターなんて、あまり見たくないんですけどね」
「でも、効果的なのは確かでしょ。矢の数も足りませんし」
やはり準備不足は否めない。
襲撃に気付いてから、期待以上の準備を整えたつもりだった。
それでも、いざという時になると、あれもこれもしておくべきだったと後悔しきりだ。
「うわっ 壁の一部が壊れましたよ!? 補修、補修しましょう!」
「そんな暇、ないでしょ。ほら、崩れたところからどんどん入ってきてる」
「うあっ 防衛しなきゃ! 皆さん、刺股の準備は良いですか!?」
「こちらは人数が少ないのに、刺股で効果あるんでしょうか」
「進路を誘導して、落とし穴スペースに誘い込むんですよ!」
「だからって、刺股じゃ飛び道具に対応できませんよ? それに味方の人数が少なすぎて、敵に取り囲まれ、嬲り殺しになるのがオチですよ。今の距離感を大事にしましょ」
「あんな乱戦状態で、飛び道具なんて用をなしませんよ。でも確かに、私達は数が少ないのは確かです。距離は確かに必要ですね。刺股を使うのは止めましょう」
「あの錯乱具合じゃ、血迷う人もいそうですよ。やっぱり、飛び道具への備えは必要じゃ?」
「…一応、魔族の肉体なら、半端な飛び道具は無駄だと思います」
「じゃあ、毒が塗られてないことを祈りましょうか。神に」
「さらっと最悪の状況を口にしますね!?」
メイラも中々に混乱しかけていたが、幸いにも頭は物を考えられる。
動かせる部下は数が少なすぎて、碌な対応ができていないが。
それでも足跡で作った『障害物コース』は、襲撃者のふるい落としに活躍していた。
「堀と築地で細い道を造った僕等が言うのも何ですが、なんで敵さんは素直に作った道なりに進んでくれるんでしょう。僕、ちょっと不思議です」
「それは錯乱していて、物がまともに考えられないからじゃないかな」
「それって、僕の功績ですよね。僕、素敵!」
「はいはい。そうですね、良かったですね?」
口で適当なことを言いつつ、メイラは胸の内でつまらないと思っていた。
折角、ルートを外れたら怒濤の罠が発動するように仕掛けておいたのに。
敵が素直に道に従ってしまった為、秘かにワクワクと待っていたコンポが発動しない。
「頑張って作ったのにな…」
予定では、道を外れた途端に落とし穴に落ちるところから始まり、16連鎖で罠が襲いかかるように頑張って調整したのだ。それが無駄になってしまって虚しいと思ってしまう。
「つまらないので、命令です。彼奴等を道から外させなさい」
びしっと部下に言い放つメイラの顔は、どこか暴君様を連想させた。
「あの暴走する連中を相手に、どうやって…?」
「それは貴方が考えることです。自分で何とかしなさい」
「それでは…ラティさん、刺草を貸して頂けますか?」
「はい、僕の刺草194号。大事にしてね」
「本当にラティ君、どれだけ刺草ばらまいたんですか!?」
刺草の恐怖が、再び襲撃者達に降りかかろうとしていた。
うぞり、うぞりと刺草が動き出す。
再び動き出した魔性の植物に、正気を捨てる勢いで前進だけを旨としていた襲撃者達の恐怖が煽られていく。彼等は刺草から距離を取る為、自然と道を逸れ始める。
本来であれば、襲撃者達も火を放つなどの知恵が回ったはず。
しかし悠長に火を付けている暇はなく、魔法を使おうにも魔力は刺草に吸い取られる。
刃物を振るおうと近寄ればそれこそ餌食となるだろう。
切り払うような攻撃のできない弓等の飛び道具は、意味を成さない。
彼等はそれこそ、逃げる以外の余地がなかった。
元々、刺草に恐慌を成しての行動が、今に繋がっている。
彼等の行動原理に深く食い込む程、刺草の恐怖は生々しく焼き付いていた。
そうして彼等は、罠に堕ちた。
サブタイトルに偽りあり?
結局、襲撃者達は火事場の馬鹿力を発揮できませんでした。




