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転生したおじさん、目立ちたくないけど傾聴スキルでモテまくる  作者: なごやかたろう
新人受付嬢編

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第1話 冴えないCランクのおっさん

 冒険者ギルドで働き始めて、半月。

 私は、まだ冒険者という人たちが少し怖い。


「……次の方、どうぞ」


 できるだけ明るく声を出したつもりだった。

 けれど、自分でも分かる。

 少し声が上ずっている。


「おう。依頼の報告なんだが」

「は、はい!」


 目の前に立った大柄な男性冒険者を見上げる。

 私より頭二つ分は高い。

 日に焼けた肌に筋肉質な身体。背中には大きな斧。

 受付嬢になったばかりの私からすれば、それだけで少し身構えてしまう。


「討伐証明はこれでいいか?」

「確認いたしますので、少々お待ちください」


 受け取った魔物の牙を確認する。

 手順通り。

 問題ない。


「はい。こちらで大丈夫です。報酬の受け取りをお願いいたします」

「おう」


 男性が去っていく。

 私は小さく息を吐いた。

 ……よかった。

 今日も怒鳴られなかった。

 別に、冒険者がみんな怖い人だと思っているわけではない。

 むしろ優しい人だってたくさんいる。

 ただ、身体の大きな男性が大声を出すと、どうしても委縮してしまう。

 昔からそうだった。

 だから私は冒険者になるのを諦めて、受付嬢になった。

 戦うことより、人を支える仕事のほうが自分には向いている。

 そう思っている。

 ……たぶん。


「リゼ、次のお客様お願い」

「はい!」


 先輩に声をかけられ、私は背筋を伸ばした。


「次の方、どうぞ!」

「……ああ」


 入ってきたのは、一人の男だった。

 年齢は……三十歳くらい?

 いや、もう少し上だろうか。

 中肉中背。

 特別鍛えているようにも見えない。

 顔立ちも、ごく普通。

 美形というわけでもなければ、目立って不細工というわけでもない。

 服装も普通の冒険者用装備。

 腰に剣を一本。

 その姿を見た瞬間、私は少しだけ緊張が解けた。

 この人なら大丈夫そう。

 そう思った。


「依頼の報告をしたい」

「はい。依頼書をお願いいたします」

「ああ」


 男は懐から依頼書を取り出した。

 私は受け取って内容を確認する。


「ええと……薬草採取の依頼ですね」

「そうだ」

「採取数を確認いたしますので、少々お待ちください」

「分かった」


 私は持ち込まれた薬草を数える。

 ……あれ?

 一つ足りない。


「申し訳ありません。こちら、依頼数より一つ少ないようですが……」

「そうか?」

「はい。依頼書では二十束となっています」

「なら、十九束だな」

「……はい?」


 思わず顔を上げる。

 男は平然としていた。


「一つ足りないなら十九束だろ」

「そ、それはそうですが……」


 思わず困ってしまう。


「依頼達成にはならないと思いますので……」

「じゃあ、一束分は報酬なしでいい」

「え?」

「十九束分だけ受け取ればいいだろ」


 私は目を瞬いた。

 そんなことを言う冒険者は初めてだった。


「ですが、依頼の規定では……」

「規定に沿わないなら、それでいい」


 男はあっさりと言った。


「無理に報酬を満額もらおうとは思ってない」

「……」


 なんだろう。

 変な人。

 いや、悪い意味ではない。

 普通なら、

「一束くらい誤差だろ」

 とか、

「全部納品したことにしてくれ」

 と言ってくる人もいる。

 なのに、この人はあっさり引き下がった。


「では、十九束分で処理いたしますね」

「ああ」


 私は書類を処理していく。

 すると、


「新人か?」

「え?」

「ここで働き始めて、まだそんなに経ってないだろ」

「……分かりますか?」

「ああ」


 男は私の手元を見る。


「さっきから書類を見るたびに、確認する回数が多い」

「……」


 恥ずかしい。

 やっぱり、まだまだなのだ。


「すみません」

「何で謝る?」

「いえ……」

「慎重なのは悪いことじゃない」

「……え?」

「慣れるまでは確認したほうがいいだろ」


 そう言って、男は笑った。

 ほんの少しだけ。


「そのうち、確認する場所も分かってくる」

「……はい」


 なんだろう。

 不思議な人だ。

 別に特別なことを言われたわけじゃない。

 なのに、少しだけ気持ちが軽くなった。


「それと」

「はい?」

「次の客が待ってるぞ」

「えっ?」


 振り返る。

 後ろには、すでに別の冒険者が立っていた。


「あっ……!」


 慌てて頭を下げる。


「申し訳ありません! 少々お待ちください!」

「別にいい」


 男はそう言って、受付を離れた。

 私は急いで次の冒険者の対応に入る。

 しばらくして。

 ようやく仕事が一段落したところで、私は先ほどの男がいた場所を見た。

 もういない。


「……名前、聞き忘れちゃった」


 そう呟いたところで、


「どうしたの?」


 先輩の受付嬢が声をかけてきた。


「いえ。さっきの冒険者さんなんですけど……」

「ああ、アルベルト?」

「アルベルトさん?」

「そう。Cランクの人よ」

「Cランク……」


 私はギルドカードの記録を確認する。

 確かに、Cランク。

 冒険者としては中堅。

 けれど、特別有名というわけではないらしい。


「長く冒険者をやってるけど、特に大きな功績はない人ね」

「そうなんですか」

「うん。ずっとCランク」

「……ずっと?」

「ずっと」


 先輩は少し笑った。


「だから若い冒険者からは、たまに『万年Cランク』なんて言われてるわね」

「そうなんですか……」


 さっきの姿を思い出す。

 確かに、目立つところはなかった。

 装備も普通。

 顔も普通。

 話し方も普通。

 冒険者としては、どこにでもいる中年男性。

 そんな印象だった。


「でも、悪い人じゃないよ」

「はい」


 私は頷いた。

 すると、


「リゼ」

「はい?」


 今度は受付嬢のリーダーであるマリアさんがこちらへやってきた。


「さっきアルと話してたでしょう?」

「アル……?」

「ああ、アルベルトのこと」


 マリアさんは自然にそう呼んだ。


「はい。依頼の受付をしました」

「そう」


 マリアさんは少しだけ笑う。


「どうだった?」

「どう、とは?」

「話してみて」

「えっと……」


 私は少し考える。


「……優しい人、でしょうか?」

「ふふっ」


 なぜかマリアさんが笑った。


「何か変でしたか?」

「ううん。別に」


 マリアさんはそう言いながら、アルベルトが去っていった扉を見る。


「昔から、あんな感じよ」

「昔から?」

「ええ」

「どれくらい昔から知ってるんですか?」

「私が新人だった頃から」

「そんなに……」


 私は驚いた。

 マリアさんが受付嬢になってから、もう何年も経っている。

 それだけ長い付き合いなのだろう。


「アルはね」


 マリアさんが少しだけ声を落とした。


「困ってる人を見ると、放っておけないのよ」

「……」

「だから、あまり気にしなくていいわ」

「何をですか?」

「あなたが失敗したとき」

「……!」


 図星だった。

 マリアさんは私の顔を見て、優しく笑った。


「まだ半月でしょう?」

「はい」

「半月で一人前になれる人なんていないわ」

「でも、同期の子はもっと……」


 言いかけて、私は口を閉じた。

 まただ。

 私はいつもそう。

 同期の受付嬢たちと自分を比べてしまう。

 仕事が早い子。

 冒険者とすぐに打ち解けられる子。

 怒鳴られても平気な子。

 私より背が高い子。

 私よりスタイルのいい子。

 ……胸だって。


「リゼ?」

「い、いえ! 何でもありません!」

「そう?」

「はい!」


 私は笑ってみせる。


「頑張ります!」

「ええ。その調子」


 マリアさんが去っていく。

 私はもう一度、アルベルトが消えていった扉を見る。

 さっきの男性。

 アルベルトさん。

 Cランク。

 特別な功績もない、普通の冒険者。

 それが、私が初めて彼に抱いた印象だった。

面白そう、期待できそうと思ったら、

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