第01話 神様の名代
何も無い…
目を開けているはずなのに何も見えない。白でも黒でもなく色がない。音も聞こえない。匂いもしない。声も出せない。立っているはずなのに上下すらわからない。何か触ろうとしても、感覚がない。
あるのは俺の意識だけ。それ以外はまったくの無。
(そうか、ここは死後の世界か)
遅くまで残業をしてからの帰宅中、土手を歩いていた時だった。トテトテと歩いていた子犬が川に入って流されそうなのを見つけたのが運の尽き。情け心を出して走り出したら躓いた俺の身体が思いっきり宙を舞った。1回、2回、3回… 痛みを感じながら転がったところまでが俺の記憶。
今、どこにも痛みがないってことはそういうことなんだよな。
あの犬はどうなったのかな。岸に戻れたのだろうか。
俺は死んだ…のか?
そして、俺はこの後、どうなるんだろう。
「吉澤 太郎」
さっきまで何も聞こえなかったのに、俺の名前を呼ぶ太い声がした。声のしたほうへ意識をやる。さっきまで何も見えなかったのに、俺の前に白装束の爺さんが現れた。
「誰?」
「儂は神だ」
(あぁ、やっぱり俺は死んだんだ。でも、神様登場なら地獄行きはないかな)
「お前は死んだ」
「はい。だと思った…」
「普通なら死んだ者は無になる。だが、今回はお前に使命を与える。再び命を授けよう」
「使命?」
「そうだ。最初に言っておくが、今から儂が言うことにお前に拒否権はない」
俺は黙って頷いた。
「お前には異世界に転生してもらう」
「転生? 生まれ変わるってこと?」
それから神様が言ったことは俺の想像を遥かに越えていた。
転生先は、日本の15~16世紀頃の戦国時代と同じくらいの文化水準。そこは小国がいくつも存在する。それぞれの国は自分の領地を主張し、時には争いを起こしている。理性的というより野性的な世界。
ここまで聞くと、まんま日本の戦国時代だ。
そして、俺の使命。
「その世界を統一してもらう」
「え? まるでリアル版『信長の野望』じゃん!」
「まぁ、そんなものだ」
「して、お前の立場だが、神の名代だ」
「え!? 神様の代理ってこと...ですか?」
「そうだ。一人では心許ないだろうから、三人の使徒を付ける」
少数でも仲間がいれば、不安は紛れるかな…
「俺は魔法を使えたり、チートな能力はあったりするんですか?」
そうさ。転生と言えばそういうもんだよね、勇者とかさ。それになんたって神様の名代だし。
「ない、一切ない。知識と経験が今までのものを引き継ぐだけだ」
うわぁ、日本の戦国時代相当の世界に三人の仲間を連れて放り出されるだけで相当ハードモードな上に、野蛮な世界で統一ときたら無理ゲーじゃん。
「俺、生前に何か悪いことしました?」
「いや、しとらんだろ。真面目に進学高校からそこそこの大学に入学して、ほどほどの企業に就職した。最後は縁もゆかりもない子犬を助けようとして死んだ。前科もないし、どちらかと言うといいヤツだ」
「ですよね~ なのに、この仕打ちですか」
「それ以上は聞くな。神にも諸事情があるのだ」
俺が死ぬも生きるも神様次第だし、そもそも拒否権はないと言われた。
はぁ、なんてこった...




