攻略対象、さん。
あけましておめでとうございます。
本年もどうぞ宜しくお願いします。
「はっ……私、もしかして初期攻略対象全員の当て馬に配置されてる!?」
どうもこんにちは、先日理不尽な目にあった私です。
何が言いたいかと言うと、悪役令嬢の皆様方から私不在のまま、ずっと彼ら相手の当て馬扱いされていたのでは?と遅まきながら気がついたわけです。
……なんて理不尽……!
正直、前世当時から初期攻略対象達は箱推ししてはいたけど、最推しではないのだ。なんていうか可愛い弟たちよ、みたいなね、微笑ましいものを見る感じで。
うんまあ精神年齢がね、あれだから、できればそこから前後五歳くらいの範囲内がいいなぁと思うわけですよ。
いや、まあ肉体年齢は第二王子殿下と同い年かつ宰相閣下の御子息より一歳年下なんだけど、それはちょっと横に置いといてさ。
そんな理由もあって攻略する気はなかったから、最初からイベントこなしてなかったし極力近寄らないようにしてたわけなんだけどね……、だからといって嫌われたいかと言われたら嫌われたくはなかったし、なんなら認知もされたくなかったのよ!
なのに歓迎会以降、よくよく周囲に目を向けてみたら、他の攻略対象からも地味に監視されてる気配がするわ、姿を認識した途端距離取られた挙げ句逃げられてる気がするわ、授業なんかでニアミスしたら睨みを利かせてくるわ、彼らの悪役令嬢が近くに居るだけですっ飛んでくるわ……私何もしてないのに、マジ理不尽!
とりあえずこの三ヶ月間様子見していて判ったことは、学園内攻略対象たちは一部を除いて、概ね誰かとくっついていることだった。私に敵対心を持った状態で。しかもアレ、学園内に投入された第二期攻略対象も、私を警戒対象にしてるよね?
ねぇ第二王子殿下の婚約者様、ゲーム開始前に、どこまで私の悪評広めてくれやがりましたのぉぉん?
私が実際に攻略対象へ言い寄っていたり、他のヒロインや悪役令嬢にアクション仕掛けたならまだしも……、第三ヒロイン様の警告だけで、あそこまでの警戒をされてるってどういうこと?
しかもさー、存在未確認の私を悪役にすることで、攻略対象との当て馬扱いにしてくれましたよね?
その所為で、私と第四ヒロインちゃんとのニアミスによってその警告が現実になりそうかも!って、元相メガネヒーローの妄想が炸裂した結果、私に実被害としてヒットしたのが前回ってことだよね?
りぃーふぅーじぃーんんーー!!!やぁだぁ!
しかも奴ら、私が退場した後、ラブラブ雰囲気だったしなぁ!
いや、落ち着こう、私。確かに当て馬にされたことは腹立たしい。本来悪役令嬢と書いて当て馬と読むものなのに、なぜ第一ヒロインの私が当て馬にされねばならんのだ、とは思わなくはない。
だが他ヒロインが選択された時、確かに第一ヒロインは当て馬役ではあった。ただそれは、おっとり純粋系である第一ヒロインの場合、虐め等を発しない純粋なる当て馬だったはずだ。
攻略対象に恋をしながらも相手を慮って身を引き、何なら応援かつお手伝いまでして、最後はハラハラと涙を流して「お幸せに……」とか言って、気丈にも笑顔を見せながら去っていく役柄。それが第一ヒロイン。まあ、私はおっとりでも純粋でもないので、そんな当て馬ムーブやる気はないんだけれども。
そう、進展のキッカケにはなっても毒にはならない。それが当て馬役だった時の第一ヒロイン。だと言うのにだな、なぜ私が悪役扱いされているのか。
むしろ見た目や性格もさながら、ゲームシナリオ的にもそういう悪役になるのは、第二ヒロインの方……、とその顔を思い浮かべていたらば。
「ねぇ!ちょっと助けてくれない!? 匿って!」
そう言いながら中庭のベンチで日向ぼっこしていた私に突撃してきたのは、今ちょうど容姿を思い浮かべていたヴィヴィットピンクのツインテール。
ちなみにヒロインに転生したと気がついた時、第二ヒロインじゃなくてよかったー、と思った理由はこの髪の色と髪型にも起因する。マゼンダとまでは行かずともなかなか派手な色合いで、自分が転生するならちょっとご遠慮したいキャラであった。中の人、地味な方が落ち着くのでね。
「はぁ……?」
突進した勢いのまま、私の背中に回り込むと、しゃがみこんでベンチの下に隠れた。恐らくベンチを盾に体を隠しているつもりだろう。地味に雑草が繁ってるんだけど、テキリスゲ(キレる)生えてない?大丈夫?オナモミ(くっつく)もセンダングサ(くっつく)もあるのかしら、この世界。
「ここに美しいチェリーピンクの女性は来なかったか……あ!お前噂の尻軽女だな!? 彼女をどこへやった!」
「……ア゛ァン?」
思わず笑顔で凄んでしまった。
眼の前には華奢で低身長のお目々クリクリ銀髪オカッパ美少年が立っている。先程の「ア゛ァン?」に若干怯んだ様子だ。
コレあれだ、|二歳年下の飛び級天才美少年だ。
なるほど、第二ヒロインはショタ好きだったか。……いや、逃げてたな?私と一緒で悪役認定……ちがうな、美しいって形容詞が付いてたな。……形容詞がかかった名詞は髪色かな?容姿かな?どっちもか。まあ、どうでもいいか。……逃げてきたってことは予定外に好感度が上がりすぎたってやつかな……?
第二ヒロインは第一ヒロインと同じく最初からヒロインポジションである。
ゲーム公開初期時は、この二人から動かすヒロインを選び、ストーリーを進めて行くことになる。選んだヒロインによって個別スチルがあったので、コンプリートのためには結局二人共選択せねばならないわけだけど、ヒロイン保存枠を増やすのに課金が必要でまんまと運営の策略にハマる……、いや、今それは関係ないか。
攻略対象たちには各個別に障害が配置されている。それとは別に、初期攻略対象たち相手に第一ヒロインを選べば第二ヒロインが、第二ヒロインを選べば第一ヒロインがもうひとりの恋敵として登場する。
第二ヒロインを選択した場合、自身の好感度が上がれば、第一ヒロインは応援系当て馬になる。真の障害に対抗するフォローまでしてくれるお助けキャラになるのだ。
因みに、第二ヒロインが当て馬として登場した場合、ギャグ系ショボ悪役として登場する。……うん、おつまみみたいなギャグ系悪役令嬢として出てくる。最後はモブに紛れてハンカチ咥えて「キーッ!」とかやっちゃう悪役令嬢になる。……私が第二ヒロインに転生しなくて良かったと思った理由の一つでもある。
眼の前のショタ枠にも、ストーリー上割り振られた障害が居る。第二ヒロインが順当に彼を攻略するのであれば、本来私は恋敵から涙ながらに身を引く応援役となり(やらないが)、対応した悪役令嬢が立ちはだかるはずなのだ。
断じて悪役は私ではない。もう一度言う。私では、ない。悪役令嬢は別にいる。
「……こちらに美しいチェリーピンクの髪をした愛らしい少女が来たはずだ! 彼女をどうしたんだ!」
“美しい”に“愛らしい”が追加されたぞ?なるほど美しいは髪色にかかる形容詞だったのね、へぇ。
ていうか何故私が何かした前提で会話が進むのか。
私はわざとらしい溜息をついた後、わざとらしい微笑みを浮かべて見せた。
「あなたはどちら様です?」
「はっ?僕を知らないと?」
お前もか、自意識過剰マンめ!前世の私は知ってるけれども今世の私は知らねぇですよ!
「存じ上げません。初めてお目にかかりましたし。同学年にしてもお小さいようですが」
「……なっ!僕はお前より若いだけだ!それに僕を知らないなんて嘘だろう!僕を狙っていると聞いたぞ!」
どうやら小さいことはコンプレックスらしい。まあ十四歳だとね、男の子は発育が遅めだし。心配せずともその内成長するだろうけど。て、いうかぁ、
狙ってねぇよ、誰から情報だよ。
いやいや、私冷静になろう?
「あら、私第一学年なのですが、私よりも年下でこの学園にいらっしゃるという事は、飛び級でもなさったんでしょうか?だとしたら素晴らしいことかと思いますが、このような不躾な態度を取るのは、学園生としてはふさわしくないかと愚考いたしますわ。マナーを学び直してからご入学された方が宜しいのでは?それに狙うとはなんのことでしょう?今初めてお会いしましたし、在籍される学年もクラスも存じ上げませんし、お名前も存じ上げませんが?」
スクっと立ち上がって右手を頬に当てて、困惑顔を浮かべながら右に首を傾げる、と言うお嬢様困惑ポーズをキープ。これで多少ショタ枠の目線が上がるので(私の方が身長が高い)、第二ヒロインから目が逸れるでしょ。わぁ、私やっさしー。
因みに声はちょっと大きめで滑舌良く。私は彼を知りません。私、被害者。そう、唐突に難癖つけられて困ってる被害者なんです、私。周囲にちらほら見かける野次馬の方々、いいですか?私、被害者なので!と言うアピールでもある。いや、ほんとに無実なんで。
「なんで僕を知らないんだ!二年飛び級して、入学前テストでは総合二位を獲ったんだぞ!何故知らない!」
「興味がなかったもので」
無駄に薄くて細い胸を張るショタ枠。いや、可愛いなぁ。難癖つけられてる立場で思うのもなんだけど。
とはいえ、推しの枠には入っていなかったショタ。可愛くても興味が無くてね……。
因みに、ゲーム情報的には当然記憶していて、確か全体総合点で一位が第二王子、学術部門では宰相閣下の御子息が、魔術部門では魔術師団長の御子息が、剣術部門では騎士団長の御子息がそれぞれ一位を獲っている。つまり魔術師団長と騎士団長の各息子たちも攻略対象と言うわけなのだが。
……うんまぁ、間違いなくこの二人にも知らぬうちに毛嫌いされてるんだよねぇ。第二王子の側近であり幼馴染って設定だからなぁ、影響があって然るべし。会いたくないなぁ……クラス違うから今のところ接近せずに済んでるんだけど。
「きょ、興味がないだと!?」
ショタ枠は顔を真赤にして怒鳴った。ええぇ、おこるところぉー?じいしきかじょー……。
「興味を持つ理由がございませんので」
「入学した初日に、皆あれ程僕のクラスにまでやって来て、なんだったら進路妨害になるくらいに話しかけようとしてきたのに?」
「そんなことがあったのですか?」
「昼に食堂へ向かえば誰が隣に座るかで揉めたり、帰りは馬車停めまで行くにも苦労して、挙げ句空き教室に引きずり込まれたのに……?」
「それ、どれも私は参加しておりませんね……。というか……引きずり込まれた話は教師に伝えました?それ、相手が女性だったとしても抗議するべき案件ですが」
いや、それふつーに犯罪では……?ちょっと可哀想……トラウマになってない?
「引きずり込んだのは男性だった……。チェリーピンクの天使が助けてくれたので……教師には……」
うわぁ……ヤベェ匂いがいたしますね、うん……こんだけ可愛いとね。気持ちはわからなくもないが。そんでそこを助けた第二ヒロインにフォーリンラブしちゃったのか、しかも天使ときたか。
そして状況が状況だけに恥ずかしくて第三者には言いたくない、と。まあ名誉を考えるならば言えないか。私に言っちゃってるけど。
……大丈夫?君、チョロくない?
「そこで何をしているの!?」
突然、ショタ枠の後方から更なる登場人物の声がかかる。これは……
「姉上!」
銀髪美少年が振り向くと、同じ銀髪美少女が駆け寄ってきた。彼女の異母姉。つまり……彼にとっての個別悪役令嬢だ。
「大声を出していると思ったら……何かあったの?」
「姉上、あの、チェリーピンクの天使を追いかけていて……」
「あなた、また彼女を追いかけていたの……?やめておきなさいって言ったじゃないの」
「でも……」
「王太子妃殿下が忠告してくださっていたでしょう?彼女も……いえ、とにかくこちらにいらっしゃい!」
そう言うと、銀髪美少女はショタ枠の手を引いて、淑女限界の歩幅でずんずんと立ち去っていった。
……私は無視かーい!そんでやっぱお前か第三ヒロイン!
なんだろう、第二王子殿下のご婚約者様は、あの姉弟の仲を取り持ったのかな?
ストーリー上では、後妻とその息子をどうしても受け入れられない腹違いの姉が才気溢れる弟のゆく先々で延々とケチつけるという関係。
あの姉弟はお互いに誤解しているところがあるので、それを紐解いて上げるのが銀髪オカッパを攻略するキモになるわけだけど。
第二王子専用悪役令嬢が断罪されるのには、実はこのショタ、関わりがない。断罪回避対策を考えるならば、彼に関しては接触不要だったはずだ。そもそもストーリー上ほぼ関わらない。彼女の断罪に関わるのは、第二王子と側近三人衆及び教師一名のみ。これはゲーム開始当初から変わらない仕様だ。
あれかなぁ、「解決できる不幸は見て見ぬふりなんてできない!ヒロインには悪いけれど、本当に相手が運命の人であるならば、攻略なんて関係なく恋人同士になれるはずだわ!」とかいう偽善思考と言い訳で、第二王子以外のルートも全潰しして歩いてた、とか?
それともワンチャン、ハーレムルートでも狙ったんだろうか。……本人に直接確認できないのがちょっと残念かも。
でも私理解した。彼女、そこら中に関わってフラグ折りまくったせいでメリバ、じゃなくて、第二王子攻略RTAを最短更新したんだな……。
ただまぁ、ゲーム開始前にショタのお悩みを解決したところで、彼と悪役令嬢は異母姉弟なだけに、恋のお相手にはならないのよね。だから、今でも彼を攻略しようと思えば可能なわけ、だけども……。
どうやら彼のお眼鏡にかなったらしい、ベンチ下の第二ヒロインちゃんに思いを馳せる。
「ひぐっ……怖い……攻略対象怖いぃ……」
あっ……第二ヒロインちゃんも転生者でしたか……何をされたか存じ上げませんが(知りたくもない)、大変ご愁傷さまです。ショタ枠君はあなたにゾッコンのようなので、もう諦めて攻略されていただけると助かります。
その攻略対象は差し上げますので。
*
*
*
『その攻略対象は悪役令嬢に差し上げますが、 』 私が幸せになるルートはありますか?
お読みいただきありがとうございました!




