二度会って三回目
「リトさん!始めるよ!」
日が変わって昼過ぎ。
自分と料理人もとい教官のリトと広いグラウンドみたいな場所にいます。
「おお!いつでもいいぞ!」
「よし…『スイッチ・ブレード』!」
自分が右手に持っていた武器が光り出す。
なんでこんなことしてるかというと時間を遡らせます。
「効果のわからない魔法の実験をしたい?」
場所は食堂。ここでは料理人のリトと相談をしていた。
「うん。ミヅチは今いないしナギサさんとシズクさんは外に出かけてるし…何か簡単な模型はないか聞きたかったんだ」
「ふーん簡単な模型で実験か…」
リトは読んでいた本を置き、椅子から立つ。
「よし。なら僕がその実験体になろう」
「えっ!?いいの?」
大丈夫?もしかしたらあの衛星光線みたいな魔法の威力かもしれないんだよ?
「もしかしたら人体にしか効かない魔法もあるだろう?だったら必要だろ?実験体」
うっ…流石教官。自分の思い付かないことを言うのが上手いな…
「大丈夫さ。僕のレベルは94だからそこそこの魔法じゃ死にはしないさ」
ミヅチとレベルが近いな。確かにそれなら強い魔法を食らっても大丈夫そうだ。
まぁ回復してあげればいいんだけどね?
「で?おそらくこの世界で数人しかいないレベル120超えのマコトさんがわからない魔法とは?」
褒められてるのか馬鹿にされてるのかよくわからないこと言ってるけど気にはしない。
「えっと『スイッチ・ブレード』って魔法なんだけど…」
「うーむ…もしかしたら自分の剣を強化するとか?」
あれ?自分剣って装備できましたっけ?
「何がともあれとりあえず実験しないとね。武器庫から武器を持ってこようか。マコトさんの武器もあった方がいいでしょ?」
まぁ確かに今まで素手でしたからね。
でも筋力あるからね。一発素手でぶん殴れば多分ゴブリンくらい余裕で倒せそうだけど。
か弱い女の子がゴブリン集団に素手で殴り込みっていうのもありかもしれないけど。
「さぁ、マコトさんが使いたい武器を選んでね」
「おお…」
ズラリとテーブルに並べられた武器を見る。
直剣や曲剣、メイスや大剣など色々ある。
「でもあんまり重いのは嫌だな…」
これでも一応魔法使いだし。一番軽い短剣かな。
「ん…?これは…!」
自分は一つの武器を手に持つ。
この長い鞘と、柄はもしかして…
試しに鞘を抜いてみると、見たことのある刃をしている。
「お?その刀を使いたいのかい?」
そうサムライソードもとい刀です。
いやでもこんなファンタジー世界で刀って!
「この刀は一体…?もしかして珍しい武器?」
「いや別に?その刀はどこでも作れる刀だよ?もしかしてマコトさん刀の武器種知らなかった?」
「あ、いやそういう訳じゃないけど…」
あれ?刀って普通の武器?珍しくもなんとも無い?
「うーん…とりあえずこれ使ってみたい」
「よしわかった。それじゃ外に出よう」
時は戻ってきて、外の場所。
「…『スイッチ・ブレード』!」
詠唱すると、持っていた刀が光り出す。
「…あれ?」
なんか体が軽くなったような…?まぁいいか。
「ふっ!」
「えっ!?」
おおう!?なんだこの速さ!?
一瞬でリトの目の前に移動したぞ?
リトとお互いに驚いてるよ。
「やぁ!はっ!」
そのままリトは自分の刀と受け合いになった。
でもだんだんリトが押されていく。
「ちょっとマコトさんストッ…プ!」
「っとと、ごめんなさい」
斬り合いを止めて、静止する。
リトは立っては受け切れずしゃがみこんでいた。
なんだ今の…剣なんて使ったことないのにあんなに素早く綺麗な剣さばきができるようになったぞ…?
「あっ!まさか!」
自分はすぐにスキル一覧を見る。
「ふー…マコトさんなにかわかったのかい?」
「やっぱり…」
どうやら自分の予想は当たったようだ。
スキル一覧を見るとまず魔法使い系スキルが減っており、代わりに剣術強化、移動速度上昇など、剣術系スキルが沢山あった。
しかも刀の武器種関連スキルもあった。
「ってことはそのスキルは擬似的に剣士になるってことかな?」
「うーん剣士というよりかは魔法剣士かな」
攻撃、回復魔法は変わらず残ってるので魔法はいつも通り使うことができると思うし。
しかもステータスも剣士のステータス値になっている。
まぁ相変わらず異常値なのは変わらんが。
「でもこういうスキルには大体…あった。『リターン・マジック』!」
詠唱すると刀から放たれる光は消えていく。
そしてスキルも元の妖術師のスキルに戻っている。
「魔法使いと油断させといて刀でぶった斬ることもできるな」
完璧に不意打ちだけど。
「でも状況に応じて使えるから使えるね」
リトからのアドバイス。うん。ミヅチより明らかにリトのほうがギルドマスターに合ってると思う。
「よしじゃ次の魔法使うけど…大丈夫?」
「ん?全然大丈夫だよ」
流石は教官。あれだけ強い斬り合いをして平気とは…
自分だったらもうギブアップしてるね!
という訳で次の魔法です。
次の魔法は多分実験体いらないと思ったのでリトさんには横でアドバイスしてもらいます。
「『マジックチェンジ』!」
「………」
「………」
「……あれ?」
何も起きない?なんで?
「何が条件があるんじゃない?」
あ、他の魔法を二つ唱えないといけないんだった。
「じゃあ…『ウィンドバレット』!『アースバレット』!」
ちなみに自分には魔法を三つまで同時に詠唱できる分割詠唱というスキルがあるので二つとか余裕で詠唱できます。
空中に二つの魔法が留まる。
「よし…『マジックチェンジ』!」
これで魔法が発動するはず!
「………」
「………」
「……あれれ?」
また何も起きない。空中に止まってる魔法は継続力がなくなり、その場で消えていく。
「うーん…わからん」
魔法の組み合わせとか?条件はあってるとは思うんだけど…
「あ…もしかして…『フレイムバレット』!」
とりあえず一つ目の魔法を詠唱。そして…
「『マジックチェンジ』!『フロストバレット』!」
二つの魔法の間に詠唱すると、二つの魔法が重なった。
「えい!」
飛んでいった魔法が着弾すると炎と氷が同時に爆発する。
なるほど混合できる攻撃魔法ってことか。
「自分の好きな組み合わせで使ってね!ってことね」
「…なに言ってるの?マコトさん」
やべ。声に出てた。
とりあえずわからなかった魔法は把握できたので街を歩くことにした。
「しかしこうやって歩いてるだけでも楽しいな」
前の世界にはない感じ?っていうのかな。
見たことのない物がたくさんあるからね。
まぁ大体通行人が普通じゃないってのもあるけど。
「やっぱり獣人多いな…」
通行人にケモミミついた人が多いのだ。
でもなんかやけに多いような…
そういえばミズチが確か獣人が差別化されつつあるとか言っていたような…
ドン!
「ひゃっ!?」
「っと!?ごめん!」
考え事してたら前の人とぶつかってしまった。
どうやら帽子を被った少女のようだ。
「大丈夫?怪我はない?」
「…大丈夫です」
ぶつかってしまった帽子の子は足早に去っていった。
「無愛想…って言えるような立場じゃないか」
前の世界では自分だって無愛想だったし。
でも友達はいたよ?ちょっと特殊な人ばかりだけど…
「っていかんな…前世のことを考えると戻りたくなる心が出てきそうだ」
このファンタジー世界から出るなんてまず考えたくもないことだし!
てかあの子の被ってた帽子、キャスケット帽だったな。
この世界にもあの帽子はあるのか。
ドン!!
「おいゴラァてめぇ!どこに目付けてんだよ!」
「っくりした…」
声の聞こえる方を向くと大柄の男が騒いでいる。
「なんだなんだ?」「なんの騒ぎ?」
どんどん人が集まってくる。
厄介事は嫌なのでこの場から逃げようとする。
「…ぶつかってきたのはあなたの方ですよ」
ん?なんか聞いたことある声だぞ?
「ああ?何言ってんだお前!よそ見してたのはお前だろ!」
なんか気になるな…ちょっと野次馬に混ざろうかな?
騒ぎの中心をみると不思議な光景があった。
大柄の男と向かい合ってるのはなんとあの帽子の少女だ。
「なにがあったんだ?」
状況がよくわからないので近くの人に聞いてみた。
「ああ、なんかぶつかって揉めてるんだよ」
おいおいそれだけかよ!どこの古い不良だよ。
誰か止めないかなー。流石にこんな状況を続けられるとこっちも恥ずかしいんだが。
「って自分が止めればいいじゃん」
なんせたぶん最強魔法少女だもんね!
早速止めに行くため、二人の前に進む。
「ああ?なんだてめぇは?」
「あなたは…」
さて。まず最初の言葉が重要かな。
静止言葉か、それとも単刀直入に言うか。
しかしこの大柄の男は弱そうだなー。
多分鑑定系のスキルあったらザコなんだろうけど。
とりあえず静止させる言葉を使おう。
「なにかあったかはよくわかりませんが、やめましょうよ?強そうなザコさん…あ」
「ああん?誰がザコだぁ!?」
やってしもうたー!
ついでに褒めてみると思ったらいらん言葉増やしてしまったー!
「あーえっとですね…まぁこんな所で騒い━っで!?」
「ふっ!」
「ぐわぁ!」
まさかの帽子の少女が自分を踏み台にして飛び蹴りである。
「ってなにやってんの!?」
しかも結構重い音がしたぞ!?
まずい!このままじゃ多分…
「やりやがったなこのガキ!」
ですよねー。そりゃ怒りますよね。
「ん。助かったじゃあね」
帽子の少女は自分に礼を言って逃げていった。
あれ?これはまさか…
「おいお前のせいで逃がしちまったじゃねぇか!」
標的が自分になった。最悪だ。
「んー…そうだ!」
「ああ?━っで!?」
油断させといてからの足払い!
「自分は悪くないぞー!」
そして全力で逃げた。
「てめぇ!まちやがれ!」
多分あちらも全力なんだろうけどどんどん姿が見えなくなる。
所詮は雑魚か。
ふっ、生かしておくだけ感謝するんだな!
なんか街に出るたび疲れる思いをしなくちゃならないような気がする。
「今日も災難だったな…ん?」
ギルドに戻ってきてみると身に覚えのない靴がある。
てかこの靴どこかで…
「あ!マコトさんお帰りなさい!」
「シズクさんただいま。誰かお客さんとかいるの?」
「いえ違いますよ!マリさんが帰ってきたんです!」
「マリ?一体誰?」
「ギルドにいなかったんですが今日帰ってきたんですよ」
ああ。あの三人の他の人か。
「挨拶しないとね…どんな人なん…だ…ろう……」
「ん?あなたはあの時の…」
そ…その見覚えのあるキャスケット帽子は…
「なんだ?もしかして知り合いだった?」
そう。あの大柄の男に絡まれていた帽子の少女だった。