7つ星
明日花はあの山根さんでした。
学校と普段は違うみたいですね。
「だいやるぅーまわしてぇーてをとめぇーたぁー」
「今はアドレスから指一本ね。金庫でも開けようとしてるのかしら。通報ね」
最後にママが痛烈なツッコミを入れていた。
今日は最後のスナック集合…
皆それぞれ別の道に進む。
中原さんは学校給食、倉ちゃんはまた別の会社の社員食堂、野原さんは介護施設の給食だ。
「中原さん、大変お世話になりました。倉ちゃんも野原さんも…」
「ユウくんも頑張ってね!」
「はい。学校給食はかなり体力使うって聞きます。腰やられない様に気をつけて下さいね」
「そうなんだよねえ。でも子供相手って初めてだから楽しみだよ。」
「ユウくん、また定期的にコレ開催するから絶対顔出すのよ!私は新しい出会いに胸躍るわ」
「はい。いいちこはそのまま置いていきます。倉ちゃん、不倫は歌だけにして下さいよ。」
「ユーキくん、新しい所でも頑張ってね!良いお話期待してるわ」
「野原さんもありがとうございました。仕事以外でも色々勉強になりました。」
「ナニソレ!私も次あった時は恋愛秘技教えちゃうからね!」
「ちょっと参考にならなさそうですが…宜しくお願いします。」
今日は仕事納めだったので遅くまで飲んで特に倉ちゃんはベロベロになって何だか泣き出して何とか解散してそれぞれ帰って行った。
あのスナックはまるで家みたいに暖かかった。
ママはお母さんかお父さんか最後までよく分からなかったけど…
集まる皆も個性的で家族みたいに暖かかった。
俺には帰る家が有るんだと思えるだけでこれから進んで行ける勇気が湧いてくる。
帰り道空を見上げた。
今日は晴れて空気が澄んでいた。
そう言えば暫く空を見上げる事も無かったなあ。
ずっと下を向いていたのかも知れない。
少しずつ俺も変わって来ているんだろう。
空を見上げる気持ちになったのは、佳奈ちゃんがくれた最後の言葉に後押しされたのかも知れない。
北斗七星が見えていた。
佳奈ちゃんが指差して笑ったセブンスターは今は吸って居ない。
セブンスターを捨てた代わりに俺は6つの星に出会った。
あと1つは何なんだろうなあと北斗七星を見ながら思った。
○○○○○○○○○○
『20○○年のオリンピック代表強化選手に選ばれたのは田口、木下、蘇我、山根…」
鞠保さんの店で働き出して3年経とうとしていた。
俺も29になった。
相変わらず俺は独立とかの希望もなく、鞠保さんが俺に解雇通告するまで側に居続ける気満々だ。
料理に専念出来て、色々勉強にもなる今の状態が性に合っている。
まあ所詮上に立つ器では無いことは自分が1番よく分かっている。
休憩時間になったので店の外のゴミ捨て場に併設されている灰皿の側に居た。
結局吸うのは俺だけだが、俺の為に作ってくれた。
料理人が喫煙は本来宜しく無いとは思うが…
まあ俺は一流は目指してないので大目に見てほしい。
「ここでタバコ吸ったらダメだよ!」
「良いんだよ。私有地だし喫煙スペースだ。」
「また煙が目に入って泣いても知らないぞ?」
「大丈夫だ。電子タバコにしたから煙は出ない。久しぶりだな明日花!元気にしてたか?」
「この通り、忘れないで夢を、愛と勇気だけが友達さ!」
「何か顔ちぎってパンチされそうだな…折角だから何かご馳走してやる。何食いたい?」
「やった!じゃあなあ…ビーフシチュー!此処の旨いってきいたぞ!」
「ははは!やっぱり明日花は少し違うなあ…オッケー。なら来い」
「どうだ?旨いか?」
シチューを頬張りながらコクコク明日香は頷いている。
あれから3年…明日花も18かあ…
やっぱり少し大人っぽくなったなあ…
でもレストランにジャージで来てる所はやっぱり明日花っぽい。
自然に笑顔になってしまった。
「所で今日は急にどうした?」
「ユーキとの約束を果たしに来たぞ。」
「何だ?」
「言ったろう?オリンピック目指すって」
「ああ…何か言ってたなあ」
「強化選手に選ばれたぞ。まだ代表じゃないがな。」
「うわっ!マジかよ!」
「マジも大マジ!見ろこのジャージ、日の丸付いてるだろ?ニュース見てないのか?強化選手に選ばれた山根明日花。」
「何か流れてたかもだけど…まさか明日花とは思わんだろう。スゲーなお前…」
「良い女になったか?」
「良すぎて目が眩んでるわ…」
「そりゃ良かった。で、ユーキはあの後良い事あったか?」
「うーん、そうだなあ…ちょっと待ってろ」
「うん?何だろう。分かった」
「ほれ。頑張った明日香にご褒美だ。」
「何だこれ!?凄いな」
丸い大きなチョコレートが皿に乗っている。
「それを上にかけてみろ。熱いから気をつけろよ」
「分かった」
そう言って小さなピッチャーに入ったミルクのソースをかけた。
「うわっ溶けた!中から何か出てきた!」
「お前から借りてたピンポン返してやる。それでオリンピック目指せ。」
明日花は自分を指差して
「良い事これか?」
「そうだな。お前が良い女になったからな。俺も約束守って付き合ってやるよ」
そう言って明日花にキスをした。
明日花は顔が真っ赤になっていて、あの勝負の時と変わらなくておかしくなって笑ってしまった。
「笑うなよ!」
明日花が怒っていた。
俺は色んな人から貰った6つの星をピンポンに添えて7つの星を明日花にあげた。
今回は鞠保さんが辞めた経緯や、荒木の初仕事はどんなだろう?と言う思いで書きました。
あとは「変な奴」にほんのちらっとだけ出た山根さんも個人的に気になってたのもあります。
今回の詐欺事件は個人的に少し思い入れがあって、学生の頃この手のモノにハマっておかしくなって行った先輩が身近にいたので何とか啓蒙の意味も込めていつか話しに出したいと思っていました。
当時はカルト全盛期でオ●ム真理教が猛威を奮っていました。
洗脳されて段々人格が変わっていく人を間近に見て恐ろしかったのを強烈に覚えています。
そう言う思い出があるので、自己啓発やら今流行りのコンサル等は胡散臭いとしか思えない捻くれ者です。
まあマトモなモノも有るんでしょうが…
今回も多少ヘビーな内容も有りましたが、年の差カップル、お幸せに!と言う事で。
ここまでお読み下さり有難うございました!