太陽
あの後、中原さんが鞠保さんのお店に紹介してくれて、面接をした。
「君は○○ホテルで一緒にやってたね!覚えてるよ。」
「本当ですか!?嬉しいです!」
「私はね、料理する事が楽しくて、好きでしてるかどうかは分かるんだ。自分がそうだからね!」
成る程…
中原さんが言ってた通りだった。
「中原さんは私の道標みたいな人なんだ。やっぱり一人で選択して行くのは難しいよね。色々な人に出会って色々な考えを聞いてそこから教わる事ってとても多いよね。」
「はい。俺も最近特にそう思っていました。中原さん始め、色々な人に出会って人の考えを聞いて、考えて、前を向いていける様になりました。」
「田村くんとは気が合いそうだな!宜しくね。」
「此方こそ宜しくお願いいたします!」
俺は色んな星に導かれ、教えられて来た。
俺を最初に引き寄せて導いてくれた佳奈ちゃんは流れ星になってしまった。
でも…佳奈ちゃんが色々な星に巡り合わせてくれた。
恋多き明けの明星の倉ちゃんは無理に変わらなくて良い事を教えてくれた。
この先に進んでも良いと背中を押してくれた野原さんはポラリスみたいに動かない信念があった。
進む道を作ってくれた荒木さんはリゲルみたいに力強かった。
皆んなを優しく見守って育ててくれた中原さんはしし座流星群みたいな優しい雨みたいな人だった。
そして…
鞠保さんはまさに俺の中心にいる人…
明るく輝く星、太陽みたいな人だ。
俺はその軌道を巡り巡ってまた戻って来た。
俺はぼんやりあの茶色いビルを眺めていた。
あのビルは近い内に取り壊されるらしい。
老朽化と、やはり飛び降り自殺があったのも原因だろう。
鞄から佳奈ちゃんから貰ったジッポーを取り出した。
手に取ったのは鞄に入れた時以来だった。
怖くて、佳奈ちゃんが死んでしまった現実から目を逸らせてずっと触れないでいた。
多分オイルなんてすっかり揮発して火は着かないだろうなあとジッポーの底を持ち上げて中を見た。
普通はここにスポンジみたいな綿が入っていて、そこにオイルを染み込ませる。
しかし、開けた中身は綿は詰まってなくて紙切れが入っていた。
何だろう?と開いて見た。
『夢を見つけて幸せに生きてね』
一言書いてあった。
「おい!ユーキ!」
呼ばれて振り返ると明日花が鬼の形相で仁王立ちしていた。
「なんだお前、また泣いてるのか」
「煙が目に染みたんだよ」
「タバコなんて吸ってないだろう。嘘つくな」
「さっき消したんだよ」
「お前、最近ずっと訓練サボってたから叱ってやろうと思ったけど、泣きべそ見れたから許してやるよ」
「そりゃどうも。ゴメンな。最近色々忙しかったんでな。」
「それで良い事は見つかったか?」
「どうだろうなあ。良い人には色々出会った。これから良い事が有るかもなあ。」
「そうか、もう少しかかるか。」
「多分今日で明日花ともお別れだ。俺はもうすぐ新しい仕事になる」
「そうか…なら、今から卒業試験するぞ。道場に来い。」
「へいへい」
そう言って明日花について行った。
「今日こそは私に1勝してみせろ。」
「うーん、普通にやると絶対勝てないよなあ」
「では三本勝負だ。いくぞ。」
そう言ってあっという間に2回負けた。
最後くらい1回は勝ちたいなあと思った。
「明日花…お前、俺の事好きだろう?」
明日花がサーブする寸前に言ってやった。
「なっなっなっ」
明日花は顔が真っ赤になってサーブミスをした。
「卑怯だぞ!ユーキ!」
「ははは!これが大人の悪知恵よ!」
「くそー。しかし約束は約束。スポーツマンシップに則って何でも言うこと聞いてやる。言ってみろ。」
「そうだなあ。なら、良い女になれ。そうしたら付き合ってやるよ。」
「良い女って何だ?どうなったら良い女なんだ?」
「そうだなあ…夢を持って頑張るって事かな?」
「分かった。ならオリンピック目指してやる」
「ははは!デッカくでたなあ!まあとりあえずは関東1を目指して頑張れ!期待してるぞ!」
「舐め腐りやがって。とりあえずユーキが良い事見つかるまでピンポンは預けとく。私はお守りに頼らず実力でのし上がってやる。」
「期待してるぞ!元気でな!」
お守りに頼らず実力でのし上がるか…
佳奈ちゃんもこれ位の気持ちが有ったらまたあんな物に縋ることもなく違った未来があったのかな…
とぼんやり考えていた。




