12.仮眠スキル強し
「『疲労軽減・時短睡眠』って、私にも使えるかしら?」
スキルに聞いてみると、
『はい、使えます。体を横にして目を瞑り、『疲労軽減・時短睡眠』オンと唱えると、30分ほどの仮眠で3−4時間睡眠を取っただけの疲労が回復します。身の回りの危険がない状態でお使いください』
と、視界の端のウィンドウに表示された。
「使えるみたいです。この子がお昼寝した時に試してみます!」
教えてくれてありがとうございますと頭を下げると、アーサーさんは首を振った。
「昼まで待たず、今寝た方がいい。もし嫌じゃなければ、俺がフィオをその間見ていようか」
「え……いいんですか?」
「朝から川に魚を釣りに行ったから、今から休憩しようと思っていた。その間フィオを見ている分には構わないよ」
私の目の下の隈を見て気を遣ってくれたのだろう。
天の助けとばかりに私はお願いして、彼を屋敷の中に招き入れた。
「この空き部屋のソファで休んでてください。私は奥の寝室で仮眠させていただきます。フィオに何かあったら、気にせず起こしてくださいね」
「ああ、大丈夫だ。ゆっくり休んでくれ」
「あうあー」
私はアーサーさんにフィオを預けて、寝室に向かうとベッドに横になった。
寝不足の体は、まるでベッドに沈んでいくようだ。
「≪慈しみの抱擁»発動、≪疲労軽減・時短睡眠≫オン」
そう唱えると、光が私の周りを暖かく包み込み、一瞬で私の意識は消えていった。
「ーーーーーは!」
目を開けると、屋敷の白く高い天井。
寝過ごしてしまったのではないかと思うほど、熟睡した感覚があった。
重かった頭やだるかった体は、誰にも起こされず長時間眠れた日のように、すっきりと軽い。
反射的に赤ちゃんのフィオの方に向かうと、隣の部屋にはソファにゆっくりと腰掛けたアーサーさんが、腕の中にフィオを抱いたまま静かに本を読んでいた。
窓から入る風に銀髪が揺れ、本のページをめくる微かな音がする、穏やかな風景ーーそれはまるで、彼がフィオの本当の父親のように見えた。
「起きたか」
入り口に立つ私の姿に気がついたアーサーさんがこちらを見る。
「はい。私、どのくらい寝てましたか?」
「ちょうど30分だな」
ポケットから取り出した懐中時計を確認しながら、アーサーさんが冷静に告げる。
「すごい、仮眠とは思えないぐらい疲れが取れました! 教えてくださりありがとうございます」
「良かった。これから活用するといい」
アーサーさんが教えてくれなければ、育児チートスキルがあっても、気が付かずに夜泣き対応に体力とメンタルを削られていただろう。ありがたい助言だった。
さらに、フィオを見ていてくれてすぐに寝かせてくれたのも助かった。
「いい子におとなしくしていたぞ」
「うー!」
たくましい彼の左腕におさまったフィオは、ニコニコと笑っているので、ソファの向かいの席に座る。
「昨日は結構夜泣きをしていたみたいだな。夜通し世話するのは疲れただろう」
「も、もしかして泣き声がそちらの家まで聞こえて、ご迷惑かけてしまいましたか……?」
夜中に赤ちゃんの声がうるさいという、隣人トラブルになりかねないと私は焦ったが、
「いや、違う。俺のスキルの特性なんだ。『五感強化』といって、視覚や嗅覚、聴覚が人よりも良い。だから少しだけ泣き声が聞こえただけで、迷惑ってわけじゃない」
アーサーさんは気にしないでくれと、首を横に振った。
「目や耳が研ぎ澄ますことができるので、森の中で狩りをする時に重宝している」
「なるほど、このあたりに住むには最適なスキルですね」
村の近くではなく、人気の少ないこの辺境に住んでいるのは、食料調達に困らないだけのスキルを携えているからか、と納得する。