表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/15

05 いざ、聖地巡礼!


 三人が目的地である"ルミナの生家“についたのは、ロゼルフィーユの三回目の「ルミナはそんなこと言わない」という発言が飛び出し、ネリネとラナンが根気強く「まったくロゼ様のおっしゃる通りですわ」と言った時だった。


「それにしても、どうして男爵家でもなく、わざわざ生家に?聖地巡礼ですの?」


 ネリネ、痛恨の失言である。


「ネリネ、このおば……っ」

「そうですわね。確かに疑問に思うのも無理はありませんわ」


 ラナンは「おばか」と言いかけた口をすぐさま閉じた。


 どうやら、今回ばかりは、"ルミナが聖女"であることが幸いしたらしい。


 聖地巡礼という単語に、ロゼルフィーユは過剰反応を示さなかった。純粋に、聖女ルミナの痕跡を辿る単語だと理解したらしい。ほっと、ラナンは息を吐く。


 二人の伯爵令嬢は、この美しく聡明で、己にも他人にも厳しいロゼルフィーユを自分の主人のように敬愛していたが、同時に、「聖女ルミナが絡むとちょっと様子がおかしくなる」ことを、身に染みて理解していた。


 うっかり「聖女に相応しいのも、王配に相応しいのもロゼ様ですわ!」と発言してしまった時の地獄を、彼女たちが忘れたことはない。


「まず大前提としてですが。(わたくし)は、あのルミナが死んだとは思っておりません」

「「……。勿論ですわ、ロゼ様」」


 少し間を空けて、二人が息ぴったりに答える。

 ロゼルフィーユは満足そうにそれを眺めて、口を再び開く。


「だって、あの女が殺しても死ぬとは思えませんもの。私が決闘を挑んで、渾身の魔法を放っても、『もうロゼルフィーユさんっ、手加減なんかしないでくださいっ!』とか言い始める女ですのよ。悪意なし、善意100%、ああ、タチが悪い!!恐ろしく簡易的なバリア魔法で、あっさり封じられた気持ちが分かってっ?むしろあんなのと相対する魔王に気の毒さを覚えたレベルですわ」

「ロゼ様、お気持ちよくわかります」


 ラナンがすかさず答えた。


 これ以上続けさせると、いつまで経っても話が終わらないと判断したからだ。ロゼルフィーユは、そんなラナンをじとりと見た後、咳払いをした。


「……とはいえ、(わたくし)とて、感情論だけで言っている訳ではありませんのよ。ネリネ、その根拠が分かって?」

「ええと……ご遺体がないから、でしょうか?」

「よろしくてよ。その通り」


 ロゼルフィーユに満足気に微笑まれたネリネは、緩む口角を抑えられないようにもじもじとした。ラナンがすかさず、ネリネを膝で小突く。


「セディリオ殿下は、魔王の二番手たる将軍と交戦をしていたそうですわ。そして魔王には、聖女ルミナが単騎で臨んだと。……まぁ、賢明だとは思いますわ。そもそも、魔王の防御は、他の魔族とは桁が違う。"光魔法"以外の一切が通じませんもの」


 セディリオが嘘をついている可能性を、ロゼルフィーユは一瞬だけ考慮した。


 だがすぐに、"ルミナが死んでいると嘘をつく"意味が何一つないなと思い直した。それに、あの王子が、幾ら狡賢さを備えつつあるからと言って、人間の死を偽装するとは思えない。


 それに、己があんなにも顔に出るセディリオから、嘘を読み取れない訳がないという自身が、ロゼルフィーユにはあった。


 ルミナの事を語るセディリオの瞳には、間違いなく、深い哀しみがあった。つまり、彼の認識では間違いなく、ルミナは死んだのだ。


「では、何を持って殿下は、"ルミナが死んだ"と判断したのか?例え魔王が塵芥になったとて、ルミナもそこにいなければ、普通は"行方がわからなくなった"とでも評するのではなくて?」

「それは……確かに、そうですわね」


 ネリネが頷いた。


 ロゼルフィーユは、先ほどからうずうずと、答えたそうにしているラナンに視線を向けてやった。発言を許されたラナンは、ぱあっと顔を輝かせた後、こほんと咳払いをした。


「初代聖女さまの伝説と、同じだからではないですか?ロゼ様」


✴︎

「魔王は、何もずっと存在していたわけでも、代替わりした訳でもありません。伝説の初代聖女様が、封印を施されたのです。"魔王が再び蘇る時、光魔法を扱う聖女が、彼を討ち滅ぼす"と言葉を残されて」


 ルミナの出身地だという村は、王都から馬車で二時間ほどの場所にあった。


 夕方にもなると、もう家の中にいるのか、人の姿はまばらである。横並びの令嬢三人が歩いていても、光景こそは異様であるが、見咎める村人の姿自体がそもそもなかった。


 夕焼けが差し込む中で、解説役を賜ったラナンが、歩きながら得意げに続ける。


「ですが、初代聖女様は、魔王の封印を施すと同時に、"姿を消して"しまった。封印を施された魔王は、塵のように消え失せて…聖女様も、同じ運命を辿ったのだと言われていますわ」

「その通り。だから殿下は、魔王共々ルミナがいなかったのを見て、すぐさま、ルミナが初代聖女と同じく、儚くなられたのだとお考えになったのでしょうね」


 ロゼルフィーユの言葉に、二人は頷いた。


 何故、この村に来たのかまでは理解しきれていないようだったが、ロゼルフィーユの足取りは迷いがない。黙ったまま、二人は彼女の後をついていった。


 やがて、ロゼルフィーユは一軒の家の前で足を止めた。


 村の中でもとびきり簡素な、小屋といった方が相応しいような家だった。躊躇うことなく、ノックのひとつもせずに、ロゼルフィーユは、ドアノブを引いた――――鍵がかかっている。


開け(オープラ)


 これまた躊躇いなく、ロゼルフィーユは、解錠の魔法を掛けた。


 見かけ上は簡単そうに見えるが、光で細長い糸を作り、隙間から侵入させて後ろからノブを引かせるという、結構ややこしい代物である。


 公爵令嬢が習得していてほしくない魔法ランキングを開けば、真っ先に上がるかもしれない、盗人のような魔法で、ロゼルフィーユはドアを開けた。


「さすがです、ロゼ様っ」


 とはいえ、この程度でネリネとラナンのロゼルフィーユへの忠誠心は揺るがない。


 他の令嬢がやっていたら「信じられない」「盗人と同然ですわ」と罵倒する二人だが、ロゼルフィーユがやったという事実だけで、「さすがロゼ様」に変換されてしまう。なんて都合のいい忠誠。


「結構、埃っぽいですわ。気を付けなさい」


 中を覗き込んだロゼルフィーユはそう言って、家の中へ入って行った。


 ネリネとラナンも、入り口からでも見えるその埃っぽさに少し面食らったようだが、『地の果て、天の果て、最果ての魔王城まで』という誓いに偽りはない。ずんずんと中へ進んでいく。


「ロゼ様、ここは……?」


 家の中は、外観通り、ひどく簡素だった。


 だが存外に中は見た目よりは広く、三人がきちんと横になって、何度か寝返りを打てる程度にはある。もう使われていないだろうが、キッチンもあった。つう、と戸棚の上の埃を指先でなぞって、ロゼルフィーユが指先にふう、と息を吐く。


「ルミナの生家よ。男爵に引き取られるまでの」


✴︎

 ルミナという、彗星のように現れ、自分よりも華々しく光魔法を扱う女を見て、ロゼルフィーユは最初、この女はこう見えて、自分よりも努力しているのではないかと考えた。


 だが、ルミナを知れば知るほど、自分のその考えの浅はかさを、ロゼルフィーユは思い知ることになる。


 ルミナは、努力らしい努力を、()()()()()()()のだ。


 初めは、それでも影に隠れて努力しているのだろうと思った。だが、違う。ルミナという女は、端的に言えば、ひどくものぐさだった。


 魔導学院の寮に住んでいる彼女は、休みの日は昼過ぎまで惰眠を貪り、夜は恋愛小説をただひたすら、それこそ、日が昇り始めるまで読む。


 本を開いたまま眠ったかと思うと、目を覚まし、ベッドサイドに置いてあったお菓子を貪り食うと、「え〜、わたしなら絶対その男は選ばない〜っ」などと文句を言う。もはやその姿は、親の脛を齧って暮らす、ダメ貴族そのものである。


 こっそりルミナの周りに監視の蝶を飛ばし、その視界を水晶玉で覗き見ていたロゼルフィーユは、わなわなと震えた。


「ま、まさか、この女……」


 水晶玉をがしりと掴む。


()()()()()()()()()()の!?」


 そう、ルミナは、本当に何もしていなかった。


 聖女だのなんだのと持て囃されているが、あの女は、惰眠と間食をこよなく愛する図太い女であることを、ロゼルフィーユはよく知っている。だがそれを誰かに言ったことはない。こっそりルミナを見ていたのがバレるからだ。


 結論は、"ルミナの規格外の光魔法は、本当に、ただの才能"ということだ。


 それがわかってからは、ロゼルフィーユはその強さの秘密を探るのは辞めた。時間の無駄だと思ったからだ。こんなことに時間を費やすのは愚かだと、握りしめていた水晶玉を捨てた。


 だが今は違う。


 ルミナが、初代聖女と同じように消えたのなら、探るべきは一つだと、ロゼルフィーユは考えた。きょとん、とした顔で自分を見上げてくる友人二人に答える。


「ルミナの母方のルーツを探ろうと思いましたの。光魔法は、確かに稀少ではあるけれど、宿すことならできる。(わたくし)がそうであるように。ただ、ルミナのあの光魔法は、やはり尋常ではありませんわ。そうなると、初代聖女様と、何か近しいのではないかと思いましたの。本当に消えたのなら、初代聖女様の消失の理由を探ればいい……でも、考えてみなさい。もしルミナが、"初代聖女様の直系の子孫"なら?」

「……あ。初代聖女さまは、死んでいない……!実は生きておられて、その後、子を成したということですわね……!?」


 ロゼルフィーユは、にっこりと頷いた。


 それから、三人の令嬢は、手分けして家の中を探した。小さな家なので、さしたる時間は、かからなかった。やがて三人は、自分の成果を報告しあった。


「私が見つけたのは、綺麗な貝殻ですわ!」

「なんの。私は、お花の栞を見つけましてよ!」


 ……まあ、結果は、見ての通りである。


 元よりロゼルフィーユも期待はしていなかった。初代聖女とルミナが本当に直系の関係にあったとして、それを裏付ける証拠が、何年もこの家に放置されているとは思えないからだ。


 コンコンと、家の扉をノックする音がした。ネリネとラナンは警戒の姿勢を見せたが、ロゼルフィーユは手でそれを制した。何が来るのかはわかっていたからだ。


「グレイシア嬢、こちらを」


 ドアを開けてすぐ、一人、青年が立っていた。

 

 甲冑姿の彼は、ルミナの死を記した手紙をロゼルフィーユに渡した伝令兵だった。殿下、彼にきちんと休みをやっているのかしら。後で問い詰めようと思いながら、ロゼルフィーユは、王家の封蝋がされた、彼が持ってきた手紙を受け取った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ